免疫機能を惹起する(引き起こす)ことができるペプチドの研究が始まって20年。WT1は、がん免疫療法においてもっとも臨床を優先すべき抗原として認められました。この研究は、大阪大学杉山研究室で始まり、現在は京都府立大学付属病院と共同研究が進められています。ワクチンの特性や効果、副作用などについて、京都府立医科大学付属病院の橋本直哉先生にお話をうかがいます。
WT1の中から、免疫を惹起させる部分(アミノ酸)だけを取り出して、ペプチドの配列を人工的に変え製剤化したものがペプチドワクチンです。また、HLAの上にのることができるペプチドを構成するアミノ酸のうち、特定の部分を人工的に変えると、免疫を強力に賦活できる (免疫原性が強力に上がる)こともわかっています。
ペプチドには免疫原性(抗原の免疫を引き起こす性質)があるため、ワクチンを患者さんに打つと、皮下にいる樹状細胞が「敵がきた」と認識します。たとえば腕に打つと、樹状細胞が腋窩リンパ節(リンパ球が集まる場所)に移動して、キラーT細胞(リンパ球)に「このペプチドを持った侵入者がきたらこれは敵だぞ」と教えます。WT1はがん特異的な(がんにしかない)抗原であるため、キラーT細胞は正常細胞を傷つけることなくがん細胞だけを攻撃することができます。このキラーT細胞は、血中などあらゆる臓器をまわって目印(抗原)を持っている細胞を見つけ、自ら認識して攻撃します。
ペプチドは、9個のアミノ酸の配列のうち1個を変えるだけで免疫が賦活できることもわかり、これらは簡単に合成できます。また、たとえば樹状細胞をすりつぶしてワクチンにするなど免疫療法はたくさんあります。これはWT1タンパクの一部のアミノ酸配列(ペプチド)を使っているのでWT1ペプチドワクチンと呼ばれます。
ただし、同じWT1に対するワクチンでも、ワクチンの種類は無数に考えることができます。我々の研究においては2番目のメチオニンをタイロシンに変更したバージョンですが、たとえば、1番目のペプチドの2番目を何かに変えるなど違う配列を使用して、さまざまなパターンのワクチンを作ることができます。
実際にどのようにがん細胞を攻撃しているか試験管の中で再現してみると、複数のキラーT細胞(リンパ球)がひとつのがん細胞を集中的に攻撃していることがわかりました。この実験結果を目にするまでは、キラーT細胞とがん細胞の戦いは1対1の白兵戦だと考えられていましたが、それは誤りでした。
またこの映像によって、それまでがん治療に免疫療法が効かないといわれていた理由のひとつも明らかになりました。キラーT細胞は複数で攻撃しなければならないので、ひとつのがん細胞に対して何十個も必要だったのです。つまり、過去の研究ではがんを死滅させるだけのキラーT細胞の数が不十分だったのです。このように、ワクチン開発によって免疫を強力に惹起できたことで、新たな事実を見つけることができました。
ワクチンの効果と予後例
研究により、生存期間が延長して完治といえる程度に長期生存する患者さんが出てきたため、現在WT1ペプチドワクチンは治験段階に入っています。
過去の研究結果から、がん関連抗原が出ている病気ならば免疫治療の効果が見込めると考えています。たとえば、膵がんにはWT1が効くと考えられます。大腸がんならばMAGE-1(がん関連抗原のひとつ)が効くなどわかっているので、それに対する有用なペプチドがあれば治療に十分効果があると考えられます。
ただし、第4の治療が必要な悪性腫瘍に比べ、ほかのがんは抗がん剤が発達していますし、十分な治療の選択肢があります。そのため、なかなか免疫療法にまでたどり着かないといえます。
グリオーマは、抗がん剤がテモゾロミドという一種類しかないため、これが効かなかった場合の治療法を考える必要がありました。効果も安全性も保障されない新しい薬を投与することは、倫理的にも医療の面でも非常にリスクが高く危険性があります。BNCTや免疫療法は、そういった難治性といわれるがんのために発展しているのです。
京都府立医科大学 教授 脳神経外科学教室
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