皮膚科で外用薬を処方された際、どのくらいの量を塗ればよいのか迷われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。外用薬にはFTUという目安量がありますが、これを毎回きちんと計測することは困難です。そのための解決策として最近提唱されているのが、「まずは塗ってみてそのときの感覚を覚える」という方法です。皮膚科外用薬をどのように塗れば適切なのか、国際医療福祉大学三田病院皮膚科講師の竹腰知紀先生にお話しいただきました。
一般的に処方される軟膏はチューブ型で、含有量5gのものが多数です。このようなタイプの場合、人差し指の先端から第1関節まで押し出した軟膏の量が約0.5gにあたります。この量は「1FTU(フィンガーティップユニット)」と呼ばれており、1FTUあたり成人の手の平2枚分の面積を塗ることができます。
0.5gを10回使うと0.5×10=5gになりますから、ひとつのチューブの全量は10FTU ということができます。これは「成人の両手20枚分の面積に塗ることができる」ということを現します。
このようにFTUという考え方自体はあるものの、実際にFTUを考えながら薬を塗るのは大変です。塗る範囲は手のひら何枚分か考えて、それに応じた量の外用薬を指関節の長さで計量するということを、実際に毎日やるのは大変だというご意見もあるかと思いますが、その通りだといえるでしょう。
そこで、現実的な解決策の一つとして、おおよそ1FTUの範囲だと思う部分に、試しに一度塗ってみて、塗ったあとの状態を覚えるという方法があります。
まずは試しに手のひら2枚分程度だと思うところに、1FTUぶんの薬を塗ってみましょう。すると、塗った後にどの程度べたべたした感覚が残るかを実感することができます。そうすれば、他の部分についても同じ状態になるほどの量を目安に外用していくだけですので、決して難しくはありません。
また、塗布後30分程度経てば、油分の多い軟膏であってもべたべたは落ち着いてきますので、30分以上経っても塗布部分がべたべたしていたら、それは塗りすぎということになります。
こうして「これくらいの量を塗らないと効果が薄くなってしまうのか」「このくらいの量で十分なのか」と、体で覚えていただくのがよいかと思います。最初に塗ってみた量を目安にして、適切な量を見極めていくほうが効率的といえますし、わかりやすいのではないでしょうか。
外用薬を塗る際は伸ばす程度でも問題ありません。無理に擦り込まなくても、基材の作用により薬の成分が皮膚にしみこんでいきます。また、塗ってからある程度の時間がたつと薬の成分が皮膚に移行してしまうので、薬が落ちてしまったからといって効き目が全くなくなるというわけではありませんのでご安心ください。
広い範囲に薬を塗るときは、患部の真ん中から周囲に広げようとしてもうまく伸びないことも多いのではないでしょうか。そういった場合は、小さく小分けにして点々と薬を置き、そこから全体に広げるようにするとうまく伸ばせます。
また、「背中に薬を塗るときの塗り方がわからない」というお話もたびたび伺いますが、例えば菜箸や孫の手などにラップを巻き、ラップに薬を塗って背中にこすり付けるようにするとうまく塗ることができます。
頭部の皮膚疾患ではローションタイプの外用薬を頭皮に塗ることも多いと思いますが、頭にボトルの薬を直接振りかけるようにしてしまうとあっという間になくなってしまいます。面倒でも少しずつ手に取って使うようにしましょう。
●軟膏の塗り方のコツまとめ
①軟膏を常温に戻しておく(冷暗所での保存が必要な軟膏は除く)
②広範囲を塗るときは、初めに塗りたい範囲に軟膏を小分けして何カ所かに塗り、その後で全体に広げていく
③一度、前腕などを使い、適切な量の軟膏を塗った感覚を覚えていただく
ステロイド外用薬などは1日2回外用するのが一般的です。強いランクのステロイド外用薬を使用する際には、症状の強い間は1日2回外用し、落ち着いてきたら1日1回外用にする方法もあります。その一方で、最近の抗真菌薬は、外用すると真菌が存在する角質に貯留するため、1日1回でも十分な効果を発揮します。保湿剤などは必要に応じて適宜塗り足して頂いて問題ありませんが、外用薬の中には1日の使用量の上限が決まっているものもあります。薬のタイプや種類によって異なるため、医師の指示通りに塗るのが大切です。
これも医師の指示に従うことが第一ですが、ステロイド外用薬については、原則的には弱い薬から塗っていけば問題ありません。
同じ部位にステロイド外用薬と保湿剤を塗るときの手順は、「ステロイドを先に塗ったほうがステロイドの吸収が良いため、先にステロイドを塗る」という説と「ステロイドを先に塗ってしまうと、上塗りの際ステロイドも一緒に広がり、患部以外の場所にステロイドが塗られてしまうため、後でステロイドを塗る」という説の2種類がありました。
しかし、その後の研究でステロイドと保湿剤を混ぜて外用した場合、ステロイド自体の濃度が薄くなっても、保湿剤によって皮膚の透過性があがることで浸透性が高くなるため、結果的に効果への影響は少ないことが判明しました。
従って外用の順番によるステロイド外用薬の効果はほとんど変わらないと考えてよいでしょう。基本的には塗る範囲が広い薬を先に塗って、その後狭い範囲のものを塗るようにすれば一番問題がないと考えます。医師に特別な指示を受けていれば、それに従ってください。
お風呂上がりは、皮膚に水が補給されている状態です。皮膚の水が保持されているため、保湿剤は風呂から上がって10分以内に塗ると効果が高いという話もあります。
確かに、ワセリンや軟膏系など油分の多い薬は風呂上がりだと効果が高くなるかと思います。その一方で、通常の保湿剤であれば保湿剤自体に水分と油分の両方が含まれていますので、必ずしも風呂上がりである必要はありません。
いずれにしても患者さんによって病態はそれぞれ異なるため、皮膚科医の指示をよく聞いてしっかりと守ることが大切になります。
皮膚科外用薬は、本来ならば混ぜていない状態で最も安定しています。混ぜてしまうと安定性は損なわれますし、長く置いておくと分離してしまうこともあります。しかし、複数の塗り薬を毎日塗るのは大変な作業となるため、きちんと患者さんに外用していただけるよう混合薬を処方することも多くあります。混合薬の場合は、成分の劣化などを考え1~2カ月に一度は新しいものに変えるのが理想的です。
チューブタイプのものには使用期限が書かれているため、その期限を確認することも大切なことといえます。ただし、この使用期限は封を切る前の場合ですので、一度開けてしまったら早めに使用してください。
自己判断で使用すると、その症状に適切でない薬を外用してしまうこともありますので、きちんと皮膚科医の診察を受けて新しい薬を使用していただいた方がよいと考えます。
これまで皮膚科外用薬の塗り方や頻度、塗るタイミングや使用期限についてご説明してきましたが、外用薬による治療は患者さんご自身で塗っていただくものですので、きちんと塗っていただけるかどうかが、治療がうまくいくかどうかを決める大きな要素となります。
適切な薬を塗らなければ皮膚疾患は悪化してしまいます。たとえば記事3『皮膚科外用薬を自分で塗布・貼付するとき何に気を付けるべき? ―ステロイドからニキビ治療薬まで』で少し触れたように、抗真菌薬による接触性皮膚炎に気づかず外用を続けてしまい、症状が悪化してしまうといったことも決して珍しくはありません。
私たち皮膚科医は、診断の確定が難しいとき(例えば、水虫を否定できない症状があるにもかかわらず、検査をしても白癬菌が検出されない場合など)には、暫定的に外用薬を使用して、改善するか・改善しないかをみて診断を絞り込んでいくという手法をとることがあります。症状が悪化した場合でも、悪化したという経過そのものが確定診断の手がかりになることも少なくありませんので、医師の指示に従って再度受診してください。
適切な薬を適切な部位にきちんと塗布することで、正しく皮膚疾患は治療することができます。
国際医療福祉大学三田病院 皮膚科講師
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