膝の人工関節手術には、人工膝関節単顆置換術(UKA)や人工膝関節全置換術(TKA)があります。現在の膝の人工関節は耐久性に優れ、確実にリハビリテーションを行うことで長期にわたり同じ人工関節での生活が可能となります。引き続き、東京医科大学病院整形外科主任教授の山本謙吾先生に、膝の人工関節手術についてお話しいただきました。
膝の人工関節手術には大きく分けて2種類あり、膝の状態の程度によってどちらの手術が適応されるかが異なってきます。
人工膝関節単顆置換術(UKA)は、関節の損傷が内側か外側のどちらかに限定されている、比較的軽度な状態の疾患に適応されます。損傷している部分のみを人工物に置き換える手術であるため損傷部位以外を温存できて膝への負担が少なく、術後の運動機能の回復も早いといったメリットがあります。
人工膝関節単顆置換術(UKA)は1980年代からある手法ですが、これまではあまり普及していませんでした。ただし、2000年代に入って以降新法が開発され始め、侵襲性を低くする目的で使われることが多くなり、症例数が増えてきています。
人工膝関節全置換術(TKA)は膝関節の損傷が左右両方まで及んでいる、重度な状態の疾患に適応されます。膝関節を完全に入れ替えるため、手術での負担は比較的大きくなってしまいますが、痛みの再発が予防できるというメリットがあります。
このふたつの術式は、病変の範囲によって使い分けられますが、東京医科大学のような規模の大きい病院にいらっしゃる患者さんは重症の方が中心です。そのため、東京医科大学の場合、比率としては人工膝関節全置換術(TKA)の適応が圧倒的に多くなっています。
**人工物を使用しない膝関節手術が適応になる場合もある**
今回は人工膝関節手術についてお話ししていますが、軟骨の損傷がみられない軽度の損傷の場合は、骨切術(骨を切って角度を変え、関節の変形を正す治療法)を行って対応することもあります。適応の幅は狭いのですが、人工物を使わない治療法は術後感染の危険性が少ないというメリットもあり、また人工関節自体に抵抗を感じる患者さんもいらっしゃるため、患者さんが希望される場合は医師と相談しながら決定していきます。
人工膝関節置換術では、変形してしまった膝関節の表面を取り除き人工関節に置き換える手術が行われます。膝の人工関節も人工股関節と同様、ミリ単位でサイズの異なるものが作られており、患者さんに最適な大きさ・太さ・長さの人工インプラントが使用されます。
手術では、全身麻酔あるいは腰椎麻酔、硬膜外麻酔をかけたのち、膝の前あるいは横の皮膚を切開して、損傷している膝の骨をすべて取り除きます。そこへ代わりとなる人工関節を挿入します。膝を固定するため、特殊なセメントを使用する場合もあります。切開した皮膚は、医療用のホッチキスかもしくは糸で縫合します。
左右両膝に人工膝関節置換術を行う場合、左右の手術日は同時ではなく、異なる日程となります。患者さんから特別な希望があれば対応することもできますが、原則的には手術のリスクを少しでも下げ、かつリハビリの期間を短縮するため別々に行っています。
1回目の手術から2回目の手術を行うまでの期間は条件によって異なりますが、基本的にはヘモグロビンや赤血球などの血液データが正常値に戻り、術前に自己血の貯血ができる状態になるまでとされます。これに加えて、筋力の回復程度も考慮します。手術を行ったほうの脚の筋力が戻っていないときに反対側の膝にも手術をするとリハビリが遅れてしまうためです。
膝の人工関節手術の手術時間は人工股関節手術とほぼ同じで、一般的に約30分~1時間程度です。膝の人工関節手術の入院期間も人工股関節手術と差はなく、術前の検査入院を含めて約3週間程度の入院が目安になります。
人工股関節手術と同様、高額療養制度が適応されます。東京医科大学は術前の段階で、費用について患者さんにご説明する時間を設けています。
高額療養制度一ヶ月あたりの自己負担限度額
年齢
世帯所得の状況
限度額の計算式
医療費が200万円の場合
(計算式による)
70歳
未満
健保:標準報酬月額83万円以上の方
国保:年間所得901万円超の方
252,600円+(医療費-842,000円)×1%
264,180円
健保:標準報酬月額53万円以上83万円未満の方
国保:年間所得600万円超901万円以下の方
167,400円+(医療費-558,000円)×1%
181,820円
健保:標準報酬月額28万円以上53万円未満の方
国保:年間所得210万円超600万円以下の方
80,100円+(医療費-267,000円)×1%
97,430円
健保:標準報酬月額28万円未満の方
国保:年間所得210万円以下の方
57,600円
57,600円
住民税非課税の方
35,400円
35,400円
70歳
以上
健保:標準報酬月額28万円以上
課税所得:145万円以上
80,100円+(医療費-267,000円)×1%
97,430円
健保:標準報酬月額26万円以下
課税所得145万円未満
44,400円
44,400円
住民税非課税の方
24,600円
24,600円
住民税非課税の方(所得が一定以下)
15,000円
15,000円
引用元:厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jiritsushienhou04/index.html
人工股関節にも同様のことがいえますが、膝の人工関節はかつて耐久性が10年程度であり、60代で手術をした場合は再手術が必要となることが多くありました。しかし、現在は人工物の質が向上し、耐久性は20年以上にまで延びてきているため、人工関節の劣化による再手術の可能性は減少傾向にあるといえます。勿論、20年以内に人工関節がすり減って緩んでしまった場合は再手術が必要です。
東京医科大学で膝の人工関節手術を行う場合、術後の合併症対策のために患者さんには術前検査入院をしていただき、全身検査を行います。
膝の人工関節手術後に最も起こりやすい合併症は静脈血栓症で、人工膝関節全置換術(TKA)を受けた方の場合では約半数が発症しているともいわれます(無症候性のものを含みます)。この原因ははっきりと分かっていませんが、膝の人工関節手術の場合は手術時にターニケットという膝を圧迫して血を止める道具を使うため、それが影響する可能性もあると考えられています。
静脈血栓症を予防するために抗血栓薬が処方される場合もありますが、残念なことに抗血栓薬を使用していても膝の人工関節手術後には静脈血栓症が起こってしまうのが現状です。むしろ使用することによって術後の出血量が多くなり、リハビリテーションに影響が出てしまうため、予防効果として確実であるかどうかは疑問が残ります。ただし、より重症の合併症である肺梗塞を予防する意味では抗血栓薬が非常に重要となりますので、抗血栓薬の使用に関しては意見が分かれるところです。
人工膝関節手術を行った後は入院してリハビリテーションを受ける必要があります。リハビリテーションの内容としては、大きく分けて「膝関節の硬直を防ぐ関節運動(関節可動域訓練)」と「太ももの筋肉を鍛えるトレーニング(筋力強化訓練)」の2点です。
関節可動域訓練とは、膝関節をスムーズに動かせるように繰り返し膝の曲げ伸ばしを行うリハビリテーションです。術後の状態を放置しておくと膝関節の可動範囲が徐々に狭くなってしまい、歩行や階段昇降などの日常生活動作に支障をきたしてしまうので、膝が120度曲がるようになることを目標にして毎日運動を行っていきます。
(※120度は、自転車をこぐために必要な膝の角度と考えられています)
大腿四頭筋(太ももの筋肉)を中心に鍛え、強化していきます。膝の人工関節の手術後は大腿部の筋力低下が著しいため、放置しておくと膝を完全に伸ばせなくなってしまったり、立ち上がりや歩行が困難になったりする恐れがあります。そのため、術後には筋力トレーニングを実施して機能を回復させることが大事です。
運動を行う上では、決して無理をせず痛みを感じるまではやらないようにしましょう。運動は勢いをつけずゆっくりと行い、翌日に痛みが残った場合は回数を少なくして、膝を痛めないように注意します。
筋力トレーニングは手術していないほうの脚も行い、同じ動作を各脚20回繰り返します。
筋力トレーニングについては、膝の曲げ伸ばしや脚上げ、お尻上げといったメニューを東京医科大学病院が作成したパンフレットで紹介しています。
東京医科大学では人工膝関節の術後のリハビリテーションについて独自にパンフレットを作成しており、患者さんに詳細を説明しています。
人工膝関節の術後に日常生活を送るうえでは、以下の3点を意識しましょう。
そもそも人工膝関節では正座ができない方が多いのですが、日常生活や習い事などの際無理に正座になり、膝を深く曲げてしまうと膝の人工関節が破損してしまうことがあります。
前述したように、静脈血栓症は膝の人工関節手術の後で最も多い合併症です。最悪の場合、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしてしまうことがあります。
人工膝関節の術後は定期的に下肢の運動を行い、血液の循環を良くすることが重要です。
記事1『人工股関節の手術と経過 術後のリハビリや入院期間はどの程度か』でも述べたとおり、退院後は家にこもりきりにならず、定期的に外出しましょう。医師から許可がおりるまでは杖を使用し、1日5000歩程度を目安に歩くことで膝関節の硬直や筋力低下を防止します。
東京医科大学病院 院長
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病院のリハビリ室に通っています。
そこで理学療法士にストレッチなど指導されています。今まで運動してないせいか筋肉が落ちてきていて膝の骨に負担がかかり痛みが出ているのではないかとの事で太ももの筋肉を鍛えるストレッチなど教わりました。太ももの筋肉の所をマッサージされただけで激痛だったのですが、痛みの少ないかつ筋肉が鍛えられる方法はありますか?太ももの筋肉を鍛える方法をネットで色々調べたのですがキツかったり痛そうだったりで長く続けられそうにありません。もっとゆるく手軽に出来そうなのはないですか?
右膝変形関節症
右膝変形関節症の為全置換術後に右膝の裏からふくらはぎにかけて、突っ張った感じのはりが強く痛みが有ります。 以前左膝変形関節症の為全置換術をしたんですが、その時は今回のような、症状はでてないので、術後の関係ででてるとしたら、どの位で症状が消失するのか心配です
3日位前から強い痛み
3年半前膝の隙間が少し狭いと言う事で変形性膝関節症と診断されました。 膝の注射と、水が溜まる事もあり6回程抜きました。 その後、痛みが少しましになった為1年半程病院には行っておりませんでした。 が、片方の膝にも痛みが出てきたので3ヶ月前、他の整形でレントゲンを撮って頂きましたら、膝関節は問題無くこれが原因で痛みは出ないと言われました。 原因は運動不足と肥満との事です。 ですので湿布だけを貰って帰ってきました。 3日前から膝全体が痛く、動くだけでも痛く歩くのはもっと辛いです。 正座をすると感覚的に、膝の上辺りが引っ張られると言うか突っ張った感じで痛くて出来ません。 全体的に腫れております。 今膝はどういう状況だと考えられますか? 運動不足でこの様な症状になりますか? 肥満もなのですが発症した時から8k程減量はしております。
膝のクリーニング手術かPRP治療かの選択
1か月ほど前に右膝が腫れて曲がらなくなり整形外科を受診しました。レントゲン撮影の結果 変形性膝関節症と診断と膝の水を抜く処置をしていただいたのですが水が溜まっていたのではなく血がシリンジ2本程溜まっていました。 その後MRIの撮影をして膝のクリーニング手術を進められたのですがクリーニング手術をするよりPRP治療をする方良いか迷っております。
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