症状改善に高い評価のあるDBS治療。今後どのような病気に応用されていくのでしょうか。現在進んでいる研究や応用が期待できる病気について脳神経外科医師、湘南医療大学副学長の片山容一先生にうかがいます。
DBS治療は、現在海外でも精神疾患への応用が研究されています。慎重に進めるのであれば、反対する理由はありません。しかし、今はまだ解決していないいくつかの問題をクリアせずに、技術だけ持ち込んでしまうのは危険もあると思っています。その理由は、「DBS」は「Self Stimulation」、つまり医師の許可した範囲内であれば、患者さんが自分でスイッチを入れたり切ったり、刺激を弱くしたり強くしたり調節することができるという点にあります。たとえば、私たちは薬を飲みたい時、医師が処方するという方法と、自分で買って飲むという方法を選ぶことができます。そこで発生する問題が薬物乱用です。これと同様に、DBSの装置は自分で調節できるため、自分の要求に合わせて本来の目的とは違う使い方ができてしまうという危険性があるのです。
「本来の目的とは違う使い方」をわかりやすくお伝えするために、アメリカの薬物問題を例に挙げます。今から20年ほど前、うつ病の治療に使われる抗うつ薬の乱用が問題になりました。アメリカは競争社会で非常にシビアです。毎日はつらつと元気に仕事をしないと周りに負けてしまうような職業に就いている方たちの間で、うつ病ではないのに抗うつ剤を飲んで会社に行くという現象が起きてしまいました。「精神をコントロールする」ということは非常に難しいことで、精神治療に使用されるものはすべて本来の目的ではないところに利用の価値が見いだされる危険があるのです。これは、精神の「よい状態」「治った状態」「正常な状態」が、主観的にしか判断できないという特徴があるためです。
DBS治療がパーキンソン病の治療として確立する以前に、統合失調症やてんかん、うつ病、ナルコレプシーなどで研究が行われていたことがありました。その際、刺激に対して依存性を強く示した患者さんがいたことが記録に残っています。
つまり、「誰がどのように刺激を調節する権利があるか」という課題が、精神疾患においてもっともネックになります。もしここで、本人に調節する権利があるとした場合、薬と同じ乱用問題が発生する可能性があります。では、家族や医師に調節する権利があるとした場合、果たして正確に「人の気持ちの状態」を判断できるでしょうか。毎日四六時中医師や家族が患者さんと過ごせるのならばいざ知らず、現実的にはそれも難しいでしょう。
青森大学 脳と健康科学研究センター長、青森新都市病院 総長、日本大学脳神経外科 名誉教授
片山 容一 先生の所属医療機関
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