インタビュー

真珠腫性中耳炎の治療-高難易度の「クローズ法」手術を成功させる工夫

真珠腫性中耳炎の治療-高難易度の「クローズ法」手術を成功させる工夫
白馬 伸洋 先生

帝京大学医学部附属溝口病院 耳鼻咽喉科 教授/科長

白馬 伸洋 先生

この記事の最終更新は2016年03月13日です。

真珠腫性中耳炎の手術には、外耳道を大きく削り、広い術野を作って真珠腫の摘出を行う方法(オープン法・外耳道再建法)と、外耳道を保存したまま手術を行う方法(クローズ法)があります。このうち、患者さんの手術後の生活の質(QOL)が最もよいものは外耳道を削らずに真珠腫を取り除くクローズ法です。しかし、狭い術野で処置を行うクローズ法は非常に難易度が高く、術者に求められるスキルも高度なものになると、耳鼻咽喉科の科長・白馬伸洋先生はおっしゃいます。この記事では、死角がある中で取り残しなく真珠腫を摘出するために、白馬先生が工夫されていることについてお話しいただきました。

クローズ法は、狭い外耳道と外耳道の後にある乳突洞の骨を削開して作った空間から手術器具を入れて処置を行う手術です。そのため、術者の目からは見えない部分(死角)があり、慎重に観察しなければ真珠腫の取り残し(遺残)が生じてしまいます。

また、耳の奥には顔面を動かす神経や味覚を感じる神経などの重要な神経、体のバランスを取る三半規管や音を感じる蝸牛が存在するため、手術中にこれら神経や三半規管、蝸牛を誤って傷つけてしまうと、顔面神経麻痺味覚障害めまいや神経性の難聴など患者さんに大きな障害を残してしまうことになりかねません。ですから、私は複雑な症例に関しては、耳専用の先端が細く角度がつけられた「内視鏡」を併用して手術を行っています。

また、真珠腫の取り残しを防ぐために、真珠腫を分断せず連続性を持ったひとつの塊として摘出することも心掛けています。外耳道と外耳道の後にある乳突洞の骨を削開して作った空間の2か所から器具を入れ、真珠腫を包む膜を破らないよう慎重にどちらかの空間の方向へ真珠腫を押し出すように処置を行います。

また、真珠腫を分断しなければ摘出することができない症例であっても、必ず処置の前に内視鏡を入れて、真珠腫がどのように連続しているかを確認しています。

真珠腫性中耳炎の再発の原因は大きくわけて2つあります。ひとつは「遺残型」と呼ばれる真珠腫の取り残しに因るものです。もうひとつは「再形成型」と呼ばれ、内陥した鼓膜の部分とその周囲で破壊された外耳道骨の補強が不十分であることによって、その部分に再び形成されるものです。後者の再形成を防ぐためには、真珠腫摘出後に鼓膜を補強することが大切です。私が行っている補強法は、耳たぶの後部にある軟骨(耳介軟骨)を薄くスライスした「薄切軟骨」を使用する方法です。耳介軟骨には厚みがあるため、薄くせずにそのまま内陥した鼓膜と破壊された外耳道骨を補強すると、鼓膜と外耳道に凸凹が生じてしまいます。そのため、耳介軟骨を3枚程度に薄くスライスし、花びらのように重ね合わせて内陥した鼓膜と破壊された外耳道骨を的確に補っています。

しかし、耳の形や真珠腫の形状は患者さんごとに異なるため、外耳道を残す「クローズ法」ではどうしても死角ができてしまい、真珠腫の遺残が懸念される症例も存在します。このような症例に対しては、真珠腫の取り残しを防ぐため2回に手術をわける「段階的鼓室形成術」を行います。

(段階的鼓室形成術については、記事5「段階的鼓室形成術と白馬先生の目標-関東でもクローズ法手術を受けられるように」をお読みください。)

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