インタビュー

真珠腫性中耳炎の手術-それぞれのメリット・デメリット

真珠腫性中耳炎の手術-それぞれのメリット・デメリット
白馬 伸洋 先生

帝京大学医学部附属溝口病院 耳鼻咽喉科 教授/科長

白馬 伸洋 先生

この記事の最終更新は2016年03月12日です。

真珠腫性中耳炎は他の中耳炎に比べて重篤な症状を来しやすいため、治療は原則として外科的手術になります。手術の種類は、外耳道を大きく削る「外耳道後壁削開型」(オープン法)と大きく削った後に軟骨や筋肉、筋肉の膜などを用いて外耳道を再建する「外耳道再建法」、外耳道を温存する「外耳道後壁保存型」(クローズ法)の3つがあります。

どの手術を受けるかにより術後の生活の質(QOL)には大きな差が生じるため、私たち一般生活者は、各手術法のメリット・デメリットを知ったうえで治療を受ける病院を決めることが大切です。本記事では、各手術法の違いについて、帝京大学医学部附属溝口病院耳鼻咽喉科の科長・白馬伸洋先生に解説していただきました。

手術を行う医師(術者)にとっては比較的安全に行える「外耳道後壁削開型」(以下、オープン法)と「外耳道再建法」(以下、再建法)は、真珠腫性中耳炎のメジャーな手術法として多くの施設で行われています。しかし、乳突削開(※)と同時に外耳道を大きく削るため、手術を受ける患者さんにとっては様々な不便が生じるというデメリットがあります。

※乳突削開とは:

耳たぶの後ろには乳突突起という突出があります。乳突突起の内部には小さな空洞が多数存在し、ハチの巣のようであることから乳突蜂巣(にゅうとつほうそう)と呼ばれています。乳突蜂巣の奥には乳突洞という空洞があり鼓室へと連絡しているため、ここを手術で切り開くことで鼓室の手術を行うことができます。この部分を削開しても、術後に問題が生じることはありません。

術者から見える部分(術野)を広く確保できるため、真珠腫を取り残し(遺残)なく摘出しやすいというメリットがあります。広い視野で手術を行えるため、誤って顔面を動かす神経、味覚を感じる神経、体のバランスを取る三半規管、音を感じる蝸牛などを障害するなど手術中のトラブルが生じにくい手術法であると言えます。

しかしながら、外耳道を大きく削るため以下のようなデメリットも生じます。

●イヤホンや補聴器が合わなくなる。

●三半規管周囲の骨も大きく削るため、三半規管が外気に触れやすい状態となる。三半規管に冷たい刺激が直接伝わるとめまいが生じるため、水泳などのウォータースポーツを行う時には、専用の耳栓をして冷たい水が耳の中に入らないように気を付けなければならない。

●中耳腔の形態が大きく変わるため、耳が詰まった感じ(耳閉感)がしたり音が変に聴こえるようになる。

●外耳道が大きく開いているため耳に汚れが溜まりやすくなり、など定期的に(2~3か月に1度)耳鼻科で耳掃除をする必要が生じてしまう。

・再建法は外耳道を削った後に作り直す手術法

オープン法のデメリットを改善するために考えられたのが「再建法」です。外耳道とあわせて乳突削開を行い、広い空間を作るという点はオープン法と同じですが、再建法では真珠腫の摘出後に人工骨や軟骨、筋肉や筋肉の膜などを用いて外耳道を作り直します。

再建に用いた軟骨、筋肉、筋肉の膜が外耳道の形態を保っている間は良いのですが、長期間の経過中に再建した外耳道の状態が悪くなり、再建した外耳道が凹むと結局、オープン法の状態となり、前述のようなデメリットが生じます。従って、特にお子さんの真珠腫性中耳炎の治療には、外耳道を保存できるクローズ法が適していると考えます。

治療は患者さんのために行うものですから、医師にとってのメリットが大きく患者さんにはデメリットが多い、という手術法に対して私は疑問を感じています。このような考えに基づき、自身がライフワークとして行っている手術法が「外耳道後壁保存型」(以下、クローズ法)です。

クローズ法は外耳道を削らず乳突削開のみを行い、前(温存した外耳道)と後ろ(乳突洞を裂開した部分)から真珠腫を摘出する手術法です。外耳道を温存できるため、患者さんのQOLを維持することができます。

●外耳道を削らないため、汚れが溜まりにくく、定期的な耳鼻科での耳処置が不要。

●耳栓を使用せず、ウォータースポーツなどを行える。

●外耳道の形状が変わらないため音の聞こえが自然。

●入院期間は1週間程度と短い。

【クローズ法のデメリット】

●術野が狭く、死角がある中で真珠腫の摘出処置を行うため、術者には高度な手技が求められる。

●困難な症例の場合、真珠腫の遺残がないかを確認するために2回にわけて「段階的鼓室形成術」を行うことがある。(全体の1割程度)

このようなデメリットもあるため、クローズ法を安全に行える医師はオープン法に比べ少なくなります。クローズ法を受けたいと希望される場合は、インターネットや書籍で手術成績や件数を調べることをおすすめします。

以上の理由から、患者さんのQOLにとって最も有利な手術法は外耳道を残す方法であると考え、私は鼓室形成術の約90%をクローズ法で行っています。

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    独立行政法人 国立病院機構 東京医療センター 耳鼻咽喉科 科長、人工内耳センター センター長

    みなみ しゅうじろう

    国立病院機構 東京医療センターー低侵襲な医療を患者さんに提供することで地域医療に貢献する

    区西南部医療圏の医療を支える東京医療センターによる、前立腺がん・子宮体がん・胃がん.大腸がん・慢性中耳炎.真珠腫性中耳炎の治療をテーマにした特集です。

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    東京都目黒区東が丘2丁目5-1

    東急田園都市線「駒沢大学」 徒歩15分

    国際医療福祉大学三田病院 耳鼻咽喉科(聴覚・人工内耳センター) 医学部准教授

    たかはし まさひろ

    内科、血液内科、外科、精神科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、糖尿病内科、内分泌内科、脳神経内科、血管外科、脊椎脊髄外科、放射線診断科、放射線治療科、頭頸部外科、病理診断科

    東京都港区三田1丁目4-3

    都営大江戸線「赤羽橋」赤羽橋口出口または中之橋出口 徒歩5分、東京メトロ南北線「麻布十番」3番出口 徒歩8分、都営三田線「芝公園」A2番出口 徒歩10分、JR山手線「田町」三田口出口  車5分 徒歩20分

    東京科学大学 耳鼻咽喉科 医学部内講師

    ほんだ けいじ

    内科、血液内科、膠原病・リウマチ内科、外科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、小児外科、整形外科、形成外科、美容外科、皮膚科、泌尿器科、肛門科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科

    東京都文京区湯島1丁目5-45

    JR中央・総武線「御茶ノ水」東京メトロ丸ノ内線も利用可能 徒歩3分、東京メトロ千代田線「新御茶ノ水」 徒歩5分

    東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学系専攻 認知行動医学講座 耳鼻咽喉科学 講師

    いとう たく

    内科、血液内科、膠原病・リウマチ内科、外科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、小児外科、整形外科、形成外科、美容外科、皮膚科、泌尿器科、肛門科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科

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    JR中央・総武線「御茶ノ水」東京メトロ丸ノ内線も利用可能 徒歩3分、東京メトロ千代田線「新御茶ノ水」 徒歩5分

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