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宮城県北地域の患者さんによりよい治療を届けるために——関節リウマチ診療の課題

宮城県北地域の患者さんによりよい治療を届けるために——関節リウマチ診療の課題
高井 修 先生

医療法人財団 弘慈会 石橋病院

高井 修 先生

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免疫の異常が原因で関節に痛みや腫れが起こる関節リウマチ。進行すると関節の破壊が進み、変形や機能障害を引き起こすため早期発見と早期治療が大切です。近年は高齢で発症する方が増えています。治療法の進歩により、的確な診断と適切な治療が行われれば症状を大幅に改善することができる病気になりました。今回は、関節リウマチの症状や治療法のほか、宮城県北地域の関節リウマチ診療の課題について、石橋病院の高井 修(たかい おさむ)先生にお話を伺いました。

関節リウマチは関節に痛みや腫れが生じる病気で、膠原病(こうげんびょう)の仲間の病気です。関節に痛みが現れる病気はいくつかあるため、診断基準に従い、ほかの病気と関節リウマチを見分けることがポイントになります。放置すると関節の破壊が進み、動かすことができなくなるなど身体障害にまで至る可能性があるため、関節リウマチであると診断されたらすぐに治療を受けることが重要です。近年さまざまな治療法が開発され、適切な時期にふさわしい治療を行うことにより機能障害を防ぐことが可能になりました。

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関節リウマチが疑われる症状がみられる場合には、似ている病気がたくさんあるため一度関節リウマチを専門とする医師を受診するようおすすめします。

関節リウマチの痛みは大きな関節よりも小さな関節から始まることが多く、手足の指の関節に痛みや腫れ(触ると痛みがある)がある場合は関節リウマチの可能性が高いでしょう。また、起床時に指にこわばりが現れるのも関節リウマチの特徴的な初期症状です。

さらに、関節リウマチによって腱鞘炎(けんしょうえん)手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)*が起こることもあります。手首周辺の腱が腫れる、痛くなるという場合にも関節リウマチを疑うべきでしょう。

*手根管症候群:手首の靱帯(じんたい)が神経を圧迫することにより、手指のしびれや親指の機能障害をもたらす病気。女性に多いとされている。

関節リウマチと同じく免疫疾患である、ほかの膠原病の場合でも似たような症状が出ることが多いため見分けることが必要です。

指の関節症には手指の第1関節が変形し曲がってしまうヘバーデン結節という病気がありますが、関節リウマチとは違って変形に至るには長い年月がかかります。

膝の痛みがある場合、高齢の方は年齢的に変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)である場合も少なくありません。また偽痛風*は、関節リウマチとは異なりますが、膝関節に多い炎症による病気ですので、膝に少し熱があって痛みがあるときもリウマチ科に相談してください。

*偽痛風:痛風と似た症状が関節に現れる病気。ピロリン酸カルシウム二水和物(CPPD)が関節軟骨や周囲組織に沈着することで起こる。

関節リウマチは炎症性の病気であるため、疾患活動性(病気の勢い)が強い患者さんは、体重減少、貧血、微熱、元気がなくなるなどの症状が出ることがあります。特に、病状が安定した高齢の患者さんの場合、関節の痛みの変化ではなく、上記のような症状が悪化のサインである可能性もあり、このような症状がある場合には注意が必要と考えられます。

また、悪性関節リウマチの場合もあります。悪性関節リウマチは関節の炎症のほか、血管に炎症が起こり全身の臓器に症状が出る病気です。皮膚の潰瘍(かいよう)、失明、肺線維症による呼吸困難など重い症状が現れます。

関節リウマチを疑ったら、まずは関節の痛みや腫れの程度を確認します。関節の腫れや痛みが、手の指の関節に認められるか、また全身の全ての関節の中でどの関節に生じているのかを見ます。さらに、腫れている関節を押した時の痛みの有無も確認します。医療機関では関節リウマチである可能性が高い場合には、炎症反応やリウマチ因子、抗CCP抗体と呼ばれる自己抗体が出ているかなど、いくつかの検査を行って診断します。判定できない場合には初診では判断せず、少し期間を空けて検査し関節リウマチと診断することもあります。また、B型肝炎結核、隠れた真菌感染症がないかなど、治療の準備のための検査も並行して進めていきます。

関節リウマチと診断したら、多くの場合、第一選択薬であるメトトレキサートを用いて治療をスタートします。患者さんの状態によって、効果は少しゆっくりな従来型の抗リウマチ薬による治療を先行することもあります。メトトレキサートを使用しても十分な効果が得られない場合には、生物学的製剤*の注射やJAK阻害薬**の服用を検討します。

当院では患者さんの多くが生物学的製剤やJAK阻害薬による治療を行っています。これらが有効で痛みや腫れがなくなり症状が治まったようにみえても、骨破壊が進む場合があります。そのためX線検査(レントゲン)を定期的に行って確認しながら治療を継続します。

*生物学的製剤:バイオテクノロジーを用いて作られた薬剤。炎症を引き起こすタンパクにはたらきかけて炎症や関節破壊を抑える。関節リウマチの治療ではTNF阻害薬、IL-6阻害薬、T細胞共刺激分子調節薬の3種類がある。 

**JAK阻害薬:細胞の内側にあるヤヌスキナーゼ(Janus kinase:JAK)という酵素のはたらきを抑えることで、関節リウマチの炎症を抑える薬。

薬剤にはそれぞれ副作用や注意点があり、特に感染症に注意しながら治療を進めます。高齢の方の場合は、感染症の初期症状として元気がなくなったり、活発さが低下したりすることがあります。また生物学的製剤の1つであるIL-6阻害薬を使用している場合には、効いていなくても熱や痛みなどの症状が抑えられてしまうことがあるため、感染症の初期のサインを見逃さないようにする必要があります。

当院ではリウマチの治療を開始した後、経過が順調であれば、受診の間隔を少しずつ長くしていきます(6~8週程度まで)。やがて、症状がたいへん落ち着いた状態になった、もう治療を変更する必要が少ない状態になったと判断されれば8週間に1度程度の受診でも安心であろうと考えています。

どの薬も全員に効くわけではなく、患者さんそれぞれに対する効果は異なります。薬剤の選択を注意深く行い、効果は強いけれども経済的負担の大きい製剤を使用するときには、効果や副作用の点での配慮はもちろん、極力患者さんの負担を軽減できるよう相談しながら治療を進めるほか、通院の頻度、処方の期間などさまざまな要素を見極めて治療を進めることが大切だと考えています。

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関節リウマチの治療中は、薬を忘れずにきちんと飲むことがとても大切です。また、治療に使用する薬剤には副作用があるため、体調が悪いときは放置せず医師に連絡してください。

痛みはあるものの症状が落ち着いているのであれば、体を動かすことも必要です。体を動かせるということはそれだけ関節リウマチの症状がよくなっていることの表れですし、多少痛みが出たとしても体を動かして働く喜びを味わいながら生活したいと感じている患者さんが多いと感じています。痛みが出た場合には、十分休息を取ってもらいつつ、患者さんができるだけ自由に日常生活を送れるようにサポートすることが医師の務めだと思っています。

以前は、関節リウマチの適切な治療を長い間受けることができなかった結果、炎症により股関節(こかんせつ)や膝関節などが壊れ、人工関節手術が必要になる場合もありましたが、近年ではずいぶん少なくなりました。

当院の場合、県内の大学病院や基幹病院の整形外科と連携して手術を行い、術後は当院で関節リウマチの薬物治療と体力回復のためのリハビリテーションを並行して行う流れになっています。

私が現在診療を行っている宮城県北地域は人口が少なく、リウマチを専門とする医師も少ないため、関節リウマチ膠原病のみならず、原因がよく分からない病気の患者さんもリウマチ科を受診されているのが現状です。

当院を受診される方の多くは70歳以上の高齢の患者さんです。入院が必要な重症の患者さんや、早急な治療が必要と判断された患者さんの場合には、紹介先となる大きな病院によるバックアップがとても大切になります。宮城県内の大学病院・基幹病院との連携体制が確立されることにより、より正確な診断や先進的な治療を行うことができるようになると考えています。そのためにも県内の医師同士が情報交換したり絆を深めたりする場が必要だと思っています。

当院のある栗原市の人口は、10年前は約7万4,000人でしたが、現在は約6万2,000人です(2023年7月末時点)。10年間で1万人以上減少し、急速に過疎化が進みました。このような過疎の地域であればあるほどネットワークの役割が大きいと感じます。関節リウマチなのか、膠原病なのか、あるいはそのほかの病気なのか、診断に迷ったときにリウマチ学のネットワークが充実していれば、過疎化している地域においてリウマチ診療を担っている医師も、さらに自信を持って安全な治療ができるのではないでしょうか。宮城県内の核となる病院と地域の医師が連携してリウマチ診療にあたることで、どこに住む方にもよい医療を提供できる体制を整えていくことができるだろうと考えています。

また治療法が成熟した今だからこそ、若い医師たちと関節リウマチの県内の診療の実状について意見を交わし合い、過疎地域における診療を担う医師たちの役割にも目を向けてもらう機会を作っていきたいとも考えています。

秋田県能代市出身の私は東北大学で医学を学び、もともとは小児科医を目指していました。より専門性のある分野を究めたいと感じているときに膠原病を専門にしている医師と巡り会ったことが、関節リウマチを専門にするようになったきっかけです。卒業後は東北大学第2内科に入局し、その後米国 国立衛生研究所への留学を経て、地方の総合内科医を目指すようになりました。ちょうど地域医療支援病院である大崎市民病院で関節リウマチを担当していた医師が不在になったこともあり、そこで関節リウマチを専門に診療を行うようになりました。

長い間免疫学に携わってきた身としては、関節リウマチの治療法が目覚ましい進歩を遂げていく時期に、リウマチ患者さんを治療することができたのはよいタイミングだったと感じています。

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診療においては時間を取って患者さんと率直に話し、患者さんが納得して治療を進めることができるよう心がけています。治療薬や治療方法を切り替える必要がある場合は特に、X線写真などをお見せして患者さんが現状をよく理解して新しい治療に踏み切ってもらえるよう工夫することを大切にしています。

また、当院は高齢の患者さんが多く、関節リウマチ以外の病気を持ちさまざまな科で診療を受けている方がたくさんいらっしゃいます。したがって、各種薬剤の使い方や治療方針についてなるべく取りまとめ、責任を持って治療にあたるよう意識しています。

近年の治療の進歩によって、関節リウマチは、どんなに重症であってもほとんど症状が現れない程度まで治療することが可能になりました。しかしなお、完治することは難しいとされています。今後さらに研究が進み、関節リウマチが完治を目指せる時代になることを期待しています。

関節リウマチの患者さんには、患者さんの話によく耳を傾け、質問によく答えてくれる医師を選んでほしいと思います。なぜ関節リウマチと診断できるのか、どういう根拠でこの治療を選択するのか、今の治療は最適なのか、薬の副作用はどうかなども含めて医師の説明をよく聞き、納得したうえで治療を進めてください。

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