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人工股関節全置換術(THA)は、記事1『大腿骨頭壊死とは。手術によって治るのか?』で紹介した大腿骨頭壊死や変形性股関節症、関節リウマチなどの患者さんに適応される手術で、変形した股関節を人工のイン...
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最新医療機器 股関節手術台・〜As You Walk〜LECURE®について―前方法アプローチの普及を目指して

公開日 2016 年 05 月 18 日 | 更新日 2017 年 05 月 08 日

最新医療機器 股関節手術台・〜As You Walk〜LECURE®について―前方法アプローチの普及を目指して
中村 順一 先生

千葉大学医学部附属病院整形外科 講師

中村 順一 先生

人工股関節全置換術(THA)は、記事1『大腿骨頭壊死とは。手術によって治るのか?』で紹介した大腿骨頭壊死や変形性股関節症、関節リウマチなどの患者さんに適応される手術で、変形した股関節を人工のインプラントに置き換えます。手術方法には後方法や側方法、前方法など様々なアプローチがあります。千葉大学医学部附属病院整形外科助教の中村順一先生は、このうち最も患者さんにとって負担が少ない「前方法による人工股関節全置換術(THA)」を普及するため、専用の手術台「〜As You Walk〜LECURE®(アズ・ユー・ウォーク・ルキュア)」を開発されました。今回は、人工股関節全置換術(THA)の概要を交えて、中村先生がLECURE®を開発するに至った経緯からLECURE®の仕組みまで、詳しくお話しいただきました。

股関節の仕組みと人工股関節全置換術(THA)について

股関節は、外部から関節に加わる力が下肢では最も大きい部分であり、歩行機能にも関与します。変形性股関節症や大腿骨頭壊死症を発症すると、股関節に疼痛(とうつう)を生じ、かつ歩行障害のために生活の質(QOL)が損なわれます。

人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)は、変形した股関節を人工のインプラントに置き換える手術です。人工関節は金属製のステム(大腿骨側にあたる骨頭を支えるための部品)と骨頭、カップ(股関節の屋根にあたる寛骨臼側の部品)から構成されます。人工股関節全置換術(THA)を行うと、痛みがとれて再び歩けるようになります。患者さんの満足度が非常に高い治療といえます。

人工股関節全置換術(THA)の適応疾患は大腿骨頭壊死、関節リウマチ、変形性股関節症、一部の大腿骨頚部骨折などです。

参考リンク:『人工股関節置換術とその種類、手術の流れ』

人工股関節全置換術(THA)が現在注目を集める理由とは

日本では、人工股関節全置換術(THA)といえば患者さんが側臥位(横向きに寝た状態)になった状態で行う後方法や側方法が主流でした。しかし、現在は仰臥位(仰向けに寝た状態)での前方法(Direct Anterior Approach:DAA)が増加傾向にあります。

前方法は、増加しつつあるものの日本ではまだ普及しきっていない方法であり、体の前側からメスを入れて手術を行います。前方法では股関節を支配する神経や筋肉の間を経由するため、これらの重要な組織をほとんど傷つけることがありません。患者さんにとって身体の負担が少なく、術後の痛みも軽いので、回復が早くなっています。

LECURE®の開発に至るまで―前方法の人工股関節全置換術(THA)をさらに普及させる

前方法は低侵襲で患者さんへの負担が少ない一方、術野が狭く難しい手術です。そのため、しっかりと技術を獲得した医師でなければ簡単には行うことができません。

私が医師として駆け出しだった2001年頃、人工股関節全置換術(THA)を受ける患者さんは、手術の1カ月前に入院が必要でした。手術当日までに計800mlの自己血を貯血しておき、様々な術前検査をする必要があったからです。手術時間は3時間以上かかることもあり、手術ができる回数は1日1件に限られていました。アプローチは側臥位の側方法や後方法など体の側面からが多かったため、側面にある筋肉(中殿筋や小殿筋)を傷付けてしまうこともありました。また術創が大きく、術中約1000mlは出血がみられました。抜糸してキズが治るまでは術後2週間くらい入浴もできませんし、退院するまでに約1か月半を要していました。人工股関節全置換術(THA)は、これだけ患者さんに負担のかかる手術であったのです。この状況を、どうにかして変えられないだろうかという思いがありました。

2010年、従来のアプローチで行われていた人工股関節全置換術(THA)の方法を少しずつ変え始めました。具体的には、術創を縫う際には真皮縫合(皮下組織を縫うだけの方法)を採用して抜糸をなくしたり、密封して消毒しないようにしたり、シャワーであれば術後数日から入浴を許可するなど、患者さんの負担を軽減する措置です。

2012年5月には、前方法による人工股関節全置換術(THA)を本格的に開始しました。仰臥位で行う前方法は、人体にとって生理的かつ自然な状態であり、麻酔管理も楽になるため、医療者・患者さんともにメリットがあります。さらに術後の痛みがほとんどありません。

2013年11月からは産学共同研究のもと、後述する携帯型下肢牽引手術台の開発に着手しました。現在では1日3件に手術件数を増やせるようになり、より多くの患者さんに医療を提供できるようになりました。

LECURE®の開発に向けた産学共同契約の提携

2012年2月に日本人として初めて海外の研修プログラムに参加して以来、下肢牽引手術台による仰臥位前方アプローチ(Traction DAA)を行ってきました。下肢牽引手術台とは、高い技術が必要とされる前方法による人工股関節全置換術(THA)を、足を適切な位置に保持することで、執刀医をサポートする手術台です。この術式に携わるうち、前方法による人工股関節全置換術(THA)を支援するため、自分がさらにできることはないかと考えるようになりました。その結果、独自に持ち運び可能な下肢牽引手術台(携帯型下肢牽引手術台)を開発することを思い立ちました。

LECURE®の特徴―既存の手術台との違いは「前方法への最適化」

〜As You Walk〜LECURE®(サージカルアライアンス社)

携帯型下肢牽引手術台「LECURE®」は、フレーム構造および手術台本体への接続マットで構成されます。主な機能は、股関節の屈曲伸展、内転外転、内旋外旋、牽引圧迫の動作です。LECURE®は一般的にどんな手術台にも搭載することができます。携帯型であり、持ち運びもひとりの力で行えるように軽量化を図り、キャリアも考案しました。

手術の際は、患者さんは仰臥位(仰向け)に寝ていただき、特許を取得している専用ブーツで脚をしっかりと固定します。事故を防ぐためにもここで確実な固定が必要です。肌になじむ柔らかい革素材とベルトを二重にロックすることで手術中にブーツが脱げないように工夫しました(下図参照)。患者さんへのブーツの装着は難しいものではありません。

その後、脚を手術に最適な角度へ調整し、前方法が最も行いやすい体制を整えます。

前方法による人工股関節全置換術(THA)は手術の侵襲が小さい反面、難しい手術です。ですから、執刀医が確かな技術を持っていなければなりません。しかし、LECURE®を使うことで、良好な術野がえられます。手術台が全面的に手術のサポートをしてくれますから、手術がやりやすくなります。

また、LECURE®を使うことで必要な助手の人数が従来よりも少なくて済みます。これにより、人員不足の医療機関であっても前方法による人工股関節全置換術(THA)を行いやすくなることが期待されています。

 

二重ロック機構のある専用ブーツ

LECURE®導入度の治療成績

千葉大学医学部附属病院では2016年3月までに200例以上の仰臥位前方アプローチ(Traction DAA)による人工股関節全置換術(THA)を行ってきました。LECURE®を用いた前方法による人工股関節全置換術(THA)では、手術時間は平均80分、出血量は平均250mlに減少し、従来の方法で行われた人工股関節全置換術(THA)と比べて手術時間・出血量ともに大幅に向上しました。

前方法による人工股関節全置換術(THA)の術後の経過は?

手術の効果を最大限発揮するためにはリハビリテーションが重要です。特に股関節を悪くしてから手術に至るまでの期間が長かった患者さんの場合、手術を受けてもすぐは上手く歩けないことが多いのです。数ヶ月経って筋肉がなじんでくれば、上手く歩けるようになります。1年ほど経過すれば、自分の足のような感覚になってスムーズな歩行が期待できます。階段の上り下りでも手すりにつかまらなくてもよくなるでしょう。

人工股関節全置換術(THA)の脱臼について―手術直後は注意が必要

また、人工股関節全置換術(THA)の脱臼について理解することが重要です。非常に成功率の高い人工股関節全置換術(THA)ですが、約2%に脱臼を生じるとされています。

人工股関節の動く範囲は設計上決まっています。無理な動きをすると,かみ合わせ部分ではずれる可能性があります。脱臼すると非常に痛くて歩行困難となり、ほとんどの場合緊急で病院を受診することになります。整復されれば痛みは取れますが、一度外れやすい道ができてしまうとなんども脱臼を繰り返してしまうおそれがあります。では、なぜ脱臼が起きるのでしょうか。

本来の股関節は関節包という靭帯でできた袋に包まれて守られていますが、手術の時に関節包を切開して、一旦関節を脱臼させてインプラントを組み立てるので、手術の直後は不安定なのです。脱臼はたいてい術後1~2ヶ月以内に起こります。数ヶ月経つと人工股関節の周りに関節包が修復され、筋肉も強くなり、人工股関節が守られるようになります。半年経てば脱臼する心配はほとんどなくなります。したがって、手術を受けて最初の数ヶ月のリハビリがとても重要になるのです。

また、本来の股関節は脱臼するような無理な動きをすると痛みを感じるので動きをやめてしまいますが、人工股関節にすると痛みを感じなくなるため,無理な動きをしてしまうことがあるのです。無理な動きの方向には、前方脱臼と後方脱臼の2種類があります。前方脱臼は股関節を過伸展して足を外に向ける姿勢(ラジオ体操の背屈の姿勢やアキレス腱を伸ばす姿勢、ブリッジやイナバウアーの姿勢)でおこりやすくなります。一方、後方脱臼は股関節を深く曲げて足を内に入れる姿勢(しゃがみこみや正座、横座り、深いお辞儀の姿勢)で起こりやすくなります。

人工股関節全置換術(THA)は健康に歩くために効果が高い手術

「歩くこと」は、健康な方からみれば当然のことのように思えます。しかし、一旦、股関節が悪くなって歩くこともままならなくなると日常生活を送ることも困難になります。歩けないことは体力の低下にもつながります。人にとって歩くことはとても大切なことのです。幸い、現代では人工股関節全置換術(THA)を受ければ再び元の状態まで回復することもできますから、一人で悩まず医師に相談してほしいと思います。

中村順一先生の思い―LECURE®における今後の展望

LECURE®の開発にあたってはサージカルアライアンス株式会社と産学共同契約を結び、特許取得(外国出願)と意匠登録、商標登録などの知的財産を創出しました。LECURE®は医療機器製造販売届も完了しており、今後数年で幅広い医療機関へ普及させていきたいと考えています。一方で、このような新しい手術方法が普及していくためには教育プログラムの充実も必要であり、そのための準備も進めています。将来的には、グローバルに展開していきたいと考えています。

「人に優しく」をコンセプトに、人工股関節全置換術(THA)を受けた患者さんが一人でも多く救われるように、私は手術台の改良を進めていきたいと考えています。

 

大腿骨頭壊死(中村順一先生)の連載記事

日本のリウマチ股関節外科の第一人者。特に大腿骨頭壊死症、牽引手術台を用いた仰臥位前方アプローチによる人工股関節全置換術、内側アプローチによる人工膝関節置換術を専門としており、多数の手術を手掛けている。研究業績も多数あり、IFは2017年現在200を超える。後進の育成にも定評があり、毎年多数の研修医が集まる。