慶応義塾大学ストレス研究センター副センター長の白波瀬丈一郎先生は精神療法をご専門とされています。今回は白波瀬先生が中心となって立ち上げたKEAP(KEIO Employee Assistance Program)という、職場復帰支援を中心としたメンタルヘルス支援プログラムの特色についてお話をうかがいました。
KEAP(KEIO Employee Assistance Program)は職場復帰支援を中心としたメンタルヘルス支援プログラムです。その特色をご説明するときに、分かりやすい例として、骨折したプロ野球選手のレギュラー復帰へのプロセスを例にとってお話させていただくことがあります。
(イラスト:慶応義塾大学ストレス研究センターおよびKEAPのサイトより引用)
プロ野球選手が骨折して故障者リストに入ったとき、骨折が治ったからといっていきなり公式戦のマウンドに立つわけではありません。ギプスをして安静にしている間に筋肉は落ち、関節は固まってしまいますので、日常生活が送れるようにリハビリを行います。
ではそれができたら試合に戻るか?いいえ、その前に練習を開始しなければなりません。そして練習を続けて調子が戻ったらテスト登板……これはあくまでも一例ですが、復帰までにはしかるべきプロセスがあるはずです。しかし、メンタルヘルス不調の場合は、精神科医が働いてもいいと言ったら、いきなり公式戦のマウンドに立たせようとしてしまうことが多いのです。
あるいは、復帰する人に対してどんな配慮をすればいいかという助言を、精神科医に求めたりもします。しかし、精神科医はどうすればレギュラーに復帰できるかを知っているわけではありません。そうすると、再び故障しないことを第一に考えて、とにかく無理をさせないようにと配慮するあまり、いつまでもレギュラーに復帰できないような制限をかけてしまうこともあります。うつの人が職場に復帰するときにも同じようなことが起こっているのです。
あるいは、精神科医が職場への復帰を許可しても、周囲の同僚や上司はどう接していいか分からず、腫れ物に触るようになってしまうことがあります。復帰と同時に休職前と同じ負荷がかかってしまうのも問題ですが、いつまでたっても仕事を任されないというのも、本人にとって大きなストレスになります。
また、いつになったらレギュラーに復帰できるのか分からない状態にとどまり続けなければならないというのもストレスになることがあり、再び悪化する要因になる可能性もあります。
そこで、復帰までのプロセスをプロ野球選手と同じように「見える化」し、標準化しようというのがKEAPの元々の発想となっています。プロセスを可視化することで、本人に対して、今のあなたはこういう段階にいますという説明がしやすくなります。
また、周囲に対しても同じことが言えます。一般にうつの人に頑張れと言ってはいけないという認識がありますが、たとえば、次の段階にステップアップした人には、率直にしっかり頑張れと言ってもよいのだという説明ができるようになるからです。
当事者にとっても、また復帰を支援する人にとっても、今自分が何をすべきか、あるいは何をしてあげられるかが明確になるという利点が、KEAPというプログラムを開発した大きな理由です。
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東京都済生会中央病院 健康デザインセンター センター長
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