自分が男性であるか女性であるかは、生まれつき決められているのが自然だと考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。ところが、その分別(性分化)が通常通りに進まず、典型的な状態でないまま生まれる方がいます。このような状態を性分化疾患といいます。性分化疾患は非常にデリケートな社会的側面をもつ病態であり、患者さんには長期にわたる治療ときめこまかなサポートが必要になってきます。今回は性分化疾患について、数多くの患者さんを見守ってきた内分泌・代謝科部長の長谷川行洋先生と、同じく内分泌・代謝科医長の後藤正博先生にお話しいただきました。
性分化とは、生まれてくるまでに起こる性腺および外・内性器の一連の変化を総称したものであり、男の子になるか女の子になるかを決定づけます。
通常、お母さんのお腹の中にいるうちに、徐々に性差ができていきます。しかし、数千人に一人の割合で、この性分化が通常どおりに進まなくなることがあります。このようなお子さんは出生後に外・内性器の形状が非典型的であったり、二次性徴が自然発来する時期になっても一般的な子どもと同じような発達がみられなかったり(生理が起こらない、恥毛が生えないなど)ということが起きます。
性分化疾患で比較的頻度が多いのが尿道下裂(おしっこの出る道が下側にずれているため、尿や精子がまっすぐ出ない状態)や先天性副腎皮質過形成症という疾患です。
東京都立小児総合医療センターでは性分化疾患の患者さんに対する医療チーム「フリージアの会」を発足しており、診療科・職種を超えて多角的なサポートを行っています。
フリージアの花言葉は「親愛の情」「無邪気」などの意味を持ちます。この会は、外科、泌尿器科、内分泌・代謝科、児童・思春期精神科、家族支援部門、看護部門で構成されており、外来診療はもちろんカンファレンスも行います。これにより、医療面から社会面、精神面までしっかりと患者さんを診ていくことができます。
性分化疾患の場合、その出発点は非常に複雑です。チームメンバー全員で十分に討議して、どのような方法で説明すればご両親に一番不安を与えないか、どのようにして周囲に理解していただくかを考えます。
私たちはご両親に対して、「お子さんが男の子と女の子、どちら側の道に入っているのかすぐに判断ができないため、数日のあいだ時間をください」と説明しています。
出産直後というお母さんにとって非常にセンシティブな時期に、疾患について話すことになりますから、言葉の選び方、治療の選び方には慎重を期しています。ここでもチームで医療を提供することが大切になります。なぜなら、その患者さんを治療する関係者間で情報や方針を共有していかないと、治療者ごとにいうことが変わってくるからです。
性は人生を通して重要なテーマです。幼少期における性の発達・思春期における生理や精通の問題・恋愛において自分のジェンダーを決定すること・さらに結婚するとき子どもが産めるか・自分と同じ疾患が子どもに起きないか。このように、性にまつわるテーマは、人生において一生続いていきます。そのような患者さんを長期的にサポートし続けていくことが、チームの目標でもあります。
例えば、2016年に生まれた性分化疾患のお子さんを、その子が大人になるまで同じ医師が継続してフォローし続けることは困難です。しかし、チームならそれまでの過程を引き継いでいけますから、時間軸のつながりができます。これにより、チーム医療に責任が持てるようになります。
性分化疾患は、「手術して終わり」という簡単な問題ではありません。性器の形を整えるとともに、機能的な異常やそれに伴う患者さんの心のケアも行い、一生を支えていくのだと表明することが重要です。これは、ひとりの医師では決してできません。
自分のお子さんが性分化疾患だとわかった場合、悩むのは当然のことでしょう。ですから、悩むなということはできません。その代わり、その事実を受け止めていただきたいと願います。受け止めるために、私たちチームが総力を尽くして支えていきます。性分化疾患という現実を見つめたうえで、できることをしていこうというのが私たちのモットーでもあります。
性分化疾患は非常に繊細で難しい領域です。だからこそ、チーム医療でしっかりと患者さんを支える必要があります。私たちは、患者さんの人生そのものを支えるつもりで治療に臨みます。性というなかなか相談しにくく、誰にでも話せることではないからこそ、貴重な相談の場所になってあげたい。そのために私たちの医療チームが重要になってくると考えています。
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