がんポータルサイトはこちら
インタビュー

頭頚部がんに対する動注併用放射線治療

頭頚部がんに対する動注併用放射線治療
不破 信和 先生

伊勢赤十字病院 放射線治療科 顧問、兵庫県立粒子線医療センター 名誉院長

不破 信和 先生

この記事の最終更新は2016年03月02日です。

2016年1月に横浜で行なわれた「第34回日本口腔腫瘍学会総会・学術大会」において、粒子線治療口腔がん領域における動注療法の第一人者として知られる伊勢赤十字病院放射線治療科部長(兵庫県立粒子線医療センター名誉院長)の不破信和先生がシンポジウム・学術セミナーなどに登壇されました。本記事ではその中から「頭頚部癌に対する動注併用放射線治療の役割―浅側頭動脈からのアプローチを中心に―」と題して行われた講演の内容をお伝えします。

1992年にアメリカのRobbinsらが、大腿動脈からのセルジンガー法によって、チオ硫酸ナトリウムで中和しながら高用量のシスプラチン(抗がん剤)を投与するという治療を報告しました。その良好な治療成績から動注療法が世界中に広がったとされています。一方、私達の方法は耳の前にある浅側頭動脈からカテーテルを挿入する方法ですが、この方法は脳血管障害の少ない点、長時間の薬剤投与が可能な点は大きな利点であるといえます。

従来の私達の方法は舌動脈の入り口にカテーテル先端部分を僅かに挿入する方法であったため、容易に脱落してしまうことがありましたが、その後、カテーテルを改良し、舌動脈の奥まで挿入することが可能になりました。その結果、脱落率は24%から1%に大幅に減少し、安定した治療が可能になりました。

  1. 治療方法が再現性に優れ、安定した結果が得られること
  2. 動注の還流域が確認できること
  3. 動注療法に適した薬剤の種類、量が確立していること
  4. 薬剤の静脈内投与に較べて、明らかな優位性をもつこと。また手術に較べても何らかの優位性があること

まだ上記の条件を完全に満たしているとは言えませんが、カテーテル、手技の改善により、安定した治療効果が得られる様になりました。動注薬剤の流れる範囲の確認は、新たにMRIを用いる方法を開発し、より客観的な評価方法を確立しました。動注薬剤はカルボプラチン(CBDCA)から、シスプラチン(CDDP)を使用し、その中和剤であるチオ硫酸ナトリウムを同時に静脈からら投与することにより、より高い効果が得られることを示しました。Robbinsらが確立した方法の改良版ではありますが、彼らの方法より少ないCDDPを使用していますので高齢者にも治療の適応が広がりました。動注の適応例は舌癌に代表される口腔癌、上顎洞がんが対象と考えていますが、その治療成績は少しずつ改善されており、現在では手術と遜色のないレベルにあり、治療の選択肢の一つとなったと考えています。

粒子線はX線に比べてがん細胞だけに集中的に照射することが可能で、周囲の正常な組織に影響を及ぼしにくい特徴があります。そのため、下顎に照射する場合、X線に比べて歯を守れるというメリットがあります。また、転移したリンパ節に集中的に照射する場合にも有効です。

 

がん細胞を狙い撃ちできる
がん細胞をピンポイントで狙い撃ちできる

 

粒子線の照射方法は、現在ブロードビームという方式ですが、将来的にはスポットスキャニングが可能になります。このことによって、IMRT(intensity-modulated radio therapy)よりも、より効果的なIMPT(intensity-modulated proton therapy)が実現するでしょう。これにより、さらにより高い治療効果と、より少ない有害事象が得られるものと考えています。

シースとは親カテーテルのことで、このシースから目的動脈にマイクロカテーテルを挿入する方法です。腹部での血管造影では大腿動脈からシースを挿入する方法は一般的な方法です。私達は浅側頭動脈から、世界初となるシース (External Carotid Artery Sheath:ECAS)を開発しました。この方法により、今まで1本の動脈にしか薬剤の投与が出来ませんでしたが、複数の動脈への安定した薬剤の投与が可能となり、より高い治療効果と適応の拡大に繋がるものと考えています。また手技の簡便さから動注療法の普及に繋がるものと期待されます。

 

ECASを挿入留置して舌動脈や顔面動脈へ選択的に動注する
ECASを挿入留置して舌動脈や顔面動脈へ選択的に動注する

 

また、ステアリングマイクロカテーテルという、最近我が国で開発された腹部用のカテーテルも利用可能です。これは手元のハンドル部分にあるダイヤルの操作でカテーテル先端の方向付けを遠隔に操作できるもので、ガイドワイヤーを必要としないため、透視時間が短くて済むという利点があります。その感触は良く、年内には頭頚部専用のステアリングマイクロカテーテルが完成する予定です。

この記事は参考になりましたか?
記事内容の修正すべき点を報告
この記事は参考になりましたか?
この記事や、メディカルノートのサイトについてご意見があればお書きください。今後の記事作りの参考にさせていただきます。

なお、こちらで頂いたご意見への返信はおこなっておりません。医療相談をご要望の方はこちらからどうぞ。

    実績のある医師

    周辺で口腔がんの実績がある医師

    東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学専攻 口腔機能再構築学講座 顎口腔腫瘍外科学分野 教授

    はらだ ひろゆき

    内科、血液内科、膠原病・リウマチ内科、外科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、小児外科、整形外科、形成外科、美容外科、皮膚科、泌尿器科、肛門科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科

    東京都文京区湯島1丁目5-45

    JR中央・総武線「御茶ノ水」東京メトロ丸ノ内線も利用可能 徒歩3分、東京メトロ千代田線「新御茶ノ水」 徒歩5分

    東京慈恵会医科大学附属病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科 講師

    ながおか まさと

    東京慈恵会医科大学附属病院―“根治”と”機能温存”の両立を目指し、希少がんの治療に挑む

    日本の医療を支える東京慈恵会医科大学附属病院による頭頸部がんをテーマにした特集です。

    救急科、総合診療科、消化器内科、肝臓内科、脳神経内科、腎臓内科、リウマチ科、膠原病内科、循環器内科、糖尿病内科、代謝内科、内分泌内科、腫瘍内科、血液内科、呼吸器内科、感染症内科、精神神経科、小児科、消化器外科、肝胆膵外科、乳腺外科、呼吸器外科、血管外科、小児外科、整形外科、脳神経外科、形成外科、心臓血管外科、婦人科、泌尿器科、眼科、耳鼻咽喉科、頭頸部外科、皮膚科、リハビリテーション科、歯科、脊椎脊髄外科、緩和ケア内科、産科、放射線科

    東京都港区西新橋3丁目19-18

    都営三田線「御成門」A5出口 徒歩3分、東京メトロ日比谷線「神谷町」3出口 徒歩7分、東京メトロ銀座線「虎ノ門」1番出口 徒歩10分

    関連記事

  • もっと見る

    関連の医療相談が10件あります

    ※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。

    「口腔がん」を登録すると、新着の情報をお知らせします

    処理が完了できませんでした。時間を空けて再度お試しください

    メディカルノートをアプリで使おう

    iPhone版

    App Storeからダウンロード"
    Qr iphone

    Android版

    Google PLayで手に入れよう
    Qr android
    Img app