先天代謝異常症は決して頻度的に多くない疾患です。また、先天代謝異常症の治療はその種類、重症度によっても大きく異なり、無症状であればほとんど治療がいらないこともあります。しかし、まれに命に関わるような激烈な症状を伴うことも予測しておかなければなりません。重症先天代謝異常症の集中治療について、東京都立小児総合医療センター 内分泌・代謝科部長の長谷川行洋先生と、同じく内分泌・代謝科医長の後藤正博先生にお話しいただきました。
代謝とは体に入ってきた栄養素を分解し、体に必要な物質、エネルギーを産生するしくみであり、代謝にあたっては酵素が重要な役割を持ちます。(先天代謝異常症の概要は記事1『先天代謝異常症とはどのような病気か。遺伝子レベルの異常により発症する』を参照)
酵素はタンパク質から作られます。そしてそのタンパク質は、遺伝子の中に書き込まれた情報をもとにして作られています。しかし、いずれかの遺伝子に異常が生じると、その遺伝子に情報が書かれている酵素がうまく合成されません。こうなると、体に悪影響を与える段階のままの物質が体内に蓄積してしまい、生体の機能に障害を及ぼしてしまいます。重症の先天代謝異常症は知能障害やけいれんをもたらすことがあり、症状が激烈な場合、命に関わることすらあります。
先天代謝異常症は複合的な症状が出るため、様々な診療科が連携していくチーム医療が必要となります。そのため、規模の大きな病院で集中的な管理と治療体制を築くことが大切なのです。
重症型の先天代謝異常症を新生児・乳児期に発症するお子さんでは、持続ろ過透析に代表されるような集中管理が必要となります。
東京都立小児総合医療センターは、小児のPICU(集中治療室)を備えた国内でも数少ない病院です。激烈な症状が出た先天代謝異常症のお子さんの管理は、東京都内でも限られた施設でしかできません。このため、他病院から先天代謝異常症のお子さんが東京都立小児総合医療センターに搬送されてくることがしばしばあります。
とはいえ、東京都立小児総合医療センターであっても、PICUに入るほどの激烈な先天代謝異常症の子どもを診るのは年に数人ほどであり、決して頻発する病気ではありません。
現在の日本では年間約100万人の子どもが生まれるといわれています。そのうち、先天代謝異常症になるのは数万人に1人、さらに持続ろ過透析が必要となるほど集中管理が必要となる重症児は年間数人です。
先天代謝異常症に多くみられる症状として嘔吐や成長障害がありますが、そのような症状を訴えて来院してくる方のうち、先天性代謝異常症に該当するのはごく一部の方のみであり、先天代謝異常症を疑うのは慎重であるべきでしょう。
近年、タンデムマス・スクリーニング(詳細は記事1『先天代謝異常症とはどのような病気か。遺伝子レベルの異常により発症する』)が全国的に施行されるようになり、非常に軽度な先天代謝異常症も早期発見されるようになってきています。社会全体で検査を行い、症状が出る前に治療開始するという流れが築かれてきました。
タンデムマス・スクリーニングの結果をもとに治療を行っている患者さんの中には、もしもスクリーニングで発見されなければなにも症状が出ずに経過し、医療機関にかかることなく普通に生活を続けられたであろう方も、一定の割合で含まれていると推測されます。
しかし一方で、早期に対応していなければ、実は将来的に前項で述べたような重い症状が出てくるかもしれないということも考えておく必要があるのです。
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