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インタビュー

ゲノム情報の共有と個人情報保護

ゲノム情報の共有と個人情報保護
吉田 輝彦 先生

国立研究開発法人国立がん研究センター研究所 遺伝医学研究分野 分野長 /同研究支援センター ...

吉田 輝彦 先生

国立研究開発法人国立がん研究センターでは、網羅的な遺伝子診断に基づく診療を本格的に導入するため、中央病院に「遺伝子診療部門」を2015年11月に新たに開設しました。遺伝子診療がますます加速する中で、ゲノム情報の蓄積や共有が求められています。しかしその一方で、ゲノム情報には個人識別符号ととしての性格もあり、いわゆる個人情報として慎重に取り扱わなければならないという課題もあります。国立がん研究センター中央病院で遺伝子診療部門の部門長を務める吉田輝彦先生にお話をうかがいました。

ゲノム診療に関してはまだまだ研究的な側面が大きく、未知の部分が大多数を占めています。そこで研究者がデータを共有していくために、データを蓄積し、それを活用するシステムが必要となります。ゲノム情報の二次利用は、国が推進している健康・医療戦略の中でも、「ゲノム医療を用いた医療等の実用化推進タスクフォース」においても検討課題のひとつとして挙げられています。

たとえば国立がん研究センターの臨床ゲノム検査(クリニカル・シークエンス)などのように、医療施設内の閉じた状態で管理されているデータがあります。これらを多くの施設で持ち寄ってデータにしていくことで、各病院単位では数例・数十例でも、全国では数百例以上集まるかもしれません。

そうすると、こういう変異を持っている人にこういう薬を投与したらこういう結果でしたというデータが蓄積していきます。この元となる「データ」から今度は「ナレッジ(知識)」として教科書やガイドラインとなるものができてきます。それに基いて、こういう遺伝子変異があったらこの薬を使おうという運用が可能になってきます。まず観察研究として多くのデータを積み重ね、仮説を見いだしてそれを検証していくというメカニズムが絶対に必要だと考えています。

こういった面では、やはりアメリカが先行しています。ClinVarおよびClinGenと呼ばれるデータ共有システムは、NIH(National Institute of Health:アメリカ国立衛生研究所)が助成しているものです。日本においても今後日本人のデータを集める仕組みを作っていくことが求められると考えます。

ClinVarというのは遺伝子変異のデータベースで、ClinGenというのがそれに医学的な意味付けをするシステムのようなものです。循環器・先天性代謝異常・遺伝性腫瘍・薬理ゲノム学・がんなどそれぞれの専門家がさまざまな施設から集まってくるデータの意味付けをし、基本的にインターネットで誰でも自由に使えるひとつのリファレンスデータベースになっています。

ClinVerはアメリカ人中心のデータベースですから、日本の医療のためには、日本人のデータというものがやはり必要です。さらに、多様な民族のデータが集まるということも非常に重要です。日本人だけではゲノムが均一すぎてわからないという部分が、アフリカ人のデータも組み合わせて検討するともう少しゲノムの多様性を細分化して見ることができるから原因が突き止められるといったことも考えられます。このような国際連携も今後重要になってくるでしょう。

移民先のデータをみると、日本人に多くみられるがんが移民先では必ずしも多くなく、二世、三世と世代が下るにつれてその頻度が減っていくが、移民先の国の他の国民と同じレベルまでは下がらないことが少なくありません。つまり、がんの発症には、生活習慣と遺伝子の両方が関係していることを示していますす。

このようなことを明らかにしていくためにも、個人情報保護や差別の問題に十分に対応した上で、医学研究のために研究者がデータを共有できるようにしていくことが大切です。さらにそのデータにはゲノムだけではなく、臨床情報が付随していることも重要になります。

ゲノムよりもさらに複雑な臨床情報を、いかに共有し、有効に活用するかということは個人情報保護以外にも大きな課題があります。医師が記述するカルテは必ずしもデータベース用にはなっていないため統一されておらず、単に既存のカルテを結合してビッグデータを作りさえすればよいという簡単なものではありません。医療情報をできるだけ標準化・共有し、次の世代の患者に役立てていくことが必要で、それを可能にするための仕組みが盛んに議論されています。

ゲノム情報が個人情報にあたるのかどうかという議論については、上記のタスクフォースでは「ゲノム情報」と「ゲノムデータ」を区別して扱うという流れになっています。ゲノムデータというのはATGC(DNAを構成する塩基)の配列のことを指しており、条件がそろえば、ヒトゲノム全体の30億塩基対のうち、27箇所だけのデータで、日本人集団の中で特定の個人が識別できることになります。さらにデータ量のみならず、データの精度等の問題もあるため、個人を識別し、個人に到達できるゲノムデータとは何かについて検討されているようです。

塩基配列を文字列で表記したゲノムデータは、それ単体では医学的意味合いを持つものではありませんが、ゲノム情報になると、遺伝子変異によってこういう病気にかかりやすいなどといった、その配列の医学的意味付けが付いています。そうすると「人種」や「病歴」にも準ずるものであるということから「要配慮個人情報」であるので、オプトインでの本人同意がないと使えないなど、現在より厳しい取り扱いにすべきという議論もなされています。

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  • 国立研究開発法人国立がん研究センター研究所 遺伝医学研究分野 分野長 /同研究支援センター センター長/基盤研究支援施設 施設長

    吉田 輝彦 先生

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