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インタビュー

舌がんの小線源治療とは-舌を切らない放射線による舌がん治療

舌がんの小線源治療とは-舌を切らない放射線による舌がん治療
朝蔭 孝宏 先生

東京医科歯科大学 医学部 頭頸部外科学講座 教授

朝蔭 孝宏 先生

この記事の最終更新は2016年06月20日です。

舌に口内炎のようなしこりができる「舌がん」。現在はほとんどの患者さんが、腫瘍がある部分を切って取り除く手術を受けていますが、中には全身麻酔を使えないような持病をお持ちの方や、切除手術そのものに強い抵抗感を感じる患者さんもいるといいます。このような患者さんの治療におけるひとつの選択肢に、舌を切らない根治的治療法「小線源治療」があります。日本において小線源治療を行っている数少ない施設である東京医科歯科大学頭頸部外科教授の朝蔭孝宏先生に、小線源治療のメリットとデメリットを教えていただきました。

舌がんの治療法には、腫瘍を切除する手術と、舌にメスを入れず放射線治療で治す方法があります。本記事でご紹介する「小線源治療」は、放射線治療のことを指し、ステージ1とステージ2、ステージ3のごく浅い病変を対象に行うものです。

小線源とは放射線を限局的に照射できる線源のことをいい、舌がんにおいては「イリジウム針」と呼ばれる線源を舌に挿入することで、がんに対し放射線を組織内照射します。

小線源治療は切除手術とは異なり、局所麻酔のみで行うことができます。

舌がんの約9割は切除手術により治療します。しかし、患者さんの中には心臓が悪いなど、手術に必要な全身麻酔をかけられない事情をお持ちの方もいます。また、小さな範囲であっても、どうしても舌にメスを入れる(切る)ことに抵抗や恐怖心を感じてしまわれる方もいらっしゃいます。

我々は、小線源治療を行っている数少ない施設の医師として、上記のような患者さんに対して手術と小線源治療の詳細をご説明し、どちらがよいか選んでもらうという方法をとっています。

また、小線源治療の際には抗がん剤治療などを併用する必要がありません。「イリジウム針」を挿入するのみで済んでしまうということも、この治療法のひとつの利点といえます。

放射線をがんのある組織の外側からあてることを「外部照射」といいます。舌がんに対し外部照射を行うと、口腔内の病変以外の場所にも放射線があたってしまうため、粘膜炎や味覚障害、口内乾燥症など、様々な問題が起こってしまいます。

こういった後遺症を遺さないために、直接がんの内部へと埋め込むことができ、限局した範囲にのみ放射線を発し、がん細胞のみを殺傷することができる小線源を使用しているのです。

放射線治療と聞くと、副作用(※後述)や後遺症などが生じるというイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、小線源治療でがんを根治させてしまえば、舌の見た目は正常な舌と変わりませんし、食事や発声も手術前のように行えます。

イリジウム針を挿入した部分のみ、瘢痕(はんこん)化といい、本来のしなやかさを失ってしまうものの、非常に狭い範囲ですので、これにより「食べにくい」「喋りにくい」といった不便が生じることはありません。ですので、小線源治療では術前のQOLをほとんどそのまま保つことができます。

とはいえ、小線源治療の対象となる早期がんおよび、ステージ3の浅い病変であれば、切除手術でも舌の状態や機能への影響はほとんど出ないため、どちらの治療法もQOLには大きな差がないといえます。

舌がんのほとんどは、舌の両脇の縁の部分にできます。ここにイリジウム針を挿すだけだと、下あごの歯肉や骨にまで、がんを駆逐できるほどの線量の放射線が照射されてしまいます。過去には、放射線により舌がんは根治したものの、下あごの骨が壊死してしまったり、歯肉に穴があくといった問題も起こっていたようです。

こういったリスクからあごや歯肉を守るために、線源挿入中は「スペーサー」という、義歯に似た形の医療器具を装着していただきます。

スペーサーとは、その名の通り舌と歯茎の間に1㎝程度のスペースができるようにする器具であり、これにより放射線性の顎骨壊死など、重篤な問題を防止できるようになりました。

小線源治療の対象となる早期の舌がんであれば、切除手術であっても舌の再建術などの必要がないため、「切って縫う」だけの簡単な手技で済み、30分から40分で終わります。

小線源治療にかかる時間も、およそ1時間弱です。

舌がんの小線源治療を受ける場合、入院期間は1週間強~10日ほどとなります。具体的には、イリジウム針を5~6日腫瘍内に挿入し続け、その後針を抜いて食事を常食へと戻していきます。

イリジウム針を挿入している最中は、流動食を鼻から入れたチューブを通して摂ることになります。また、限局した範囲とはいえ放射線治療中ですので、治療後数日は人と接触しないよう、隔離された部屋で入院していただく必要が生じます。人によっては誰にも会えないことが大きなストレスとなってしまうかもしれません。

一方の切除手術は、翌日からご家族などとも会うことができ、入院期間は約1週間と短くなります。

全身麻酔下の手術が可能で、手術に対する大きな恐怖心がない方であれば、切除手術を受けたほうが、術後の生活が楽に感じられるかもしれません。

小線源治療の副作用には、イリジウム針を挿入した部分を中心にできる局所的な放射線性の粘膜炎があります。この粘膜炎は、治療開始後1週間から10日程度で表れ始め、2週間ほどでピークを迎えたのち、時間をかけて自然に消退していきます。治るまでにかかる期間は約2か月です。

ピークのときには火傷のようになるため、痛みが生じます。

ここまでに述べてきたように、小線源治療にはメリットもデメリットもあるため、全身麻酔にリスクがある方を除いては、医師の説明をしっかりと受け、切除手術と比較したうえで選択していただくのがよいかと考えます。

まず大前提として、小線源治療は根治を目指して行う治療です。ただし、舌は筋肉でできており血流とリンパ流に富むため、がんが頸部に転移してしまい、後日腫れが出て再手術となるケースがあります。

これは、切除手術においても同様であり、ステージ1、ステージ2の早期がんでも、1年以内に約3割の方に頸部転移がみつかるとされています。

退院後の食生活に制限はありませんが、2か月は粘膜炎があり刺激物を食べると痛みを引き起こす可能性があります。基本的には、ご自身が苦痛を感じないものを食べるのがよいかと考えます。

ただし、舌がんのリスク因子といわれている飲酒や喫煙は、食道や胃の重複がんを防ぐために控えるよう心掛ける必要があります。

実際に、初めてがんを発症して治療した後に、断酒(禁酒)・禁煙できた人とできなかった人では、別の器官に2個目、3個目のがんを発症する割合は大きく異なると明示されています。前者のグループのほうが、「生命が助かる率」が高くなりますので、どのような治療法を選んだ場合でも、退院後の飲酒・喫煙は控えたほうがよいでしょう。

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