真珠腫性中耳炎は他の中耳炎に比べて重篤な症状を来しやすいため、治療は原則として外科的手術になります。手術の種類は、外耳道を大きく削る「外耳道後壁削開型」(オープン法)と大きく削った後に軟骨や筋肉、筋肉の膜などを用いて外耳道を再建する「外耳道再建法」、外耳道を温存する「外耳道後壁保存型」(クローズ法)の3つがあります。
どの手術を受けるかにより術後の生活の質(QOL)には大きな差が生じるため、私たち一般生活者は、各手術法のメリット・デメリットを知ったうえで治療を受ける病院を決めることが大切です。本記事では、各手術法の違いについて、帝京大学医学部附属溝口病院耳鼻咽喉科の科長・白馬伸洋先生に解説していただきました。
手術を行う医師(術者)にとっては比較的安全に行える「外耳道後壁削開型」(以下、オープン法)と「外耳道再建法」(以下、再建法)は、真珠腫性中耳炎のメジャーな手術法として多くの施設で行われています。しかし、乳突削開(※)と同時に外耳道を大きく削るため、手術を受ける患者さんにとっては様々な不便が生じるというデメリットがあります。
※乳突削開とは:
耳たぶの後ろには乳突突起という突出があります。乳突突起の内部には小さな空洞が多数存在し、ハチの巣のようであることから乳突蜂巣(にゅうとつほうそう)と呼ばれています。乳突蜂巣の奥には乳突洞という空洞があり鼓室へと連絡しているため、ここを手術で切り開くことで鼓室の手術を行うことができます。この部分を削開しても、術後に問題が生じることはありません。
術者から見える部分(術野)を広く確保できるため、真珠腫を取り残し(遺残)なく摘出しやすいというメリットがあります。広い視野で手術を行えるため、誤って顔面を動かす神経、味覚を感じる神経、体のバランスを取る三半規管、音を感じる蝸牛などを障害するなど手術中のトラブルが生じにくい手術法であると言えます。
しかしながら、外耳道を大きく削るため以下のようなデメリットも生じます。
●イヤホンや補聴器が合わなくなる。
●三半規管周囲の骨も大きく削るため、三半規管が外気に触れやすい状態となる。三半規管に冷たい刺激が直接伝わるとめまいが生じるため、水泳などのウォータースポーツを行う時には、専用の耳栓をして冷たい水が耳の中に入らないように気を付けなければならない。
●中耳腔の形態が大きく変わるため、耳が詰まった感じ(耳閉感)がしたり音が変に聴こえるようになる。
●外耳道が大きく開いているため耳に汚れが溜まりやすくなり、など定期的に(2~3か月に1度)耳鼻科で耳掃除をする必要が生じてしまう。
・再建法は外耳道を削った後に作り直す手術法
オープン法のデメリットを改善するために考えられたのが「再建法」です。外耳道とあわせて乳突削開を行い、広い空間を作るという点はオープン法と同じですが、再建法では真珠腫の摘出後に人工骨や軟骨、筋肉や筋肉の膜などを用いて外耳道を作り直します。
再建に用いた軟骨、筋肉、筋肉の膜が外耳道の形態を保っている間は良いのですが、長期間の経過中に再建した外耳道の状態が悪くなり、再建した外耳道が凹むと結局、オープン法の状態となり、前述のようなデメリットが生じます。従って、特にお子さんの真珠腫性中耳炎の治療には、外耳道を保存できるクローズ法が適していると考えます。
治療は患者さんのために行うものですから、医師にとってのメリットが大きく患者さんにはデメリットが多い、という手術法に対して私は疑問を感じています。このような考えに基づき、自身がライフワークとして行っている手術法が「外耳道後壁保存型」(以下、クローズ法)です。
クローズ法は外耳道を削らず乳突削開のみを行い、前(温存した外耳道)と後ろ(乳突洞を裂開した部分)から真珠腫を摘出する手術法です。外耳道を温存できるため、患者さんのQOLを維持することができます。
●外耳道を削らないため、汚れが溜まりにくく、定期的な耳鼻科での耳処置が不要。
●耳栓を使用せず、ウォータースポーツなどを行える。
●外耳道の形状が変わらないため音の聞こえが自然。
●入院期間は1週間程度と短い。
●術野が狭く、死角がある中で真珠腫の摘出処置を行うため、術者には高度な手技が求められる。
●困難な症例の場合、真珠腫の遺残がないかを確認するために2回にわけて「段階的鼓室形成術」を行うことがある。(全体の1割程度)
このようなデメリットもあるため、クローズ法を安全に行える医師はオープン法に比べ少なくなります。クローズ法を受けたいと希望される場合は、インターネットや書籍で手術成績や件数を調べることをおすすめします。
以上の理由から、患者さんのQOLにとって最も有利な手術法は外耳道を残す方法であると考え、私は鼓室形成術の約90%をクローズ法で行っています。
関連の医療相談が9件あります
真珠腫 聴力回復は可能か?
15年前に左耳の真珠腫の手術を受けました。 耳小骨が溶けている状態で聴力を失いました。顔面麻痺も残っております。 当時聴力回復する術はないと聞き諦めておりました。 右耳は正常ですが、仕事やコミニュケーションに支障は出ております。 15年経った今でも、耳小骨の再建など、聴力を取り戻する方法はないものでしょうか。
鼻をすするのと真珠腫性中耳炎の関係について
小学生の頃から副鼻腔炎とかあって耳鼻科にはずっとお世話になっていた状態でした。 成人してからも、耳が痛くなったり、耳掃除をすると大きな塊が出たりあって、その都度近所の耳鼻科に通院して、内耳炎とか外耳炎とか言われ、耳垢?の塊をとってもらったり点耳薬や抗生剤の飲み薬で治療をしてました。 だんだん、仕事も忙しく毎回病院にいけなくなり、自分で塊をとったりしていました。今月に入って、右耳がすごく痛くて目が覚め、慌てて会社近くにある初めての耳鼻科に駆け込んだところ、予想通り急性中耳炎と言われ、抗生剤と点耳薬が4日分出されました。 痛みは治まったのですが、これまでしばらく放置していたこともあり、一応見てもらおうと思い再受診しました。 鼻はすする方かと聞かれたので、副鼻腔炎と過去に言われた事とここ数年はアレルギー性鼻炎もあるので、鼻をすすっているかもと伝えると、「真珠腫かな」と言われました。 手術したほうがいいかも、とりあえず毎週受診をしていたのですが、仕事中に右耳の違和感というか聞こえないような感じがあったので、受診し聴力検査をしたところ、大きな病院の方が良いと紹介状を書いてくれ、今週初めに総合病院の耳鼻科を受診しました。 結果はかなり大きな真珠腫があるので、早めに手術をした方が良いと言うことでした。CT等の検査は予約済です。時間をかけて大きくなったようなのですが、鼻をすするのと真珠腫の関係は何かあるんでしょうか?主治医は忙しそうでなんで真珠腫になったのかとかメカニズムを詳しく聞いてません。多少なりとも知識を持ったうえで手術の話などに備えたいので、こちらに質問させてもらいました。
最初は耳のこもりだけでした。
23日のお昼頃、左耳のこもった感じがありました。 そして25日に耳鼻咽喉科へ行き、聴力検査(学校で受けるような検査と雑音が片耳ずつ入りながらの検査)と耳管通気をしてもらいました。 結果、左耳が聞こえにくくなっているようでした。 花粉症の症状が出始めたと同時になったものですから花粉症の薬を処方されました。 しかし、耳のこもりは取れません。 そして最近は耳鳴りも出始めました。 キーンという金属と金属がぶつかり合うような音です。 お恥ずかしいお話ですが、鼻詰まりがひどく、市販の点鼻薬を何年も使用していました。 花粉症の薬を処方され、飲み始めてからは嘘のように鼻詰まりが消え、今は使用していません。 正直、点鼻薬中毒みたいになっていました。 ちょっと鼻詰まるとすぐ点鼻薬みたいな感じです。 正直今はこの薬で鼻詰まりが治まってるだけで薬切れたら鼻詰まり再開するんじゃないかと凄い不安でもあります。 この鼻詰まりの件は先生にお話できませんでした。 これを伝えた方が宜しいのか、また、耳のこもりと耳鳴りはどうしたら良いのでしょうか? まとまっていない文章で申し訳ないですがどうぞ宜しくお願いします。
耳がボコボコする
1ヶ月前から時々左耳がボコボコします。 鼓膜が脈を打つ感覚があります。 生理中、前後に起こり、5〜10分で治ります。毎日ではないです。 1ヶ月前に初めてその症状が出て、1週間ぐらいで治りましたが、今月、生理になってまた出てきました。また一週間ぐらいで治りましたが。 耳が痛い(両方)、物が詰まってるような感じがする(左耳)時もたまにあります。その症状も1日や2日で収まりますが。 また、一週間前にイヤホンをしたままくしゃみをしたところ右耳が痛くなったこともありました。(1.2日で治りました) 1年前より顎関節症発症しており、その影響もあるかもしれませんが、耳鼻科にもかかった方がよいでしょうか。 またこのような症状が出る病気としてはどのようなものがありますか。教えてください。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「真珠腫性中耳炎」を登録すると、新着の情報をお知らせします