舌がんは舌にできるがんです。目に見える場所にできるため発見はそれほど難しくないと思われがちですが、発見しづらい場合もあります。また、初期は口内炎と似た症状である場合もあり、混同されて見落とされてしまうことも少なくありません。
舌がんと診断された場合の治療としては、手術による切除が一般的ですが、舌は食事や会話といった多くの日常動作を行う臓器でもあるため、手術をすることで生活に影響を及ぼす場合もあります。
舌がんと診断されたらどのような治療を行うのでしょうか、また治療による生活への影響はどれくらいあるのでしょうか。
舌がんの治療方法は大きく分けると手術、放射線療法、化学療法(抗がん剤治療)の3つがあります。どの治療を選択するかは舌がんのステージ(病気の進行具合)や、患者の背景によって異なります。舌がんはステージI~ステージIVの4段階に分かれ、ステージ分類を決定するための重要な要素となるのが“がんの大きさと深さ”、“頚部リンパ節への転移の有無”、“他の臓器への遠隔転移の有無”です。
舌がん治療の中心は手術によるがんの切除であり、がんの大きさによって切除する舌の範囲が決められます。大きく分けると、以下の三つがあります。
がんが小さい早期の場合に行われる術式です。切除範囲が小さく、食事や会話に大きな影響を及ぼさないといわれています。
比較的大きながんに対して行われます。がんを含めて舌の半分を切除します。舌の可動部のみを切除する場合もあれば、舌の根元も含めて切除する場合もあります。切除したままでは舌の形が変わり、舌の機能が失われることもあるため、ほかの体の一部を移植して舌の形を作る再建手術が必要になります。
がんを含めて舌の半分以上、または舌のほとんどを摘出する手術です。がんの範囲が大きい進行がんに対して行われます。この手術では大きな再建が必要です。ほかの体の一部を移植しなければなりませんが、それでも舌の機能が失われやすく、機能障害を改善するために術後のリハビリテーションが重要になります。
また、リンパ節への転移がある場合、首にあるたくさんのリンパ節を組織ごと取り除く頚部郭清術という手術が必要になります。頸部郭清術はリンパ節への転移がなくても、舌がんがある程度進行しており、将来的にリンパ節転移のリスクが高いと判断されれば予防的に行うこともあります。この手術を行った場合は、手術後に顔のむくみやあご回りのこわばり、肩の動かしにくさなどの症状が現れることがあります。
手術後は痛みを伴うことがあり、あらかじめ鎮痛剤を使用することが一般的です。そのため、実際は手術後に激しい痛みを感じることは少ないとされています。息苦しさやだるさなど、苦痛に対しては病院で十分に対応するため、心配なことは医師や看護師に事前に相談し、理解したうえで落ち着いた状態で手術を受けるとよいでしょう。
がんに放射線を当て、がん細胞を死滅させる治療法です。舌がんの場合、通常は手術が選択されますが、症例によっては放射線療法が適応となることもあります。舌がんに用いられる放射線療法には、以下の2種類があります。
管や針などをがんまたは周辺組織に挿入し、放射線を放つ物質を体内に入れることで放射線を照射する方法です。小さながんに対して用いられます。治療成績は手術とほぼ同じですが、治療できる施設が限られています。
体の外側から放射線を照射する方法です。単独で用いられることは少なく、抗がん薬と組み合わせて行う化学放射線療法や手術後の再発を予防するための術後補助療法として行われることがあります。
放射線療法は健康な細胞にもダメージを与えるため、舌がんの場合は口の中にさまざまな副作用が生じます。副作用には、口内炎や味覚障害など照射後早期に現れるものと、口腔乾燥、骨髄炎、多発う蝕(虫歯)など照射後しばらく経ってから現れるものがあります。しかし、最近はコンピューターを用いて、照射部位をがんのみに絞り、正常組織を避けて放射線を集中して照射できる強度変調放射線治療(IMRT)など革新的な機器も登場しており、舌がんに対しても有効な治療法となりつつあります。
がんを死滅させる薬剤を用いる治療です。通常は、手術で取り切れなかったがんを死滅させて再発や転移を予防する“術後補助療法”を中心に用いられます。抗がん剤は副作用が現れる場合があり、その種類は使用する薬剤によって異なります。舌がんによく用いられるシスプラチンは、吐き気や嘔吐、腎障害といった副作用が起きることがあり、セツキシマブという分子標的薬は皮膚炎や低マグネシウム血症をひき起こす可能性があります。抗がん剤治療を行う場合は、このようなさまざまな副作用を和らげるための治療(支持療法)と同時に行われることが一般的です。
舌はものを食べる、飲み込む、発音するといった重要な機能があります。手術による舌の機能への影響は、切除する範囲によって大きく異なります。舌を部分的に切除する場合は、舌の機能にほとんど影響を及ぼしませんが、切除する範囲が大きくなればなるほどその影響も大きくなります。手術後は残っている舌や再建した舌をどのように動かせばよいのかを確認しながら、ものを飲み込んだり、言葉を発声・発音したりする訓練(リハビリテーション)を行います。嚥下や会話はリハビリテーションによってある程度回復することができますが、元の状態からどの程度回復するかは、切除の範囲と形を作る再建の方法によって異なります。
また、放射線療法を行った場合は、治療直後は口の中の乾燥や味覚障害、食事のしにくさといった副作用が現れることがありますが、治療後しばらくすると回復します。しかし一方で、上記で述べた通り口腔乾燥や虫歯、骨髄炎など、放射線療法後しばらくしてから現れる副作用もあります。この副作用は治療後数か月~数年後経っても持続することがあるので、口の中の状態には十分に気をつけながら生活を送る必要があります。
舌がんの治療は手術が中心ですが、がんの進行度により治療法が異なり、舌の機能や見た目に大きな影響を及ぼします。病気の根治性(完全に治せるか)とQOL(クオリティ・オブ・ライフ:回復後の生活の質)のバランスをよく考えたうえで治療法が選択されるので、舌がんと診断された場合は医師とよく相談しながら納得できる治療が受けられるようにしましょう。
また、治療による副作用や後遺症を最小限にするためにも、なるべく早く舌の異変に気づき、早期がんを発見、早期に治療ができるようにすることが大切です。
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