粒子線治療は放射線治療の1つであり、特に集中的にがんに対して放射線を当てることができるため、発がんリスクが少ないなどのメリットがあります。ここでは、粒子線治療の世界で最初に作られた、陽子線治療と重粒子線治療を同時に行える施設である兵庫県立粒子線治療センターで、名誉院長を務められる不破信和先生にお話をお聞きしました。
まず、放射線について説明します。放射線とは高エネルギー粒子と高エネルギー電磁波のことを指します。その中にはX線・γ線などがあります。一般的にはそれらの「電離作用」により細胞などに対して影響を持つものをいいます。
具体的にいうとDNAを切断します。これらの電離作用が放射線治療に用いられています。つまり電離作用によりがん細胞のDNAを切断し、がん細胞を殺すのです。
「粒子線」とは放射線の一つであり、高エネルギー粒子です。ここで言う高エネルギー粒子とは、原子を構成している電子または原子核のことを指します。
水素原子核による高エネルギー粒子を特に「陽子線」と呼んでいます。また、炭素原子核による高エネルギー粒子を「炭素イオン線」といいます。水素原子核より炭素原子核の方が大きくて重いという特徴があります。そのため、粒子線治療の中でも水素原子核を用いる場合を陽子線治療、炭素原子核を用いる場合を重粒子線治療ということがあります。
粒子線治療の特徴は、がんに集中的に高エネルギーの放射線を当てられることです。普通のX線ですと、周囲の正常組織にもX線が当たって正常な組織を破壊してしまいます。ところが粒子線治療ではがんに集中的に高エネルギーの放射線を当てることができるうえ、なおかつ周囲の正常な組織には放射線が当たりません。治療効果は高いのに副作用が少ないのです(図)。また今後、主流となるspot sanning方式では発がんリスクが少ないといわれています。つまり治療した後の再発も少なく、若い人にこそ価値がある治療です。
しかし長期的な治療の効果としてはまだまだ歴史が浅いこともあり、10~20年経ってみないとわからない部分があります。
ここでは粒子線治療の中の、陽子線治療と重粒子線治療について比較します。陽子線治療と重粒子線治療は、コスト面で大きく違いがあります。重粒子線治療は費用が高いのが特徴で、大がかりな設備が必要になります。さらに重粒子線治療は採算をとるのが難しいうえに、その効果は、兵庫県立粒子線医療センターでの過去の成績からは陽子線治療と差がありません。
しかしそれでも重粒子線治療には生物学的な利点があります。重粒子線治療は一部の肉腫などには、X線治療と比較して明らかに効果があることが分かっています。粒子線治療自体が非常に大がかりでコストのかかる設備ですが、その中でも重粒子線治療はさらにコストがかかる設備です。つまり本当に重粒子線治療が必要な疾患を見極める。それをきちんと治療するためには、どれだけの設備が必要なのかという計画の元で治療方法を考えることが大切です。