インタビュー

関節リウマチの治療中に心がけてほしいこと――適切な治療で寛解を目指せるように

関節リウマチの治療中に心がけてほしいこと――適切な治療で寛解を目指せるように
柏木 陽一郎 先生

柏木内科医院 院長

柏木 陽一郎 先生

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関節リウマチは、免疫反応の異常により関節に炎症が起こり、手足の痛みや腫れなどの症状をもたらす病気です。治すのが難しい病気だと考えられていた時代もありましたが、近年は治療が大きく進歩しており、早期に適切な薬物療法を開始すれば寛解を目指せるようになりました。

今回は、柏木内科医院院長の柏木 陽一郎(かしわぎ よういちろう)先生に、関節リウマチの治療法や治療中に心がけるべきこと、同院の取り組みなどについてお話を伺いました。

関節リウマチとは、免疫反応(体外から侵入したウイルスなどを攻撃、排除して体を守るはたらき)に異常が起こって自分自身の体を攻撃し、関節に炎症をきたす自己免疫疾患です。主に関節の腫れや痛みなどの症状があり、進行すると関節が変形して動かしにくくなり、日常生活に影響を及ぼします。関節リウマチの原因は十分には明らかになっていませんが、喫煙歯周病が発症に関与していると考えられています。

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日本国内の関節リウマチの患者さんは、人口の0.6~1%ほど、100万人弱といわれています。特に40~60歳代での発症が多く、女性の患者さんが男性の4倍ほどで、女性に多い病気です。近年はより高齢で発症する方が増加傾向にあり、高齢発症の場合には男女差は小さくなります。

関節の炎症により、初期には手足の関節の腫れや痛み、朝のこわばりといった症状がみられます。これらの症状は、免疫反応の異常により関節にある滑膜(かつまく)*という組織が炎症を起こして増殖することで起こります。さらに滑膜の炎症が進むと関節の中の骨や軟骨が破壊され、関節が変形していきます。肘関節や膝関節(ひざかんせつ)が変形して動かせなくなると、顔を洗ったり歩いたりするのが困難になってしまいます。このように日常生活に支障をきたすようになると、人工関節置換術(変形・破壊された関節を人工関節に置き換える)などの手術が必要になります。そのような事態を避けるためにも、炎症が進行する前に病気を見つけ、早めに治療を開始することが大切です。

*滑膜:関節組織の一部で、軟骨を包み、潤滑油のはたらきをする関節液を分泌する。

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関節の症状の多くは手足の指や手首にみられますが、首、肩、肘、股関節(こかんせつ)、膝、足首に出る場合もあります。多くの患者さんにみられる手足の関節には症状が出ておらず、膝などほかの場所だけに症状があるといったケースでは、特に慎重な診断を要します。

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関節以外の場所に症状が出る場合もあり、特に間質性肺疾患(肺胞の周囲の間質に炎症が起こる病気)など肺の病気を伴っている方は多くいらっしゃいます。また、悪性関節リウマチ(血管炎など関節以外の症状を伴う重症の関節リウマチ)では、皮膚の潰瘍(かいよう)や目の痛みなどの症状が出る場合もあります。

関節の痛みや腫れ、朝のこわばりがあれば、関節リウマチを専門とする医師に相談されるとよいでしょう。患者さんのお話を聞くと、“朝、関節がこわばって動かしづらい”、“痛みだけでなく関節のこわばりがある”といった症状をきっかけに受診される方が多いようです。

関節リウマチは、ひと昔前までは治すのが難しい病気だと考えられていましたが、現在は早期に適切な薬物療法を開始すれば寛解(症状が安定しており完治に近い状態)を目指せます。薬物療法は、診療ガイドラインに沿って、おおまかに以下の(1)から(2)へと進められます。

(1)メトトレキサートによる治療

治療の第一選択となるのは、メトトレキサートという、世界でもっとも広く使われている抗リウマチ薬です。骨破壊進行抑制効果、生命予後の改善(病気により寿命が短くなるのを食い止める)効果が示されており、継続的に使用しやすい内服薬です。効果をみながら徐々に増量もできます。ただし、メトトレキサートを使うと消化器症状(吐き気など)、肝障害、骨髄抑制(血球減少)、貧血などの副作用を起こす可能性があります。肝臓や腎臓の機能が低下している方、感染症を起こしやすい方などには使えない場合もあり、また、妊婦には使用できないとされています。このようにメトトレキサートを使用できない患者さんには、別の抗リウマチ薬を使用します。

(2)生物学的製剤、JAK阻害薬による治療

メトトレキサートやそのほかの抗リウマチ薬による治療で十分な効果を得られない場合、副作用が強く出る場合などには、生物学的製剤やJAK阻害薬の使用を検討します。

生物学的製剤はバイオテクノロジーによってつくられた薬で、特に関節破壊抑制効果に優れているといわれています。皮下注射や点滴により使用します。JAK阻害薬は、関節の炎症を引き起こす炎症性サイトカインによる刺激を細胞内に伝達するJAK(Janus kinase:ヤヌスキナーゼ)という酵素のはたらきを抑える内服薬です。

治療を開始して3か月以内に改善がみられなければ、薬の追加または変更といった次の治療のステップを検討します。また、症状に応じて上記の治療に痛み止め薬、炎症を抑えるステロイドなどによる補助的治療を組み合わせて行います。なお、ステロイドは副作用を考慮して少量、短期間の使用にとどめるよう推奨されています。

関節リウマチには、滑膜切除術や人工関節置換術などの手術療法もあります。滑膜切除術は炎症が起こっている関節の滑膜を切除する手術ですが、近年は薬物療法で炎症をコントロールできるようになってきたため、あまり行われていません。また、薬物療法の効果が不十分で関節の症状が進み、日常生活に不自由が生じている場合には、人工関節置換術などを検討します。こちらの手術も、薬物療法の進歩につれて実施件数が減少しています。

日常生活で軽い運動や体操を習慣にすると、関節の動きが滑らかになる、筋力を維持できる、痛みが軽減するといった効果が期待できます。薬物療法と並行して、症状に合わせて関節を動かすリウマチ体操を取り入れることをおすすめします。手を握ったり開いたりする、椅子に座って膝を交互に伸ばすといった簡単な動作を、無理のない範囲で継続することが大切です。

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食事は、糖質、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル(カルシウムなど)をバランスよく取るよう心がけましょう。たんぱく質は筋力の維持に欠かせません。肉、魚、大豆などの食品を十分摂取してください。また、関節リウマチの方は骨粗鬆症になりやすいため、カルシウムを含む小魚、乳製品、野菜などを意識的に取るとよいでしょう。脂質は体を動かすエネルギー源となる大切な栄養素ですが、取りすぎると肥満を招き、足の関節に負担をかける恐れがあるため注意が必要です。ただし、青魚に含まれる脂質は炎症を抑える効果があるとされていますので、適度に摂取するとよいでしょう。

さらに、睡眠をしっかり取り、ストレスをためないよう心がけましょう。

私が院長を務める柏木内科医院では、治療効果や副作用の有無などをチェックするため、基本的に1か月に1回の通院をお願いしています。ただし、初診の患者さんには1~2週間後に再度来院いただき、それ以降は個々の状況に合わせて通院間隔を検討しています。症状が落ち着いていれば1~2か月に1回、状態が安定しておらず、頻繁に経過をみる必要があれば2週間に1回としている方もいます。

受診時には、どの関節にどの程度の痛みがあるか、また、ほかの病気でかかっている病院での治療内容や処方されている薬についても教えていただいています。さらに、関節リウマチの治療で免疫を抑制する薬を使っているときには、特に感染症に注意する必要がありますので、風邪の症状など普段と変わったことがあれば必ず医師に伝えてください。速やかな処置が必要なケースもあるため、発熱や咳などがあれば早めに情報提供していただければと思います。そのほか、患者さんには、日ごろから外出先から帰ったら手洗いをしっかりする、ワクチンを接種しておく、口腔内(こうくうない)を清潔に保つといったことが重要だと繰り返しお話ししています。

私が医師になった約30年前は、今のように有効な関節リウマチの薬がほとんどない時代で、治療の選択肢が限られていました。患者さんの中には痛みのある関節を毎日数えている方もいて、20か所、30か所という関節の痛みを訴えられるのです。そのような患者さんによい治療を提案できず、何度も心苦しい思いをしてきました。近年、関節リウマチの治療薬が飛躍的に進歩しており、大変ありがたく、うれしく思っています。当時の患者さんたちにも、今のような優れた治療をしてあげられたらどんなによかっただろうと想像するときもあります。

先方提供

関節リウマチがある患者さんの症状をしっかりコントロールして、病気がない人と変わらない生活を送っていただくことが治療の目標です。妊娠中にも使える有効な薬も出てきているため、今は妊娠・出産を諦める必要もありません。患者さんが前向きに、普通の暮らしを送れるような治療ができればと考えています。

関節リウマチは全身に症状が及ぶ病気です。私は総合内科、消化器病も専門としていますので、消化器病をはじめとする内科全般、関節以外の全身の診療もできる点が強みだと自負しています。胃や腸の内視鏡検査も可能です。

また、患者さんとしては、自分の症状が関節リウマチによるものなのかどうか分からず、どの診療科を受診すればよいか迷うときもあるでしょう。そのようなときも当院にご相談いただければ、院内でできる検査・治療には迅速に対応するよう努めるとともに、入院やより詳細な検査が必要な場合には、信頼できる病院に責任を持ってご紹介しています。

学会や研究活動にも積極的に参加して優れた先生方のお話を聞き、得た情報を診療に生かそうと努めてきました。また、こうした集まりで出会った先生方、近隣の病院の先生方と信頼関係を築き、入院が必要な患者さんをご紹介したり、状態が落ち着いたら再び私のほうで経過をみたりして、適切な医療を提供できる体制を整えています。関節リウマチは全身に症状が出るケースもあるため、さまざまな診療科を設置している病院との連携は非常に重要だと考えています。

この20数年で関節リウマチの治療は飛躍的に進歩し、寛解を目指せるようになりましたが、まだまだ課題もあります。薬には副作用があり、患者さんの状態によっては使えない場合もあります。また、患者さんの中には、毎週注射するのが難しい状況にある方もいれば、高額な費用がかかる治療を諦めざるを得ない方もいます。

私は、病気の治療にはクオリティ、アクセス、コストの全ての向上が求められると考えています。なるべく副作用が少なくて品質のよい薬を使いたいですし、注射や内服の回数が少ないほうが楽に使えて治療へのアクセスがよくなります。さらに、コストが下がればより多くの人が使えるようになって、よい治療がさらに広まっていくでしょう。今後、薬がクオリティ、アクセス、コストの面でさらに進歩し、全ての患者さんがご自身の生活スタイルに合った治療を受けられる状況になるよう期待しています。

関節リウマチは、数十年前までは治すのが難しい病気だと考えられており、病院に行くのも怖いという方もいらっしゃいました。しかし、近年の関節リウマチの治療の進歩は目覚ましく、現在はさまざまな治療選択肢があり、早期に適切な治療を開始すれば寛解を目指せるようになりました。上で述べたような症状があれば、関節リウマチなど自己免疫疾患を専門とする医師がいる医療機関に早めにご相談ください。

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