抗血小板作用があることから脳梗塞・心筋梗塞・狭心症などの心血管疾患の予防として処方されることの多い低用量アスピリン。アスピリンが胃潰瘍などの粘膜傷害を引き起こすことは知られています。しかし、実は低用量であっても同様に粘膜傷害を引き起こすことがあります。発症部位は胃や十二指腸だけでなく小腸や大腸に起きた例もあります。低用量アスピリンの副作用で生じる粘膜傷害とはどのようなものでしょうか。また、その予防法はあるのでしょうか。低用量アスピリンが引き起こす粘膜傷害について、埼玉医科大学病院 消化管内科診療部長・教授の今枝博之先生にお話をおうかがいしました。
低用量アスピリンとは、脳卒中や狭心症、心筋梗塞などの再発予防のために処方されるごく少量のアスピリンです。低用量アスピリンには抗血小板作用(血液をサラサラにする作用)があります。
低用量アスピリンには、小腸で吸収される製剤と胃・十二指腸で吸収される製剤があります。一般的に、小腸で吸収される製剤のほうが胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの粘膜傷害が起きにくいといわれていますが、まったく起きないというわけではありません。
低用量アスピリンを含む非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は、痛みのもとになる酵素(COX)の働きを抑制します。COXにはCOX-1とCOX-2の2種類があり、COX-1は消化管粘膜や血小板などで恒常的に作られ、COX-2は炎症などの刺激があったときに作られています。通常、COX-2の生成を抑えることで解熱・鎮痛・消炎作用が発揮されますが、アスピリンはCOX-2と同時にCOX-1も低下させます。COX-1が抑えられると、消化管粘膜を保護しているプロスタグランジン(PG)の合成も抑制され、胃酸の分泌の増加や消化管粘膜の血流が悪くなるなどの症状が起き、その結果として粘膜傷害を起こす原因となるのです。
また、NSAIDは細胞質内のミトコンドリア機能の傷害が起こることにより細胞同士の結合がゆるんで粘膜透過性が亢進することにより、胆汁や腸内細菌、食事、毒素などが粘膜内に侵入して粘膜傷害をきたします。
低用量アスピリンによる粘膜傷害は、胃や十二指腸のほかに小腸や大腸でも起きることが確認されています。潰瘍やびらんまではいかずとも、少し粘膜が赤くなるといった軽度の粘膜傷害も含めると、低用量アスピリン服用者の8〜9割に粘膜の異常がみられます。
特に現在よく処方されている小腸で溶ける製剤では、今まで起こりにくかった小腸の粘膜傷害も起こりやすくなりました。
現在では、高齢化などにより低用量アスピリンを服用する患者さんが増えてきています。先に述べたように低用量アスピリンは血液をサラサラにする作用があることから、脳卒中や心筋梗塞などの再発予防として処方されます。しかし近年ではそれらの病気の既往歴がなくても予防的に処方する医師もいます。そのため、最近では高齢者を中心に低用量アスピリンによる粘膜傷害は増えてきているといえるでしょう。
低用量アスピリンは脳卒中や心筋梗塞の予防として服用するとなれば、その服用は長期にわたります。低用量アスピリンは長期間服用すると、粘膜傷害が起きるリスクが高くなることが予想されます。
低用量アスピリンによる胃十二指腸からの出血など、粘膜傷害のリスクが起きやすい患者さんには以下の傾向がみられます。
低用量アスピリンを服用することにより、胃十二指腸からの出血のリスクは2.3〜3.9倍増加します。それに上記のリスクファクターが加わることで、さらにリスクが上昇するのです。たとえば、NSAIDを服用していてもピロリ菌感染がない患者さんと、NSAID服用かつピロリ菌に感染している患者さんとでは、後者のほうが出血のリスクが2倍近くにあがるという統計も出ています。
一方で、小腸粘膜傷害のリスクとしては胃酸分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)があげられています。これはPPIにより胃酸分泌が抑制されることにより、口から入った細菌が胃をすりぬけて腸内細菌叢に影響を与えるのではないかと考えられています。
低用量アスピリンによる粘膜傷害は自覚症状に乏しく、症状が進行すると貧血や胃痛や食欲不振、吐き気、吐血や下血などの症状が現れることがあります。実際、私のところへいらっしゃる患者さんのなかでもただの貧血だと思っていたら小腸潰瘍などの粘膜傷害だったということもたびたびあります。
もし低用量アスピリンを服用中で少しでも胃などの腹部に違和感を覚えたり貧血の症状を感じることがあれば、医療機関を受診することをおすすめします。
粘膜傷害の原因が低用量アスピリンだと考えられる場合は、第一選択として休薬を行います。しかし、脳卒中や心筋梗塞などの再発予防として低用量アスピリンを服用している場合、休薬するとこれらの病気が発症するおそれがあるため、休薬は容易ではありません。この際には、胃や十二指腸の潰瘍では胃酸分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)を併用することにより多くの潰瘍は治ります。一方、小腸潰瘍など小腸からの出血の際には、レバミピドという胃粘膜保護薬を併用しますが(保険適応外)、確実な治療ではありません。もし可能ならば、低用量アスピリンを他の抗血栓薬への変更も考慮します。
低用量アスピリンによる粘膜傷害を予防するには、第一に「かかりつけ医とよく相談して、やみくもに薬を飲まない」ことを心がけることが大切です。どんなに安全な薬であっても、必ず副作用があります。また、その薬単体では副作用が出なくても、薬を何種類も服用することによって起こる相乗作用もあります。
特に高齢者の方は、いくつもの病院やクリニックでさまざまな薬を処方されていることが多いと思います。ですからお薬手帳を忘れずに持参して「自分が今何の薬を飲んでいるか」「本当にこの薬を飲む必要があるのか」ということをきちんと医師に伝えられるようにするとよいでしょう。
また、高齢で、潰瘍の既往のある方などで低用量アスピリンを服用する場合にはPPIを予防的に服用することをおすすめします。
埼玉医科大学病院消化管内科 診療部長 教授
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