インタビュー

胃潰瘍(胃かいよう)とはどのような病気?胃カメラの写真でみるステージごとの症状

胃潰瘍(胃かいよう)とはどのような病気?胃カメラの写真でみるステージごとの症状
山根 建樹 先生

国際医療福祉大学 教授、国際医療福祉大学塩谷病院 消化器内科部長

山根 建樹 先生

この記事の最終更新は2016年03月20日です。

胃の粘膜が胃酸などにより傷害され、腹痛や吐き気を惹き起こす「胃潰瘍」は、胃の疾患の中でも比較的身近な病気です。胃潰瘍とはどのような病気で、罹患した場合胃の内部はどのような状態になるのでしょうか。国際医療福祉大学塩谷病院消化器内科部長の山根建樹先生に、ステージごとの症例写真と共に解説していただきました。

健康な胃は「攻撃因子」である胃酸やペプシンなどから自己を守るために、胃粘液を分泌するなどの「防御因子」により粘膜表面を保護しています。ところが、粘膜の粘液や血流の減少などから、「防御因子」が弱まると、攻撃因子が優位になるため胃粘膜が傷害されてしまいます。このように防御因子が弱ってしまう主な原因には、ピロリ菌と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の2つが挙げられます。

胃壁は粘膜固有層・粘膜下層・固有筋層・漿膜(しょうまく)などからなっており、傷害は損傷される深さによってびらんと潰瘍に分類されます。粘膜固有層までの傷害がびらんですが、本記事では粘膜下層よりも深部にまで傷が及ぶ「胃潰瘍」についてご説明していきます。

胃潰瘍
胃潰瘍

十二指腸潰瘍では図のように自由穿孔がみられることもありますが、本記事で取り扱う「胃潰瘍」で胃壁が自由穿孔することはあまりありません。

まず、活動期(active stage)・治癒過程期(healing stage)・瘢痕期(scarring stage)の3つに大別され、それぞれが更に2段階に分けられます。この分類法は、1961年に国立がんセンターの崎田隆夫教授、三輪剛教授らが作成したため「崎田・三輪分類」とも呼ばれており、内視鏡による検査や治療の際の重要な指標となっています。各ステージの症状やその特徴を、症例写真と共にみていきましょう。

ステージごとに症状が異なります。画像とともに詳細を紹介します。

A1:

潰瘍が活発に活動している急性期で、潰瘍底は厚みのある白苔(はくたい)に覆われ、凝血塊の付着や血管の露出、出血などがみられ、また潰瘍の辺縁は浮腫状に膨らみます。この写真では、潰瘍底に凝血塊の付着がみられます。

胃潰瘍症例1
前庭部の巨大潰瘍/NSAIDs潰瘍(ロキソプロフェンナトリウム水和物 服用)/ピロリ菌陰性/A1 stage

A2:

潰瘍底はA1に比べきれいな白苔に覆われるようになり、露出血管や凝血塊の付着はなくなり、潰瘍辺縁部の浮腫も減退します。この写真は上に示した症例の治療開始後のもので、凝血塊の付着はなくなっています。

前庭部の巨大潰瘍
前庭部の巨大潰瘍/NSAIDs潰瘍(ロキソプロフェンナトリウム水和物 服用)/ピロリ菌陰性/A2 stage

H1:

潰瘍が小さくなり始める時期です。白苔は薄くなり、潰瘍辺縁の浮腫は消褪し赤色の再生上皮の出現がみられます。

前庭部の多発性潰瘍/NSAIDs潰瘍(ロルカム服用)/ピロリ菌陰性/H1 stage
前庭部の多発性潰瘍/NSAIDs潰瘍(ロルノキシカム 服用)/ピロリ菌陰性/H1 stage

※この写真は上部に掲載している前庭部の巨大潰瘍とは異なるNSAIDs潰瘍(多発性潰瘍)の症例写真です。

H2:

潰瘍が更に小さくなり、再生上皮が著明となります。

S1:

潰瘍の白苔は消失し、赤色の瘢痕となります。写真は上に示した症例の治療後のものです。

前庭部の多発性潰瘍/NSAIDs潰瘍(ロルカム服用)/ピロリ菌陰性/S1 stage
前庭部の多発性潰瘍/NSAIDs潰瘍(ロルノキシカム 服用)/ピロリ菌陰性/S1 stage

S2:

発赤が消失し、白色の瘢痕となります。

症例写真提供:全て山根建樹先生より

胃潰瘍は、原因がピロリ菌(Helicobacter pylori:Hp)感染によるHp潰瘍と、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服薬が原因となるNSAIDs潰瘍に分けられます。

どちらの胃潰瘍も罹りやすさに性差はありませんが、患者さんの年齢層には違いがみられます。

Hp潰瘍は40歳から50歳で発症しやすく、高齢になると胃酸分泌が低下することから罹患しにくくなります。一方、NSAIDs潰瘍は消炎鎮痛作用を持つ薬剤によるものですので、腰や膝に痛みを抱え、NSAIDsを服用している高齢者の方に多くみられます。胃潰瘍の治療方針は、Hp潰瘍かNSAIDs潰瘍かを明確に見極めたうえで考えていく必要があります。

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