インタビュー

大腿骨頭壊死とは。手術によって治るのか?

大腿骨頭壊死とは。手術によって治るのか?
中村 順一 先生

千葉大学医学部附属病院整形外科 講師

中村 順一 先生

この記事の最終更新は2016年05月19日です。

大腿骨頭壊死(だいたいこっとうえし)は、正式には特発性大腿骨頭壊死症(とくはつせいだいたいこっとうえししょう)と呼びます。股関節を構成する大腿骨頭という部分に血流がいきわたらなくなることで、骨の組織が壊死してしまった状態です。壊死しただけでは痛みを感じませんが、壊死部分が圧迫されて潰れると痛みが生じます。大腿骨頭壊死の発症にはステロイドとの関係が指摘されており、治療にあたっては手術を行う一方で、ステロイド服用に関しても慎重な管理が必要とされます。今回は大腿骨頭壊死について、千葉大学医学部附属病院 整形外科助教の中村順一先生にお話を伺いました。

大腿骨頭壊死とは、股関節(人の体で一番大きな球状の関節)を構成する大腿骨頭(太ももを支える軸になる大腿骨の上部先端に位置する。内側および前方向に傾いている)の一部に血が通わなくなり、骨組織が死んでしまった状態を指します。膠原病の合併症として発症するケースが多いとも考えられています。

大腿骨頭壊死の原因は、厚労省研究班にて長年研究が進められており、徐々に解明されつつあります。しかし現在、はっきりとした原因として断定できるものはありません。

大腿骨頭壊死の危険因子としては、ステロイド服用(1日40㎎以上のステロイドを服用し続けるとリスクが上昇するという研究結果がある)によるもの、アルコールの過剰摂取によるもの(習慣飲酒(毎日お酒を飲むこと)もリスクを高める)、年齢、性別、凝固異常などが考えられています。また明確な危険因子を持たない特発性大腿骨頭壊死症もあります。

治療にステロイドを用いる病気は様々な種類があり、患者さんがどの病気にかかっているかによって、大腿骨頭壊死の発生頻度も異なります。

ステロイド治療が有効で、かつ最も大腿骨頭壊死を起こしやすい病気は全身性エリテマトーデスSLE)です。それ以外のステロイド治療を用いる病気と比べて、全身性エリテマトーデス(SLE)の患者さんが大腿骨頭壊死を起こす確率は2.6倍ともいわれます。

※ステロイドは様々な病気を治療するために処方される、非常に効果的な薬です。前述のとおり、大腿骨頭壊死がステロイド服用によって発症する可能性がないわけではありません。しかし、ステロイドの処方にあたっては、ステロイドを処方した医師が患者さんの体を十分に管理したうえで処方量を決定するため、絶対に自己判断で服用を中止・減量することは控えてください。ステロイド減量の際は、主治医とよく相談するようにしましょう。

子どもと大人では、大腿骨頭壊死の発生頻度(症状は現れないが壊死が生じている状態。詳細は後述)が異なります。

15歳未満で、かつ全身性エリテマトーデス(SLE)の患者さんは、大腿骨頭壊死を発生しづらく、15歳以上になると発生数が急増することが分かっています。これはステロイド投与時の年齢が、大腿骨頭壊死のリスクファクターになるからではないかと考えられています。

男性の患者さんは女性の患者さんより多い傾向にあります。

ステロイド服用は、血液凝固異常・脂質代謝異常・酸化ストレスの3つの反応を起こします。このうち、凝固異常反応と大腿骨頭壊死の関係が指摘されています。つまりステロイドの服用で大腿骨頭壊死が起こりやすい理由には、この凝固異常も関与しているのではないかということです。これに対して現在予防法の開発が進められています。

遺伝的に、大腿骨頭壊死になりづらい患者さんがいるのではないかという予測があります。これらに関しては、ゲノム解析(遺伝子研究)が進歩を続けており、解析が進められています。

難病情報センターによると、1年間あたりの新規患者発生率は約10万人当たり2.5人(計2000~3000人 全国単位)といわれています。

大腿骨頭壊死の患者さんは近年増加傾向にあります。その理由は、MRIなどの画像診断が登場したため、診断率が向上したことも一因です。

大腿骨頭壊死が起こる頻度は、発生(壊死が起こった状態。無症候性のものも含む)であるか発症(壊死部分が潰れ痛みが生じた状態)であるかによって異なります。

大腿骨頭壊死の発症率(骨が潰れる確率)は、壊死のタイプ分類によって大きく異なってきます。

タイプ分類(厚生労働省研究班の大腿骨頭壊死症病型分類より一部改変)

大腿骨頭壊死は壊死の箇所により、上図のようにType A、Type B、Type C-1、Type C-2の4種類に分類されます(厚生労働省病型分類)。C-2に近づくに従って壊死の範囲が広がり、骨頭圧潰の割合も高くなるといわれています。

このように4種類に分類がなされた場合、Type Aの患者さんの壊死部が10年後に潰れる確率は0%です。一方、Type C-2の患者さんの場合、10年後に壊死部が潰れる確率は60%以上と非常に高くなります。

また、原疾患(大腿骨頭壊死のもととなった疾患)によっては大腿骨頭壊死が起こりづらい場合もあります。

骨壊死の時点で大きな自覚症状は現れませんが、骨壊死した大腿骨頭が圧迫され、潰れてしまうと症状が現れます。ここまで至るには数カ月~数年かかるともいわれています。

主な症状としては、股関節痛を中心にして(股関節を内側にひねる動作をすると痛みが増強します)腰痛、膝痛、臀部痛(お尻の痛み)、坐骨神経痛のような疼痛などが現れます。このように、大腿骨頭壊死では必ずしも股関節部だけが痛むわけではありません。そのため股関節が痛くならない場合は、大腿骨頭壊死となかなか気づかれない患者さんもいます。

なお、大腿骨頭が圧潰されるにつれて、これらの痛みの程度も増強する傾向があります。

基本的には下記の診断基準に従って診断が行われます。検査にはレントゲンとMRI・造影MRI(ダイナミックMRI)が用いられるのが一般的です。

●診断基準(厚生労働省研究班)

X線所見

1.骨頭圧潰または骨頭軟骨下骨折

2.骨頭内の帯状硬化像の形成

 1.2.については

 (1)関節裂隙が狭小化していないこと

 (2)臼蓋には異常所見がないこと

を要する

検査所見

3.骨シンチグラム:骨頭のcold in hot 像

4.骨生検標本での修復反応層を伴う骨頭死層像

5.MRI:骨頭内帯状低信号域(T1強調像)

判定

確定診断:上記5項目のうち2つ以上を有するもの

除外診断:

① 二次性(大腿骨頸部骨折後、外傷股関節脱臼後、放射線照射後)大腿骨頭壊死

② 変形性股関節症

③ 減圧症に合併する大腿骨頭壊死

④ 小児に発生するペルテス病

⑤ 大腿骨頭すべり症

⑥ 一過性大腿骨頭萎縮症

⑦ 大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折

⑧ 急速破壊型股関節症

⑨ 腫瘍性疾患

⑩ 骨系統疾患(骨端異形成症など)

大腿骨頭壊死の治療には、手術による治療と保存療法の二種類があります。

手術は、ご自身の関節を温存する方法と、人工関節へ置換する方法に分かれます。治療方針は前述した病型分類(壊死の範囲)をもとに、年齢や基礎疾患の程度、病期の分類(骨頭の変形の程度)などを考慮したうえで判断します。

手術1:大腿骨内反骨切り術

健常部分が荷重部にかかるように、壊死している部分を荷重部(外部から力が加わる部分)から内側に移動させ、ご自身の関節を温存する手術です。

体重が壊死している部分にかかる状態では、その部分が潰れてしまいます。そのため、健常部分で体を支えられるように移動させることで、圧潰進行を防止します。

Aは右大腿骨を後ろから見た場合の骨切りラインです。Bは骨切りラインに沿って内側に移動させた絵です。

手術2:大腿骨頭回転骨切り術

基本的な考え方は大腿骨内反骨切り術と同様ですが、大腿骨頭回転骨切り術の場合は、荷重部から壊死している部分を前方あるいは後方に回転させて、健常部分で体を支えられるようにすることで、圧潰進行を防止します。

Aは右大腿骨を後ろから見た場合の骨切りラインです。Bは骨切りラインに沿って前方に回転させた絵です。Cは骨切りラインに沿って後方に回転させた絵です。

手術3:人工股関節置換術

潰れてしまった大腿骨頭を人工の骨頭に取り換えたり(人工骨頭置換術)、股関節全体を取り換える手術(骨頭だけでなく骨盤側も取り換える、人工股関節全置換術)のことです。骨切りタイプの手術に比べて入院期間が短期で済みますが、人工物(インプラント)に切り替えるため耐久性に限界があり、将来的に再手術が必要となる可能性があります。そのため、人工股関節置換術の適応は、慎重に検討します。

Aは骨頭が完全に潰れてなくなってしまった状態です。寛骨臼(股関節の屋根の部分)も痛んでいます。Bは人工股関節置換術後のレントゲンで足の長さも元に戻っています。

※大腿骨頭壊死で保存療法が適応されるケースは?

壊死範囲がごく小さい場合や予後(術後の経過)が悪くないと判断される場合は保存的治療で様子を見る場合もあります。この際は体重維持、杖の使用、長距離歩行制限、重いものを持ち上げることを禁止するなどの指導を行います。疼痛がひどい場合は消炎鎮痛剤を服用することもあります。

大腿骨頭壊死は血液が循環しづらいところに発症する病気であるため、好発部位(壊死が起きやすいところ)は決まっています。通常は時間が経っても血液循環が良好である部分まで壊死範囲が広がっていくこともありませんし、細菌感染のように次々と周囲に浸潤したり、がんのように転移したりすることもありません。

また、病変の大きさは劇的に変わらないと考えられますが、壊死部が潰れなければ縮小する場合もあります。ステロイドを服用している患者さんの場合、壊死部の縮小には服用するステロイドの量が関係します。ステロイドの服用量が減れば病変は縮小し、服用量が増えれば病変が新たにできる傾向があります。ただし、病変が新たにできるケースは患者さん全体のうち3%程度であり、たとえば全身性エリテマトーデスSLE)などの原病が再発して服用ステロイド量を急増した場合など、極端な例に限ります。つまり、原病の悪化が無ければ、ステロイドによって壊死範囲が大きくなることはほとんどないということです。

かつて大腿骨頭壊死は「一度壊死が起きたら治らない」といわれていたこともありますが、壊死部分が圧潰しなければ、治ってくることも少なくありません。

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