『血管輪とはどんな病気? ~血管が輪になって気道や食道を圧迫する子どもの病気~』で述べたように、血管輪はさまざまな種類があります。とはいえ、その手術は難易度の高いものではなく、手術によって改善することができます。しかし、まれに重症化することもあるため注意が必要とされます。東京都立小児総合医療センター 心臓血管外科部長の吉村 幸浩先生に、血管輪の手術治療についてお話しいただきました。
最近では、超音波検査の解像度や技術の向上によって胎児期や出生後の検査で血管輪が疑われるケースもまれにありますが、血管輪に伴う気管や食道の狭窄*症状から発見される場合がほとんどです。血管輪による気管狭窄がとても強い重症例では生まれてすぐに判明することもありますが、それほど多くはありません。新生児状態から少し成長し、段々と動きも活発になり始めたときに、喘鳴(ぜーぜー、ひゅーひゅーと音を立てて呼吸をする呼吸器症状)が目立ったり、かぜの症状が重くなりがちだったりして気付かれる、などのように生後2~3か月から6か月の間に見つかることが多いです。また、血管輪の程度が軽い場合には気道症状はみられず、乳児期後期から幼児期にミルクや離乳食が飲み込みにくい、固形物を食べたがらない、吐いたりするなどの症状から発見されることもあります。
さらには、ほかの先天性心疾患に合併することもあり、心疾患の検査中に血管輪が発見される場合もあります。
血管輪の診断には造影剤を使用したCT検査が有用で、血管輪の種類が分かり手術方針の決定の参考にもなります。
*狭窄:細く狭くなること
血管輪は、後述するように、まれに命にかかわる重症な例もある病気ですが、通常レベルの場合は手術で早期に治すことができます。
血管輪による気管の狭窄がとても強くなり呼吸困難になってしまった場合には、気管内にチューブを入れて酸素を取り込む措置が行われます。そうすると食事もできなくなるため、鼻もしくは口から胃まで細い管を挿入し(胃管といいます)ミルクなどの栄養剤を注入する必要があります(経管栄養といいます)。この状態は血管輪によって狭く押しつぶされた気管と食道の中にそれぞれ硬い管が入っていることになります。そして、この状態が続くと、気管と食道に接した大動脈の壁や気管および食道の壁が次第に弱く薄くなり、最終的にはそれぞれの壁に孔が開いてしまいます。大動脈と気管が交通すると気管に、食道と交通すると食道に大量に出血しますので、緊急手術をしても助からない場合があります。
このように、重症例での気管内チューブと胃管の同時挿入には十分注意する必要があります。
東京都立小児総合医療センターで治療が行われた血管輪のうち、先天性心疾患の合併のない単独の血管輪症例を以下にまとめました。
完全型重複大動脈弓では出生直後から乳児期早期に気道狭窄症状がみられるため、ほかのタイプに比べると早い時期、体格も小さいときに手術が行われています。一方、右側大動脈弓+左動脈管索による血管輪は程度の軽いものが多く、幼児期以降に嚥下障害から症状が診断されるケースもあるので治療年齢は高くなっています。不完全型重複大動脈弓では、閉鎖した左大動脈弓の索状物が残っていますので、多くは乳児期に症状が出現し手術が必要になりますが、中には症状が軽い例もありました。
手術の内容としては、完全型重複大動脈弓の場合には、右と左の大動脈弓のうち細いほうの血管を、不完全型重複大動脈弓の場合には、閉鎖した大動脈弓の索状物を切ります。左大動脈弓あるいは左大動脈弓の索状物を切る際には、左動脈管索も切り離します。これによってリングが途切れ、食道と気管を圧迫しなくなるため症状も改善されます。右側大動脈弓+左動脈管索による血管輪の場合には、左動脈管索を切断することでリングは途切れます。しかし、大きな大動脈憩室から左動脈管索や左鎖骨下動脈が出ている場合には、憩室の切除を行ったり、左鎖骨下動脈の転位を追加したりする場合もあります。いずれにしても、個々の形態に応じた手術で血管輪を解除することで効果は得られます。
血管輪の場合、特に大きな手術条件はありません。年齢が低いから、あるいは体が小さいから手術できないということもないと考えてよいです。血管輪は一般的な血液検査やレントゲン(X線)検査では見つけられないので、診断がつくまでに時間がかかる場合もあります。また、広く知れ渡った病気ではないので、血管輪と診断された際には驚かれるかもしれませんが、あまり不安にならずにお近くの小児循環器科か小児心臓血管外科の医師にご相談してくださればと思います。手術をすれば症状がよくなることが期待できます。また、症状がないか非常に軽い患者さんの中には、手術をせずに注意深く経過観察をされている方もいます。