インタビュー

糖尿病性腎症の慢性期治療。透析治療の未来とは

糖尿病性腎症の慢性期治療。透析治療の未来とは
武田 一人 先生

飯塚記念病院 内科外来 腎・生活習慣病センター長

武田 一人 先生

この記事の最終更新は2016年01月07日です。

糖尿病の合併症として起こるのが糖尿病性腎症です。いくつかの段階を経て進行していきますが、その背後には様々な病気が隠れている場合も少なくありません。長い経過を辿るため、慢性疾患として治療を続けていくことが余儀なくされます。飯塚病院の腎臓内科部長である武田一人先生に、慢性期医療としての糖尿病性腎症の現状についてお話を伺いました。

最近は「健康寿命」などといわれますが、病気を持っていても健康に日々の生活を続けていくというのが慢性期医療です。以前は、こういった概念がありませんでしたが、それから15年間かけて、この概念を筑豊地区で広めながら慢性期医療に取り組んできました。

誤解されていることが多いのですが、慢性期と急性期は全く異なります。慢性期治療とは、安定した外来を継続する事が目標であり、急性期化しないような治療が重要です。慢性腎不全とは、腎臓の機能が慢性的に徐々に低下している状態のことで、外的な因子がなければ、2~3か月間で急に悪くなったというようなものではありません。

腎臓の機能は加齢で低下し、25歳の時を100%とすると、75歳時には自動的に50%にまで機能が低下します。高齢者イコール腎不全といっても過言ではありません。通常、腎臓の機能は年に1%程度低下していきますが、慢性腎不全の場合は年間に2~3%落ちていきます。ところが、糖尿病になると腎臓の機能が年間に10%低下するのです。要するに、タンパク尿が出たら一直線で腎機能が低下していくことになります。ですから早い段階で治療を始めなければならないのです。

腎臓疾患の早期発見はがんなどと比べると容易にできます。検尿や血液検査をすればいいだけです。しかし、患者さんはタンパク尿が出てもなかなか治療には来てくれません。なぜなら、「自覚症状がない」「痛みがない」「これといって困った症状が起きていない」からです。そのために放置されてしまいます。

高血圧学会の発表によると、高血圧症の患者は約5000~6000万人、そのうち治療している患者数は1000~1500万人程度と、病院で治療を受けている方は高血圧症患者の5分の1にすぎません。しかし、たとえ治療を受けていても、血圧が下がっている方はそのなかのさらに5分の1だといわれています。

高血圧を放置している方は20~30代の若い世代でもみられます。腎臓が悪くなると食塩が体外に出ませんので、どうしても血圧が高くなるのです。若い年代で高血圧を放置するとさまざまな合併症を起こしやすくなります。糖尿病合併症で下肢の閉塞性動脈硬化症を起こすと、下肢神経障害も伴って、足の切断を余儀なくされることもあります。足の切断後に関しては生命予後(治療後の経過)がよくありません。通常糖尿病、慢性腎不全があって、片足を切除した場合は5年以内、両足の場合だと1年以内に患者さんは亡くなられます。生命予後に大きな影響を与える足の切断ですが、下肢の血行障害は糖尿病ではなくても高齢化すれば疾患罹患率は増加するのです。

以前、筑豊地区には透析導入施設が3つありましたが、現在は1つの医療機関がなくなりました。もう1つの医療施設の透析患者数は、もっとも多かった頃と比べると約5分の1程度に減少したようです。

飯塚病院での透析患者さんの推移については、2000年当時とあまり変わりはありません。筑豊地区の人口減少率は7~8%程度で減ってきているはずですが、透析を導入する患者さんの数には変化がないので、おそらく他の地域からも受診されているのではないでしょうか。

透析医療の今後について、将来的には糖尿病性腎症の発症が低下していくと考えられます。最近は膵臓を疲労させない治療法もかなり出てきました。また膵臓のランゲルハンス島を含む人工膵臓もIDDM(1型糖尿病)に移植可能段階にもうすぐ到達すると思います。おそらく東京オリンピックが開催される2020年、遅くともその5年後、2025年頃までには、糖尿病性腎症は治る病気となっているのではないかと期待しています。

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    武田 一人 先生

    飯塚病院腎臓内科部長。平成12年5月に着任して以来15年間が経過。現在腎臓内科医師10名、慢性血液透析患者約180例(サテライト含めて)、慢性腹膜透析患者約50例を維持しており、医師をはじめ看護師、薬剤師、管理栄養士などのコメディカルとのチームで腎疾患総合医療に取り組んでいる。保存期腎不全治療では、特に糖尿病性腎症による腎不全症例の集学的治療に取り組み、約1,100~1,300例/月の保存期腎不全症例をフォロ-アップしている。筑豊地区の約45万の原発性糸球体疾患の検査治療、保存期腎不全医療、急性腎不全および慢性透析導入治療、慢性透析患者の合併症を含めて総合的に腎疾患治療を担っている。毎年、西部腎臓学会、日本透析医学会、日本腎臓学会、日本高血圧学会に参加、演題を発表し、国際学会には国際膜透析学会(ISPD)、ヨーロッパ透析移植学会(ERA-EDTA)、アメリカ透析学会(ADC)にも医師、看護師の演題を発表するなど臨床研究にも力を入れている。

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