耳の中の炎症部分から膿などの液体がこぼれている状態を「耳だれ」といいます。炎症を抑える薬で大半は治癒しますが、ひどくなると耳の中の手術が必要になる場合もあります。耳だれで疑われる疾患とその対処法について、兵庫医科大学病院副院長で耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室主任教授の阪上雅史先生にお話を伺いました。
耳だれは、耳から液体が出てくる状態のことで、「耳漏(じろう)」とも呼ばれます。感染や傷などによって耳の中が炎症を起こし、滲出(しんしゅつ・にじみでること)液や膿(うみ)が外に出てきている状態をいいます。中耳や外耳道が何らかの原因によって炎症を起こしていることが考えられ、出てきている液の性質を見ていくつかの疾患に分類できます。
細胞または毛細血管からさらっとした滲出液が出ている「漿液(しょうえき)性」は、外耳湿疹や外耳道炎、耳のかきすぎが考えられます。細菌感染などで炎症を起こした組織が溶け込んで滲出液が濃厚になった「膿性」の場合、外耳炎のほか急性中耳炎が疑われます。軽中程度の急性中耳炎では生じませんが、進行して鼓膜が破れた場合や、慢性(化膿性)中耳炎になると出てきます。また、鼓膜炎では膿のほか血が出ることもあります。非常にまれですが「水様性」もあります。外傷などの原因で髄液が外耳道に流れ出している状態です。血が出ることもあります。真珠腫性中耳炎が原因であることが多く、まれですが外傷や悪性腫瘍から生じてくるケースです。
耳の中を掃除する耳内クリーニングが一般的です。生理食塩水を使って耳の中をきれいにします。入り口は自分で掃除できても、鼓膜まではおよそ3cmの長さがあり前方に屈曲しているので、不用意に道具を突っ込むと耳を傷つけさらに悪化させることになりかねません。耳鼻咽喉科でちゃんと清掃してもらうのが望ましいです。感染がある場合には、抗生剤やステロイド剤の点耳液を垂らします。また抗生剤を内服する場合もあります。
慢性中耳炎や真珠腫性中耳炎になると聴力が衰えてきます。真珠腫性中耳炎を起こすと、かつては髄膜炎などの頭蓋内合併症を引き起こしていましたが、現在では抗生剤が使われるようになったため、めったにそういうことはありません。顔面神経麻痺やめまいなどの頭蓋内合併症は時々みられます。外耳湿疹や鼓膜炎はほうっておくと慢性化して、いつも耳がかゆい状態が続きます。
慢性(化膿性)中耳炎と真珠腫性中耳炎は手術が必要になることもあります。その場合、炎症を取り去って聴力を改善するための手術である「鼓室形成術」を行います。まず鼓膜に穴が開いていればそれを閉じる鼓膜形成術を行い、側頭部の乳突に炎症が及んでいる場合にはそこを削開(さっかい)し、炎症を取り去ります。聴力を改善するために中耳にある「ツチ骨」「キヌタ骨」「アブミ骨」の3つの耳小骨形成術を行います。
兵庫医科大学病院 病院長
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