先天代謝異常症とは、体に必要な栄養素をうまく利用できないために、体内に有害物質がたまってしまったり、逆に必要なものが欠乏してしまったりして、体に様々な影響を与えてしまう生まれつきの病気の総称をいいます。発症頻度は決して高くありませんが、タンデムマス・スクリーニングという検査法の確立により、これまでよりも早期に発見できる先天代謝異常症が注目されるようになってきています。今回は先天代謝異常症について、タンデムマス・スクリーニングという新たな検査方法を含めて、東京都立小児総合医療センター 内分泌・代謝科部長の長谷川行洋先生と、同じく内分泌・代謝科医長の後藤正博先生にお話しいただきました。
代謝とは、体に入ってきた栄養素を分解し、エネルギーを発生させたり、体内で活用しやすい物質に変換したりする体の仕組みです。先天代謝異常症の患者さんでは、様々な遺伝子の異常により特定の物質の代謝が生まれつき正常に働いてくれず、体に良くない影響があらわれます。
先天代謝異常症を見逃してしまい治療が遅れると、症状が悪化することがあるため、注意しておく必要のある疾患ですが、これらの疾患を持った赤ちゃんが生まれてくる確率は決して高くありません。
日常の小児科診療においてよくみられる症状(嘔吐や下痢など)を訴える子どもに対して、安易に先天代謝異常症を疑い、特殊検査をむやみに行うことは好ましくないといえます。同じような症状が出る、より一般的な疾患の可能性をまず除外して、他の疾患では説明がつかない場合にのみ、先天代謝異常症が原因ではないかと考えるようにしています。
何の代謝に異常をきたしているかで症状は異なります。つまり、先天代謝異常症のタイプや重症度によって症状は大きく振れ幅があり、無症状の患者さんから劇的な症状を現す患者さんまで多岐にわたるため、すべての先天代謝異常症の子どもに共通する症状はないということです。
頻度の多いものとしては内臓肥大(肝腫大:肝臓が腫れることなど)や成長障害、発達遅滞などが挙げられます。前項で述べたとおり、決して先天代謝異常症となる子どもが多いわけではないため、医療機関における日常の小児科診療においては、他の一般的な疾患では説明できない症状・経過・検査値が見られるときのみ先天代謝異常症を疑います。
先天代謝異常症のなかには、生後早い時期に採血することで、症状が現れるよりも前に先天代謝異常症を診断して治療を開始し、その後の経過を改善できるものがあります。このような目的で、生まれてきた赤ちゃんすべてに行われている検査を新生児マススクリーニングと呼びます。新生児マススクリーニングでは先天代謝異常症の他にも、ホルモンの異常がある病気を調べることができます。日本において新生児マススクリーニングは1977年から開始され、現在は全国各地でほぼすべての赤ちゃんが検査を受けています。
また、2014年4月より、新たにタンデムマス・スクリーニングという検査が導入されました。従来の新生児マススクリーニングでは、限られた先天代謝異常症(フェニルケトン尿症・メープルシロップ尿症・ホモシスチン尿症・ガラクトース血症)しか対象とされていませんでしたが、タンデムマス・スクリーニングが導入されたことにより、16~22種類(※)まで検査対象が拡大したのです。タンデムマス・スクリーニングでは先天代謝異常症を「脂肪酸代謝異常」「有機酸代謝異常」「アミノ酸代謝異常」の3グループに分けています。
※検査を受ける自治体により、調べられる疾患の種類が異なります。
およそ生後5~7日目ごろに採血を行い、血中成分を検査することで酵素の機能が正常に働いているかどうかを診断します。
先天代謝異常症を早期発見し早期介入に至れば、起こり得る障害を予防し、その子の長い人生を明るい方向へ変える可能性があります。
たとえば先天代謝異常症を持っているお子さんでも、無症状のことは少なくありません。それでも新生児期に治療を開始しないと、後になって後遺症が残ってしまったり、命の危機に瀕してしまったりすることもあることが知られています。だからこそタンデムマス・スクリーニングで、無症状のときにしっかりと検査をすることが必要になるのです。
脂肪酸代謝異常 | 有機酸代謝異常 | アミノ酸代謝異常 |
MCAD欠損症 | メチルマロン酸血症 | フェニルケトン尿症 |
VLCAD欠損症 | プロピオン酸血症 | メープルシロップ尿症 |
TFP(LCHAD)欠損症 | イソ吉草酸血症 | ホモシスチン尿症 |
CPT1欠損症 | メチルクロトニルグリシン尿症 | シトルリン血症1型 |
CPT1欠損症 | HMG血症 | アルギニノコハク酸尿症 |
CACT欠損症 | 複合カルボキシラーゼ欠損症 | 高チロジン血症1型 |
全身性カルニチン欠乏症 | グルタル酸血症1型 | アルギニン血症 |
グルタル酸血症2型 | βケトチオラーゼ欠損症 |
シトリン欠損症 |
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