動注併用放射線治療とは、がんの組織が栄養をとりこんでいる動脈に直接抗がん剤を注入し、同時に放射線を照射することで選択的にがんを治療する方法です。手術による患者さんのQOL(生活の質)の低下が著しい頭頚部がんにおいて有効な治療法として期待されています。今後この治療法が普及していくためにはどのようなことが必要なのでしょうか。
日本における粒子線治療のトップランナーであり、口腔がん領域における動注療法でも国内有数の名医として知られる伊勢赤十字病院放射線治療科部長(兵庫県立粒子線医療センター名誉院長)の不破信和先生にお話をうかがいました。
放射線治療を行なっている医師で、動注ができる人はなかなかいません。
動注化学放射線療法そのものはけっして知られていないわけではありません。多くの医師は知ってはいるものの、無理だという先入観があるため、私がいくらその有用性を訴えて、覚えたい人には教えますよといっても、最初からできないと思い込んでいる部分があります。とくに放射線治療の医師にとっては、出血を伴う治療、切開して動脈を出すといった手技には抵抗感もあるのでしょう。
私が愛知がんセンターにいた頃、国立がん研究センターなどから患者さんを紹介されることがしばしばありました。実際にできる人がいなかったこともあるのでしょうが、そういった施設ではエビデンス(科学的根拠)を重視するところがあります。アメリカがもし動注化学放射線療法をやりはじめれば、日本でもそれに追随する動きが起きていたかもしれません。
動注化学療法にはやはり経験が必要であり、その点では手術と同じです。たとえばアウェイクと呼ばれる心臓の手術(局所麻酔下・患者の意識がある状態での心臓手術)と同じように、非常に有効な治療ではあるものの、高度な手技が要求されるということです。私自身も二十数年かかって身につけたものがありますし、いまは若手の医師を教えながら、うまくいかないところをフォローしながら治療を行っています。しかし徹底的に集中してノウハウやコツを教えていけば、数年でできるようになります。
逆にいえば、動注化学療法を行なう施設をセンター化して症例を集め、そこでしっかりとトレーニングしてそれぞれの施設に戻ってもらうということは可能だと考えています。実際にこれまで私がいた施設でも、他施設で治療ができない患者さんを引き受けて、皆で研究を重ねながら治療を行なってきました。
新しいデバイスが使えるようになったことで、これまで難しかったことがやりやすくなったといえます。
切開して動脈を露出させるところは口腔外科や耳鼻咽喉科の医師ができますし、頭頚部用のシース(カテーテルを通す血管内留置用の管)使うことで、選択的な動注がより簡便にできるようになってきました。
私が行っていたカテーテルを奥まで入れる方法は技術的に難しく、トレーニングや経験が必要とされる部分ですので、できる人はまだ少なく、数人というところではないでしょうか。私がいま自分で行っている施設、以前いた南東北がん陽子線治療センターや横浜市立大学の口腔外科などではできるはずです。
他には新潟の日本歯科大学がありますが、私が行ったときに一緒に行うという形なので、まだ彼らだけではなかなか難しいところです。やはり症例が少なく、月に1例ぐらいですので経験を積むことができません。愛知がんセンターでは年間100例ほどありましたから、難しいケースも含めてさまざまな症例を経験してきました。
当然、患者さんは都市部のほうが集まりやすいですし、そういった意味でも、ハイボリュームセンターに症例を集約して、集中的にトレーニングをすることは有効であると考えています。伊勢赤十字病院は地の利があるとはいえませんが、看護師やスタッフ、耳鼻科も協力的で非常に助かっています。私がみている患者さんもいますので、もしも将来的にセンター化構想が実現しても、伊勢赤十字病院には引き続き行くつもりです。
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