インタビュー

糖尿病性腎症の患者さんを人工透析に移行させないためにできることとは

糖尿病性腎症の患者さんを人工透析に移行させないためにできることとは
武田 一人 先生

飯塚記念病院 内科外来 腎・生活習慣病センター長

武田 一人 先生

この記事の最終更新は2016年01月05日です。

腎臓の機能が失われて人工透析を受ける患者さんの数は2012~2013年にすでに約30万人を超え、その原因疾患は糖尿病性腎症が首位となっています。飯塚病院では毎月延べ1200人ほどが透析外来に通っていますが、「腎臓内科医の役割は人工透析に移行させないこと」と仰る腎臓内科部長の武田一人先生に、糖尿病性腎症についてお伺いしました。

糖尿病が原因となって起こる合併症には、「糖尿病性腎症(腎臓)」「糖尿病性網膜症(目)」「糖尿病性神経障害(手足などの末梢神経の病気)」の3つがあります。いずれも進行すると人工透析や失明、下肢の切断など重大な結果を招く病気です。

糖尿病性腎症は、症状のないままに進行することが多く、健診などの際に行われる尿検査でタンパク尿を指摘されて発見されることも少なくありません。糖尿病の患者さんの約3分の1が発症するといわれており、腎不全の進行も非常に早く、病気が進行して残腎機能(残された腎臓の機能)が5~10%程度になると人工透析が必要になります。

糖尿病性腎症は、その進行程度によっていくつかの病期に分類されます。病期は尿検査の結果は、正常で自覚症状がない初期の段階から人工透析治療が必要となるまで6段階にわけられています。

《糖尿病性腎症の病期分類》

①第一期   腎症前期 : 尿検査では正常。自覚症状はない

②第二期   早期腎症 :尿検査で微量アルブミン尿が認められるようになる。自覚症状はない

③第三期   顕性腎症前期 : 尿検査で持続性たんぱくが認められる。自覚症状は通常はない

④第三期B  顕性腎症後期:尿検査で持続性たんぱく<1g/dl以上が認められる。高血圧合併は多いが自覚症状はあまりない

⑤第四期   腎不全期 :尿検査で持続性たんぱくが認められる。浮腫に加えて悪心や倦怠感などがある

⑥第五期   透析療法期 :透析治療中である。透析治療を行わなければ尿毒症などによって死に至る

2000年に飯塚病院に着任して今年で15年になりますが、これまで腎不全で透析に移行した患者さんは650~700人です。筑豊地区の人口は減少傾向にあるとはいっても、飯塚病院で透析治療を受ける患者さんの数は着任当時とあまり変わりません。救急外来に悪性高血圧、末期腎不全による急性肺水腫で救急車搬送される患者さんが多数いました。

一つの病院で1か月間に発生する急性腎不全の患者さんの数は、総ベッド数のおよそ4%といわれています。飯塚病院は1000床を超えているので、単純に計算しても月に40人。1週間で10人です。そのうち約3割の人に血液透析を施行しなくてはなりません。大多数は透析から離脱しますが、不可逆性の障害であれば、救命できなかったり、救命できても慢性透析へ移行したりします。

一方、末期腎不全となり、慢性透析導入へ移行した患者さんの予後(粗死亡率)は全国平均で8~9%です。飯塚病院は3~4%ですので全国平均と比べると非常にいい成績だといえます。

しかし近年、透析患者さんの高齢化、高齢者の透析導入が増加して、透析導入後の予後は悪化の一途をたどっています。

透析へと移行する患者さんの大都市でも平均年齢は70~75歳、当科では78~80歳であり、透析導入後の5年生存率は67~68%です。ただし、今後は高齢化が問題になることが懸念されています。

例えば80歳で透析を開始すると、通常であれば約1年で死亡します。飯塚病院では3年後の生存率は9割で、予後(治療後の経過)は比較的良いのですが、3年半経過する認知症を合併する割合が増加します。最近は、糖尿病を持っていると通常の2倍アルツハイマーに罹患することがわかってきました。しかし現状では、そういった認知症を発症した患者さんに対する治療手段や社会的なリソースがありません。高齢化にどう対応していくかというのが、今後の大きな課題だといえるでしょう。

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    武田 一人 先生

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  • 飯塚記念病院 内科外来 腎・生活習慣病センター長

    日本内科学会 総合内科専門医日本腎臓学会 腎臓専門医・腎臓指導医日本透析医学会 透析専門医・透析指導医

    武田 一人 先生

    飯塚病院腎臓内科部長。平成12年5月に着任して以来15年間が経過。現在腎臓内科医師10名、慢性血液透析患者約180例(サテライト含めて)、慢性腹膜透析患者約50例を維持しており、医師をはじめ看護師、薬剤師、管理栄養士などのコメディカルとのチームで腎疾患総合医療に取り組んでいる。保存期腎不全治療では、特に糖尿病性腎症による腎不全症例の集学的治療に取り組み、約1,100~1,300例/月の保存期腎不全症例をフォロ-アップしている。筑豊地区の約45万の原発性糸球体疾患の検査治療、保存期腎不全医療、急性腎不全および慢性透析導入治療、慢性透析患者の合併症を含めて総合的に腎疾患治療を担っている。毎年、西部腎臓学会、日本透析医学会、日本腎臓学会、日本高血圧学会に参加、演題を発表し、国際学会には国際膜透析学会(ISPD)、ヨーロッパ透析移植学会(ERA-EDTA)、アメリカ透析学会(ADC)にも医師、看護師の演題を発表するなど臨床研究にも力を入れている。

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