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口腔がんの診断基準とは?~3つのカテゴリーを組み合わせて病期を決定する~

口腔がんの診断基準とは?~3つのカテゴリーを組み合わせて病期を決定する~
野村 武史 先生

東京歯科大学口腔腫瘍外科学講座 主任教授、口腔がんセンター センター長

野村 武史 先生

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口腔(こうくう)がんとは、口の中に発生するがんの総称で、我が国では年間約22,000人が口腔がんと咽頭(いんとう)(鼻の奥から食道までの部分)がんを発症すると報告されています。がん全体では、口腔がんの割合は2%ほどであり、頻度はさほど高くありませんが、我が国では高齢化に伴い死亡率・罹患率ともに増加傾向にあります。また、口腔がんは高齢の方で男性に多いことで知られていますが、最近では女性の口腔がん、若年者の口腔がん患者さんも増加しています。

本記事では、口腔がんの検査や診断、治療について詳しく解説します。

口腔がんの検査には、主に画像検査(CTやMRI)と病理検査があります。

画像検査では、造影MRIや造影CTを撮像し、がんの深さや広がりなどを調べます。また、造影CTと超音波エコーを併用して検査を行うことにより、頸部(けいぶ)リンパ節に転移しているかを評価します。さらに、口腔がんが全身の臓器に転移していないか、また他臓器のがんが重複して発生していないかPET-CT検査で評価します。

病理検査には細胞診や組織診(生検)があります。細胞診は麻酔をしなくても行うことができる簡便な検査で、表面を擦過して細胞にパパニコロウ染色という特殊な染色を行い、顕微鏡で評価します。評価は細胞の核の形や大きさなどで評価し、悪性か正常かで判定します。繰り返し検査が可能で、比較的短期間で結果が出せるので、まず悪性か良性かを先に判断したい場合に行われます。

これに対し、組織診は局所麻酔を行い、がんが疑われる組織の一部をメスで切除して塊を検査として提出します。組織はホルマリンで固定し、H-E染色という染色法で染めて顕微鏡で観察します。これにより、どのような種類のがんか、どの程度周囲に広がっているか、がんの性格、特性など、治療に対し多くの情報を得ることができます。一般的には、組織を切除することにより、がんを散らしてしまう可能性があるため、手術の日程を決めてから直前に検査することが多いです。

口腔がんの病期(ステージ)は、TNM分類と呼ばれる3つのカテゴリーの組み合わせによって決定します。なお、この分類は基本的に治療前の状態で評価します。それぞれのカテゴリーについて、口腔がんの進展状況を肉眼所見や画像所見などによって診査を行い、病期を決定します。

2018年の最新の口腔がんの病期分類(ステージ)は以下のとおりです。

T0:原発腫瘍を認めない

Tis:上皮内がん(粘膜の上皮にとどまっているがん)

T1:最大径(幅)が2cm以下かつ深達度(深さ)が5mm以下のがん

T2

  • 最大径が2cm以下かつ深達度が5mmを超えるがん
  • 最大径が2cmを超えるが4mm以下かつ深達度が10mm以下のがん

T3

  • 最大径が2cmを超えるが4mm以下かつ深達度が10mmを超えるがん
  • 最大径が4mmを超えるかつ深達度が10mm以下のがん

T4a

  • 最大径が4mmを超えるかつ深達度が10mmを超えるがん
  • 下顎もしくは上顎の骨皮質(骨の表面)を貫通したがん
  • 上顎洞(頬骨の裏にある空洞)に浸潤*している
  • 顔の皮膚に達するがん

*浸潤:がんが周辺の臓器に広がっていくこと

T4b

  • 咀嚼筋隙、翼状突起、頭蓋底(全て顔・頭部の中央部に位置する骨や筋肉)に浸潤するがん
  • 内頸動脈(心臓から脳に血液を送る血管)全体を取り囲むがん

N0:がんと直結したリンパ節への転移が確認できない状態

N1:最初に発生したがんと同側にある単発性のリンパ節転移があり、最大径が 3cm 以下かつリンパ節の外に播種*していない状態

N2a:最初に発生したがんと同側に単発性のリンパ節転移があり、最大径が3cmを超えるが6cm以下かつリンパ節の外側にがんが播種していない状態

N2b:最初に発生したがんと同側に多発性(2つ以上)のリンパ節転移があり、最大径が6cm以下かつリンパ節の外側にがんが播種していない状態

N2c:最初に発生したがんと同側あるいは反対側にリンパ節転移があり、最大径が6cm以下かつリンパ節の外側にがんが播種していない状態

N3a:転移の場所は関係なく、最大径が6cmを超えるリンパ節転移があり、リンパ節の外側にがんが播種していない状態

N3b:単発性または多発性のリンパ節転移があり、リンパ節の外側にがんが播種した状態

*播種:がんがバラバラと散らばるように広がった状態

M0:遠隔転移がない状態

M1:遠隔転移がある状態

M(遠隔転移):遠くの臓器への転移の有無

口腔がんの治療には、外科的手術、化学療法、放射線治療があります。

主に手術が行われますが、病期によっては放射線治療やがん薬物療法を行うこともあります。また、手術後の再発予防のため、がん薬物療法と放射線治療を組み合わせることもあります。

たとえば、口腔がんの半数を占める舌がんの場合、ステージI~II期では手術単独または放射線治療(組織内照射)を、ステージIII~IVでは手術と術後補助治療(外照射)を行うのが一般的です。

口腔がんのそれぞれの治療の詳細は以下のとおりです。

がんが小さい、かつ頸部リンパ節に転移が見られない場合には、がん腫瘍とその周囲を切除します。頸部リンパ節に転移が疑われる場合は、首の領域のリンパ節を全てまとめて切除する頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)を同時に行います。

切除する範囲が広い場合は、物を飲み込んだり、発音したりすることに支障が出ることから、ほかの組織を移植する再建手術(形や機能を回復する手術)も合わせて行うことがあります。また手術後は、早期に口から食事が取れるように、咀嚼(そしゃく)や発音機能の回復のためのリハビリテーションが行われます。

がん薬物療法は、抗がん剤を使用してがんの勢いを抑えたり、放射線治療との併用により効果を高めたりするために行うもので、進行がんや、再発がんなどで手術が難しい場合に行われることがあります。

放射線治療には、外照射(体の外からがんに放射線を当てる)と組織内照射(管や針を使ってがん組織に直接照放射線を当てる)の2種類があります。組織内照射は一般に早期がんに対して行われます。放射線治療は、手術によりその後の生活に大きな支障をきたすことが予想される場合や、高齢で手術が困難と判断された場合には優先して行われることがあります。最近は強度変調放射線治療(IMRT)や陽子線、粒子線など、より治療効果の高い照射線装置が開発されています。放射線治療の有害事象として、皮膚炎味覚障害、口腔乾燥(唾液の量が減る)などの障害が見られることがあります。

口腔がんの検査では、がんの範囲や転移について調べるために画像検査と病理検査が行われ、その結果で口腔がんの病期が決定し治療方法が検討されます。

口腔がんの治療は主に手術ですが、病期により放射線治療やがん薬物療法などの選択肢が増えてきます。また、手術で顔や口の中の一部を切除するため患者さんの退院後の生活の質に影響をおよぼすことがあります。そのため、治療方針についてはあらかじめしっかりと担当医と相談する必要があります。

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