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画像でみる人工股関節の手術と経過 人工骨頭置換術、人工股関節全置換術から最小侵襲手術まで

画像でみる人工股関節の手術と経過 人工骨頭置換術、人工股関節全置換術から最小侵襲手術まで
山本 謙吾 先生

東京医科大学病院 院長

山本 謙吾 先生

目次
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この記事の最終更新は2017年03月08日です。

人工股関節手術には、人工骨頭置換術(BHA)や人工股関節全置換術(THA)があり、最近では最小侵襲手術(MIS)という侵襲性の低い術式も確立され始めています。東京医科大学病院整形外科主任教授の山本謙吾先生に、人工股関節手術の流れや術後のリハビリテーション、術前検査の内容についてお話しいただきました。

人工股関節手術には、主に人工股関節置換術(人工骨頭置換術(BHA)、人工股関節全置換術(THA))および最小侵襲手術(MIS)の3種類があります。我々医師は、患者さんの容態や体調に合わせて最適な方法を検討していきます。

人工股関節置換術は、損傷した股関節のダメージを受けた部分を排除して人工関節へと差し換える手術です。人工骨頭置換術(BHA)は骨頭のみを人工物に置換する術式であり、人工股関節全置換術(THA)は骨盤側の骨も併せて置換します。

人工関節のパーツ ステム、骨頭、インサート、カップ

通常、骨が骨盤側まで冒されている患者さんの場合は人工股関節全置換術(THA)が適応され、骨頭のみが障害されている場合は人工骨頭置換術(BHA)が適応されます。侵襲性としては骨盤側の骨まで取り換える人工股関節全置換術(THA)のほうが高くなりますので、人工骨頭置換術(BHA)で効果が見込める場合は、こちらの適応となります。

なお骨頭のみが障害される疾患としては、大腿骨頸部骨折および大腿骨頭壊死が挙げられます。これらの疾患の場合は、人工骨頭置換術(BHA)で十分対応が可能です。ただし、大腿骨頭壊死の場合は、放置したまま長期経過すると骨盤が変性し悪化するため、人工股関節全置換術(THA)を行うこともあります。

(関連記事:大腿骨頭壊死とは。手術によって治るのか?

※両者の適応基準は施設によって異なり、特に欧米では大腿頸部骨折の治療に人工股関節全置換術(THA)を行う医療機関が多くみられます。日本では、大腿頸部骨折の場合には人工骨頭置換術(BHA)が大多数ですが、大腿骨頭壊死に対しては様々な意見があります。手術を受ける際は、受診する医療機関の基準を確認しましょう。

最小侵襲手術(MIS)とは、患者さんへの侵襲性を軽減するために開発された手術です。手術時の切開を最小限にするため、切り込みの長さを短くし(一般的には8㎝程度ですが、患者さんの体格によって異なります)、筋肉へメスを入れることなく保護するという手法により、患者さんに必要以上の負担がかからないように工夫されています。

東京医科大学では、大腿骨頸部骨折を含めた大部分の股関節疾患に対してこの最小侵襲手術(MIS)を行っています。

ただし、最小侵襲手術は患者さんの容態や患部の損傷状態によってはできない場合もあります。

(関連記事:股関節の最新手術、最小侵襲手術(MIS)とは

人工股関節の手術の様子

東京医科大学整形外科による人工股関節手術の様子 画像提供:山本謙吾先生

 

人工骨頭置換術(BHA)では、潰れてしまった大腿骨頭を人工骨頭に取り換える手術が行われます。

まずは折れている骨頭を摘出し、除去を行います。続けて、大腿骨髄腔の中へトンネルを掘るようにして穴をあけてステムを埋め込み、取り除いた骨頭部分に人工インプラントを挿入します。

 

人工骨頭置換術(BHA)

人工関節全置換術(THA)の場合には骨盤の寛骨臼(かんこつきゅう)という部分も障害されていることが多いため、寛骨臼側にも人工のカップを着けます。装着が完了後、人工骨頭置換術と同様、大腿骨の骨頭を切断して大腿骨髄腔を削り、人工股関節を挿入します。

人工関節全置換術(THA)

人工股関節のサイズはメーカーによって異なりますが、約1mm刻みで異なるサイズの人工股関節が作られています。人工股関節手術では、術前に患者さんの股関節の大きさを計測し、最適な人工股関節の長さやサイズ、太さを決定していきます。

素材もメーカーによって異なり一概には述べられませんが、一般的にはチタン、コバルト、クロム、ポリエチレン、セラミックなどが用いられます。

患者さんの容態や施設の状況によって異なりますが、一般的に人工骨頭置換術(BHA)の場合は約30分~1時間程度、人工股関節全置換術(THA)の場合は、特殊な例を除いて約1時間程度です。手術はチーム医療であるため、医療従事者側が熟練すればするほど手術時間は早くなります。

術式にもよりますが、入院中に十分なリハビリテーションを行うため約2週間~3週間の入院期間を目安としています。

私が人工股関節手術の際、最も注意しているのは合併症の問題です。

人工股関節手術では、術後感染や静脈血栓、肺塞栓、術後脱臼、人工関節のゆるみによる再手術などの合併症が起こる可能性があります。短期的に一番問題となるのは術後感染であり、患部が感染してしまうと、再び人工関節を取り換えなければなりません。これを防ぐために、感染対策が重要となります。

感染対策を確実に行うため、東京医科大学では術前検査に重点を置いています。

手術の1カ月前に1度、患者さんには短期間(通常2~3日程度)の検査入院をしていただき、虫歯や水虫など感染のリスクを高める症状の有無を確認します。たとえば水虫のような皮膚疾患をお持ちの患者さんの場合、術後感染のリスクが高くなるため、皮膚科の先生と連携して皮膚科学的なチェックを入念に行います。

また、MRSA(methicillin‐resistant Staphylococcus aureus:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による感染症は特に注意が必要だと考えています。

MRSAはどこにでもいるありふれた菌であり、髪の毛や皮膚、鼻の粘膜などによく付着しています。これが気づかないうちに鼻腔に溜まり、保菌状態になっている方が多くいらっしゃいます。術後抵抗力が低下している状態でMRSAに感染すると重症化する危険があるため、術前に鼻腔の検査を実施します。患者さんが保菌者であることが判明した場合、点鼻抗菌薬などによって菌を抑制する治療を行います。

術前に生活習慣のコントロールをしっかり管理することも重要です。特に糖尿病症状はリスクを高める危険性があるため、患者さんの栄養状態を含めて全身の合併症を確認していきます。

人工股関節手術にかかる費用が1ヶ月の自己負担限度額を超えた場合、高額療養制度を利用することができます。高額療養制度における負担額は患者さんの収入によって変動します。

実際、手術の費用に関して患者さんから質問を受けることは多くあります。そのため、東京医科大学では、人工股関節手術に限らず、代表的な疾患はすべて手術前に患者さんに表を用いて説明する時間を設けています。

人工股関節手術を行った後は、しばらく入院してリハビリテーションを受ける必要があります。リハビリテーションの内容としては、臀部(お尻)周辺の筋肉の強化訓練と日常生活動作訓練が中心です。

術後2~3ヶ月は股関節脱臼の合併症が起こりやすい状態であり、無理な姿勢を取ると人工股関節が外れて脱臼を起こしてしまいます。そのため、日常生活で脱臼を起こさないための工夫が必要になります。

リハビリテーションでは、入院中から患者さんに対して「どのような姿勢を取ると脱臼しやすいのか」といったアドバイスや、脱臼しやすい動作や姿勢を取らない姿勢での動作練習を行っていきます。

具体的には、割座や鳶座り、あひる座りなどと呼ばれる、両膝を内側に向けた状態で地面にお尻を付けて座る座位(下図参照)や、膝を過度(90度以上)に曲げた場合に脱臼しやすいことが知られています。

和式生活では正座やしゃがんだ姿勢を取ることが多いため、人工股関節の手術を受けた患者さんには、椅子やベッドを使用した洋式中心の生活への切り替えをお勧めします。

 

割座の姿勢

割座の姿勢

脱臼を予防するために、日常生活では「靴を履く際には足を外側に曲げて(がに股)行う」「爪切りは胡坐をかくように脚を曲げて行い、手術した脚と反対側の手で切る」「下に落ちたものを拾うときは手術した脚を後方に引く」といったことを意識しましょう。

脱臼した場合、急激な痛みや股関節の違和感、また脚が急に短くなったような違和感を生じます。これらのような症状を自覚した場合は脱臼している可能性があるため、すぐに病院を受診してください。

また、入院中はもちろん、退院後の日常生活でも必要に応じて自主的に運動や筋力トレーニングを継続することが重要です。適度な運動を心がけることで、股関節の働きを維持することができます。1日5000歩程度を目安に毎日歩行することも効果的です。

筋力トレーニングについては、臀部や脚、腿を中心にしたメニューを東京医科大学が作成したパンフレットで紹介しています。

なお体重増加も人工関節に悪影響を及ぼす可能性が高いため、適切な体重を維持することも併せて心がけましょう。

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