国立研究開発法人 国立がん研究センターは日本におけるがんの中核を担っています。国立がん研究センターの役割、特徴について、国立研究開発法人国立がん研究センター理事長 堀田知光先生にお話しいただきました。
国立がん研究センターは最先端の診療・研究のみならず、さまざまながん対策を担っています。つまり、目の前の患者さんはもちろん、正確ながん情報を国民の方々に周知し、新しい治療薬や診断などを全国の患者さんに行き届くようにするという使命があるのです。しかし、国民の方々へ届けるのは、国立がん研究センター単独で行えることではありません。したがって、当センターは全国のがん拠点病院や専門病院のネットワークの先導役・ハブ(中核)機能の役割を担うべきと考えています。日本におけるがん治療を底上げするための機能を果たすのが我々の役目ですので、他の病院と手術件数などの成績を競うというのはわれわれの目指すところではないと考えています。
それぞれの拠点病院には、その病院に合わせた使命があるのではないでしょうか。それは、多くの患者さんによりよい治療を行うことであったり、国立がん研究センターのように、がん対策を行うことであったりさまざまです。それぞれの病院がその使命を全うし、全力を注ぐことで日本の医療が進歩していくと考えています。
国立がん研究センターの特徴は、2つの病院(中央病院と東病院)とがん領域では国内最大の研究所が非常に近い場所にあるため、研究所から発表された研究成果をスムースに臨床に結びつけることができます。また、臨床での課題を研究につなげることも盛んです。研究所と病院が一体化し協働しているため、近年、多くの成果が出始めているといえます。
また国立がん研究センターは1962年に創立して53年経っていますが、これまで、人材をどこか特定の大学に依存することなく、全国各地から優秀な先生方が集まり切磋琢磨する場所として歩んでいます。現在は約30大学もしくはそのの関連施設から来ていただいており、これは国立がん研究センターの誇るべき伝統といえるのではないでしょうか。
わたしは医学部卒業後、研修病院で血液腫瘍内科に所属し、その後、悪性リンパ腫の化学療法や新薬の開発に携わってきました。「がん」と聞くと、胃がんや肺がんなどの「腫瘍(固形がん)」が思い浮かび、血液のがんはイメージがしにくいかもしれません。しかし、がん治療に多く用いられるようになった「化学療法(薬物療法)」は、血液がんから始まりました。
血液がんは、血液中を流れる白血球(リンパ球など)ががん化してしまうため、全身に分布し、固形がんのように塊(かたまり)を造るがんではありません。したがって、腫瘍を切り取る・放射線治療で焼いてしまうということができません。そこで、薬で血液中のがん化した白血球などを治療する化学療法が開発されました。その後、化学療法が固形がんにも有用であることがわかり応用されてきました。近年では、胃がんや肺がんなどの固形がんの先生方も化学療法について非常に勉強され、それぞれのがんに最適な治療が行われてきていると感じています。今後も多くの患者さんが助かることを目指し、がん対策に取り組んでいきたいと考えています。