2016年1月に横浜で行なわれた「第34回日本口腔腫瘍学会総会・学術大会」において、粒子線治療と口腔がん領域における動注療法の第一人者として知られる伊勢赤十字病院放射線治療科部長(兵庫県立粒子線医療センター名誉院長)の不破信和先生がシンポジウム・学術セミナーなどに登壇されました。本記事ではその中から「頭頚部癌に対する動注併用放射線治療の役割―浅側頭動脈からのアプローチを中心に―」と題して行われた講演の内容をお伝えします。
1992年にアメリカのRobbinsらが、大腿動脈からのセルジンガー法によって、チオ硫酸ナトリウムで中和しながら高用量のシスプラチン(抗がん剤)を投与するという治療を報告しました。その良好な治療成績から動注療法が世界中に広がったとされています。一方、私達の方法は耳の前にある浅側頭動脈からカテーテルを挿入する方法ですが、この方法は脳血管障害の少ない点、長時間の薬剤投与が可能な点は大きな利点であるといえます。
従来の私達の方法は舌動脈の入り口にカテーテル先端部分を僅かに挿入する方法であったため、容易に脱落してしまうことがありましたが、その後、カテーテルを改良し、舌動脈の奥まで挿入することが可能になりました。その結果、脱落率は24%から1%に大幅に減少し、安定した治療が可能になりました。
まだ上記の条件を完全に満たしているとは言えませんが、カテーテル、手技の改善により、安定した治療効果が得られる様になりました。動注薬剤の流れる範囲の確認は、新たにMRIを用いる方法を開発し、より客観的な評価方法を確立しました。動注薬剤はカルボプラチン(CBDCA)から、シスプラチン(CDDP)を使用し、その中和剤であるチオ硫酸ナトリウムを同時に静脈からら投与することにより、より高い効果が得られることを示しました。Robbinsらが確立した方法の改良版ではありますが、彼らの方法より少ないCDDPを使用していますので高齢者にも治療の適応が広がりました。動注の適応例は舌癌に代表される口腔癌、上顎洞がんが対象と考えていますが、その治療成績は少しずつ改善されており、現在では手術と遜色のないレベルにあり、治療の選択肢の一つとなったと考えています。
粒子線はX線に比べてがん細胞だけに集中的に照射することが可能で、周囲の正常な組織に影響を及ぼしにくい特徴があります。そのため、下顎に照射する場合、X線に比べて歯を守れるというメリットがあります。また、転移したリンパ節に集中的に照射する場合にも有効です。
粒子線の照射方法は、現在ブロードビームという方式ですが、将来的にはスポットスキャニングが可能になります。このことによって、IMRT(intensity-modulated radio therapy)よりも、より効果的なIMPT(intensity-modulated proton therapy)が実現するでしょう。これにより、さらにより高い治療効果と、より少ない有害事象が得られるものと考えています。
シースとは親カテーテルのことで、このシースから目的動脈にマイクロカテーテルを挿入する方法です。腹部での血管造影では大腿動脈からシースを挿入する方法は一般的な方法です。私達は浅側頭動脈から、世界初となるシース (External Carotid Artery Sheath:ECAS)を開発しました。この方法により、今まで1本の動脈にしか薬剤の投与が出来ませんでしたが、複数の動脈への安定した薬剤の投与が可能となり、より高い治療効果と適応の拡大に繋がるものと考えています。また手技の簡便さから動注療法の普及に繋がるものと期待されます。
また、ステアリングマイクロカテーテルという、最近我が国で開発された腹部用のカテーテルも利用可能です。これは手元のハンドル部分にあるダイヤルの操作でカテーテル先端の方向付けを遠隔に操作できるもので、ガイドワイヤーを必要としないため、透視時間が短くて済むという利点があります。その感触は良く、年内には頭頚部専用のステアリングマイクロカテーテルが完成する予定です。
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