がんが日本人の死因の第1位であることは多くの方がご存知かと思います。がんは、わたしたちの生命や健康において重要な問題ですから、国をあげてがん対策が推進されてきました。がん対策が本格的に始まった時点から現在まで、がんによる死亡率・罹患率はどのように推移しているのでしょうか。国立研究開発法人国立がん研究センター理事長 堀田知光先生にお話を伺いました。
1981年、がんが日本人の死因の第1位になったことをきっかけに、日本のがん対策が本格的に始まり、1984年に「対がん10カ年総合戦略」が策定されました。対がん10カ年総合戦略が始まって30年経ちますが、現在もがんは死因の第1位であり、日本人の2人に1人はがんになるといわれています。なぜ、対策をしてもなおがんが死因の第1位となっているのでしょうか。それは、がんが細胞レベルでのさまざまな内的、外的要因が関与する遺伝子の異常の蓄積よって引き起こされ、その過程は老化現象でもあることから、加齢とともに増加しているためであると考えています。
実際に、年齢階級別(年齢ごとに区切る)でがんの罹患(発生)率をみると、高齢者での罹患率は急激に増えます。日本の人口高齢化とともにがんの罹患者数も増えているといえるのです。しかしこの高齢化とがんの関係は、日本に限ったことではなく、人口が高齢化するとどの国でも起こりうることです。
高齢化にともない、がんの死亡者数・罹患者数は増加しますが、高齢者の増加によってデータの比較性が影響されないように、各年齢でがんによる死亡率・罹患率を補正して検討しています。(年齢調整死亡率・罹患率といいます。)日本では、1985年時点の人口構成を基準として補正しています。その結果、がんによる年齢調整死亡率は1990年代の後半から徐々に減少していることがわかります。つまり、がんの死亡者・罹患者の「総数」は増えていますが、死亡の割合は減少しているのです。
これは、治療の進歩が影響していると考えています。手術の性能が高まり、放射線治療が高度化し、分子標的薬という新しい治療薬も開発されてきています。これらの治療の進歩によって、延命につながっていると考えています。しかしそれだけではなく、病気の早期発見という概念が浸透したことも一因です。検診の重要性を多くの方が認識することで、早期のうちにがんを発見することができるようになりました。治る可能性が高い早期がんを早い段階から治療することができますので、その結果、死亡率の減少につながっていると考えます。
一方、年齢調整罹患率は増えています。これは、がんにかかる人間が増えたということよりは、検査の精度が上がり、早期発見が浸透したことにより、発見される率が増えたということです。つまり、「罹患率=発見率」です。罹患率に関してはこのように検診受診率や診断の精度によって変わる数値であり、過剰な表現になりますが、検査しなければ下がる数値でもあるということです。したがって、がん対策の効果としては、罹患率を下げることよりも、確実なデータである死亡率を下げることがより重要です。しかしながら、ここ数年間の年齢調整死亡率の減り方が鈍化していることが、非常に問題であると考えています。