インタビュー

真珠腫性中耳炎の原因-どのような人が罹りやすい中耳炎か?

真珠腫性中耳炎の原因-どのような人が罹りやすい中耳炎か?
白馬 伸洋 先生

帝京大学医学部附属溝口病院 耳鼻咽喉科 教授/科長

白馬 伸洋 先生

この記事の最終更新は2016年03月10日です。

中耳炎」は一般的に広く知られている耳の疾患ですが、その中には急性や慢性の中耳炎など、様々な種類が存在します。この記事で取り上げる「真珠腫性中耳炎」は慢性中耳炎に分類され、その名の通り、耳の奥に真珠のような丸い塊ができる疾患です。難聴をはじめ、生活に支障をきたす様々な症状が出現する真珠腫性中耳炎は、どのような原因により引き起こされるのでしょうか。帝京大学医学部附属溝口病院耳鼻咽喉科の科長、白馬伸洋先生にお話しいただきました。

難聴や耳だれを主症状とする慢性中耳炎には、3つの種類があります。一つ目は鼓膜に穴が空く穿孔性中耳炎、二つ目は鼓膜全体が内陥(奥へ陥没すること)し、中耳の奥に癒着する癒着性中耳炎、そして三つ目は、鼓膜の一部分が内陥して周囲の外耳道が破壊され、その部分に真珠のような塊ができる「真珠腫性中耳炎」です。

通常であれば、耳垢は皮膚の自浄作用によって体外へと排出されます。しかし、鼓膜の一部がへこんでしまうと耳垢がその部分に蓄積してしまい、徐々に増大して「真珠腫」となります。“腫”という文字から腫瘍をイメージされる方も多いかと思われますが、真珠腫とは、いわば耳垢の塊のようなものなのです。

耳の構造(中耳、耳小骨について)
耳の構造

真珠腫は増大していくとまず周囲の外耳道の骨を圧迫して破壊していきます。さらに、音を伝えるための骨である耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)も破壊されるため、伝音性の難聴が生じます。耳の奥には顔面を動かす神経や味覚を感じる神経などの重要な神経、体のバランスを取る三半規管や音を感じる蝸牛が存在するため、真珠腫がこれらを障害することで顔面神経麻痺味覚障害めまいや神経性の難聴などの症状が引き起こされることもあります。

真珠腫性中耳炎には先天的なものと後天的なものがあり、それぞれ病態が異なります。ここでは後天的な真珠腫性中耳炎の内陥の原因について説明します。私が患者さんに説明する時には鼓膜を「自転車のタイヤ」に喩えて説明しています。

空気がしっかりと入った自転車のタイヤは表面がピンと張ってスムーズに走る事が出来ますが、徐々に空気は抜けていくため、時々、空気入れによって空気を足す必要があります。鼓膜もピンと張っていると、太鼓のように音が響いて良く聞こえます。鼓膜の奥は中耳と言われる部屋ですが、中耳と鼻は「耳管」という管で交通しています。鼓膜をピンと張るために、この耳管が自転車の空気入れと同じように鼻の奥から中耳へ空気を送りこみ、鼓膜をピンと張るようにしています。

もし、鼻アレルギー慢性副鼻腔炎(蓄症)があると、その汚い鼻汁で耳管が詰まっていまい、中耳に充分な空気を送ることが出来なくなるため、鼓膜は空気を失ったタイヤのように凹んでいきます。

また、鼻の奥でリンパ腺の塊であるアデノイドが肥大していると、やはり耳管の一部が塞がれてしまうため中耳に充分な空気を送ることが出来なくなります。

このほか、「鼻すすり」の癖があると、耳管は逆に空気を抜く方向に働くために、鼓膜の内陥を引き起こすことになります。実際に私が治療を行った患者さんの多くが、鼻すすりの癖がある方でした。

先に述べたように、鼓膜とは厚さ0.1mmほどの薄い膜です。鼓膜のほとんどは硬い部分ですが、上方に一部柔らかい部分があります。耳管の働きが障害され、鼓膜が内陥する時には多くの場合、柔らかい部分に内陥が生じます。(なかには硬い部分が全体的に内陥する場合もあります。)鼓膜の内陥が進行するとまず周囲の外耳道が破壊されていきます。そのため、真珠腫性中耳炎の治療(外科的手術)では、真珠腫を摘出するだけでなく、鼓膜が内陥しやすい部分を補強することも大切になります。

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