インタビュー

先天代謝異常症の分類。非常に多くの種類があり、治療法も異なってくる

先天代謝異常症の分類。非常に多くの種類があり、治療法も異なってくる
長谷川 行洋 先生

東京都立小児総合医療センター 内分泌・代謝科 非常勤

長谷川 行洋 先生

後藤 正博 先生

ごとう小児科・成長クリニック 院長

後藤 正博 先生

この記事の最終更新は2016年01月30日です。

代謝とは、体に入ってきた栄養素を分解・合成する体のしくみです。代表的な栄養素としてはアミノ酸・炭水化物(糖質)・脂肪酸などがあります。これらいずれかの栄養素やそれ以外の特定の物質を、生まれつきうまく代謝できないのが、先天代謝異常症です。

先天代謝異常症には様々な種類があり、何の代謝がうまくいっていないのかをきちんと診断していく必要があります。先天代謝異常症の種類によって、治療方針や症状の進行具合は大きく異なり、一般小児科医でもその判断は非常に難しいといわれています。今回は先天代謝異常症のなかでも代表的な疾患について、東京都立小児総合医療センター 内分泌・代謝科部長の長谷川行洋先生と、同じく内分泌・代謝科医長の後藤正博先生にお話しいただきました。

※先天代謝異常症とタンデムマス・スクリーニングの詳細については『先天代謝異常症とはどのような病気か。遺伝子レベルの異常により発症する』をご参照ください

アミノ酸代謝異常症とは、アミノ酸(タンパク質のもとになる栄養素)の代謝に関わる酵素が正常に働かないことによって、毒性のある物質がたまってしまったり、逆に体に必要なアミノ酸が欠乏してしまう疾患です。フェニルケトン尿症メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、高チロシン血症Ⅰ型などが代表的なアミノ酸代謝異常症の疾患であり、タンデムマス・スクリーニング(詳細は記事1『先天代謝異常症とはどのような病気か。遺伝子レベルの異常により発症する』)で発見されます。

アミノ酸代謝異常症は急性発症型・慢性進行型・無症状無治療型などに分類されており、疾患のタイプや体の中に残っている酵素活性の程度によって重症度が異なります。重篤な場合、脳・肝臓・腎臓を中心とした臓器障害を引き起こすこともあります。

有機酸とは、炭素を主成分としている物質「有機」が化合している物質のなかでも酸性が強いもののことをいいます。カルボン酸ともいわれています。

有機酸代謝異常症にかかると、アミノ酸や脂肪酸など、代謝経路に関わる酵素が破綻をきたすことで有機酸が体内に蓄積して、呼吸障害や意識障害、けいれんなどを引き起こします。具体的な疾患としては、メチルマロン酸血症・プロピオン酸血症・マチルプルカルボキシラーゼ欠損症・イソ吉草酸血症・グルタル酸血症1型・メチルクロトニルグリシン尿症・ヒドロキシメチルグルタル酸血症・βケトチオラーゼ欠損症・先天性高尿酸血症などがあります。

肝型糖原病ガラクトース血症などが糖質代謝異常症に分類されます。

●肝型糖原病

糖原病はグリコーゲン(多数のブドウ糖がつながったもの)の代謝が障害されることによって発症します。グリコーゲンが代謝されずに蓄積すると、主に肝臓の機能が障害されます。肝臓が障害される糖原病はⅠ型、Ⅲ型、Ⅵ型、Ⅸ型などがあり、低血糖や発育障害(低身長など)、発達障害、肝腫大(肝臓が腫れる)を主な症状とします。

●ガラクトース血症

乳製品には乳糖という糖類が含まれており、これが新生児・乳児期の主要なエネルギー源となります。乳糖は乳糖分解酵素によってガラクトースとグルコースに分解され、門脈を通じて肝臓へ取り込まれ代謝されますが、ガラクトース血症になるとこの代謝がうまくいかず、ガラクトースが蓄積してしまいます。主な症状は機嫌が悪い・食欲がない・嘔吐や下痢・黄疸・白内障・肝障害などで、乳製品を除去した食事療法が必要となります。なお、ガラクトース血症にはⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型の3種類があります。

脂肪酸とは脂肪を構成する成分であり、エネルギーの貯蔵庫になるという重要な働きを持ちます。脂肪酸代謝異常症では、この脂肪からエネルギーを取り出す過程(脂肪酸β酸化系)に障害が起こります。症状としては、急性期の意識障害やけいれん・筋痛などの筋症状・心筋症状・呼吸器症状などがあります。しかし、病状が落ち着いているときは無症状であり、検査の異常もないことから見逃されるケースも少なくありません。

ミトコンドリア異常症とは、ミトコンドリア(細胞に存在しエネルギーを作り出す器官)が正常に働かないことで様々な障害を起こす疾患です。原因として、ミトコンドリアの設計図であるDNAに、病気を引き起こす良くない変化(病的変異)が起こっていることがわかっています。体のどこのミトコンドリアに異常が生じるかによって障害される臓器が異なり、障害部位に応じて筋力の低下や中枢神経症状、肝症状など様々な症状があらわれます。

ライソゾームとは、不要になったタンパク質・脂肪・糖などの物質を破壊し、細胞内の掃除をする役割を持った小器官です。このライソゾームに含まれる酵素の構造が通常とは異なると、不要な物質を壊すことができなくなります。

ライソゾーム病の酵素の異常は現在40種類ほどが確認されています。そのうちムコ多糖症は子どもに起こりやすいライソゾーム病の一種で、役割を終えたはずのムコ多糖(体液を保持する役割を持つ物質)が分解されず体中に溜まってしまいます。これによって知能・運動・聴力が阻害され、悪化すると様々な臓器に障害がおよぶことがあります。

ヒトの細胞にはたくさんの種類の酵素や小器官が含まれており、いらなくなった脂質や糖質などを分解している。この小器官や酵素が正常ではなくなると、ミトコンドリア異常症やライソゾーム病を引き起こす。

 

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