口腔がんとは、口の中に発生するがんの総称です。2019年の日本での口腔がんと咽頭がん(鼻の奥から食道までの部分)の診断数はあわせて約23,000例でした。がん全体での口腔・咽頭がんの割合は約2%で頻度はさほど高くありませんが、高齢化に伴い増加傾向にあります。また、口腔がんは60~70歳代の男性に多くみられますが、最近では女性や若年の口腔がんの患者さんも増加しています。
本記事では、口腔がんの検査や診断、治療について詳しく解説します。
口腔がんの検査には、主に画像検査と病理検査があります。
X線のほかCT やMRIでがんの深さや広がりなどを調べます。また、超音波エコーとCT検査を併用し、頸部リンパ節への転移を評価します。さらに、PET-CT検査で口腔がんが全身に転移していないか、他臓器のがんが重複して発生していないかを確認します。
病理検査には細胞診と組織診(生検)があります。
細胞診は麻酔をせずにできる簡便な検査です。病変部の表面をこすって検体を採取し、パパニコロウ染色という特殊な染色を行い顕微鏡で観察します。細胞診では細胞の核の形や大きさなどを評価し、悪性かどうかの判定をします。繰り返し検査が可能で、比較的短期間で結果が出るので、まず悪性か良性かを判断したい場合に行います。
これに対し、組織診は局所麻酔下で行います。がんが疑われる組織の一部をメスで切除し、採取した検体をホルマリンで固定し、H-E染色という染色を行い顕微鏡で観察します。組織診で得られた結果は、がんの種類や進行具合、どの程度周囲に広がっているかなど多くの情報を得ることができます。ただし、組織を切除することによるリスクもあるため、多くの場合手術の日程を決めてから直前に検査を行います。
口腔がんの病期(ステージ)は、TNM分類と呼ばれる3つのカテゴリーの組み合わせによって決定します。なお、この分類は基本的に治療前の状態で評価します。
*浸潤:がんが周辺の臓器に広がっていくこと
*播種:がんが散らばるように広がった状態
口腔がんの治療には、外科的手術・化学療法・放射線治療があります。
主に外科的手術が行われますが、病期によっては放射線治療や化学療法を行うこともあります。また、手術後に再発予防を目的として、放射線治療と化学療法を組み合わせて行うこともあります。
がんが小さい、かつ頸部リンパ節に転移が見られない場合には、がんとがん周囲を切除します。頸部リンパ節に転移が疑われる場合は、首の領域のリンパ節を全てまとめて切除する頸部郭清術を同時に行います。
切除する範囲が広い場合は、物を飲み込んだり発音したりすることに支障が出るため、ほかの組織を移植する再建手術(形や機能を回復する手術)も合わせて行うことがあります。また、手術後は早期に口から食事が取れるように、咀嚼や発音機能の回復のためのリハビリテーションを行います。
化学療法は、抗がん薬を使用してがんの進行を抑えたり放射線治療との併用により効果を高めたりします。進行がんや再発がんなどで手術が難しい場合に行われることがあります。
放射線治療には、体の外からがんに放射線を当てる外照射と管や針を使ってがん組織に直接放射線を当てる組織内照射の2種類があります。放射線治療は、手術によりその後の生活に大きな支障をきたすことが予想される場合や高齢で手術が困難と判断された場合に優先して行います。放射線治療では、皮膚炎や味覚障害、口腔乾燥症(唾液の量が減る)などの副作用がみられることがあります。
最近は強度変調放射線治療(IMRT)や粒子線治療など、より治療効果の高い照射線装置が開発されています。
口腔がんが疑われる場合は、がんの範囲や転移について調べるために画像検査と病理検査を行い、その結果をもとに病期を決定し、治療方法を検討します。
口腔がんの治療は主に手術ですが、放射線治療や化学療法などが選択肢されることもあります。また、手術で顔や口の中の一部を切除した場合、退院後の生活の質に影響が生じることがあります。治療方針についてあらかじめ担当医と十分に相談するとよいでしょう。
野村 武史 先生の所属医療機関
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