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関節リウマチの早期治療のために――関節エコーで正確な診断を目指す

関節リウマチの早期治療のために――関節エコーで正確な診断を目指す
斉藤 究 先生

さいとう整形外科リウマチ科 院長

斉藤 究 先生

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関節リウマチは関節の腫れや痛み、こわばりなどの症状が起こる自己免疫疾患です。診断技術が向上してきてはいるものの、発症初期では正確に診断をすることが難しい病気とされています。今回はさいとう整形外科リウマチ科 院長の斉藤 究(さいとう きわむ)先生に、関節リウマチの症状や治療についてとともに、関節エコーを行うことなど正確な診断のために心がけていることを伺いました。

関節リウマチ自己免疫疾患の1つで、関節に腫れや痛み、こわばりなどが生じる病気です。30~40歳代の女性に多いといわれていましたが、近年は60歳代以降の発症も増えています。

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関節リウマチは関節の内側にある“滑膜”と呼ばれる組織に炎症が起こり、分厚くなったり膨んだりして増殖することで、関節に腫れや痛みが生じます。炎症が放置されてしまうと骨や軟骨が溶けてしまい、やがて関節の破壊につながります。炎症が強い方の場合は特に進行が早く3か月以内に骨破壊が起こることもあるため、関節リウマチの診断がつけばできるだけ早期に治療を開始するべきとされています。

関節リウマチは関節の中から発症することが典型的ですが、腱から発症するパターンもあることが分かってきました。腱は骨と筋肉を結ぶ紐状の組織であり、アキレス腱は有名ですが、膝や手首、指など、全ての関節の周りにあります。腱に炎症が起こると、腫れて動きが悪くなり、こわばりの症状が出ます。このような腱から発症するパターンでも関節リウマチの初期症状ではないかと疑い、ほかの病気と鑑別していくことが非常に大切なのです。

関節リウマチの発症は“遺伝的要因”と“環境要因”の2つが関係します。遺伝的要因については、親が関節リウマチである場合はその子どもにも発症のリスクがあるため、関節の痛みや腫れがあればリウマチ専門医*への受診がすすめられます。環境要因としては、歯周病喫煙が関連しているといわれています。そのため、患者さんには歯磨きをしっかり行うように伝えたり、禁煙をすすめたりしています。また、関節リウマチは免疫が関係している病気であるため、引っ越しや結婚、離婚、ペットとの死別といったストレスのかかるライフイベントにより免疫力が低下することも、発症や悪化につながるのではないかと考えられています。

*日本リウマチ学会認定のリウマチ専門医を指す。以下、“専門医”とある場合はこれを指す。

受診の目安となる特徴的な症状として、朝の手のこわばりが挙げられます。朝起きて30分以上こわばりが続くようであれば、関節リウマチである可能性があります。また手の指のほか、足の指や膝、股関節(こかんせつ)など複数の全身の関節で動かしづらさや痛みがある場合や、圧痛(押すと痛みを感じること)がある場合も受診を検討するとよいでしょう。中でも注意したいのは足の症状です。足は手と比べて鈍感なため、症状があっても気付きにくいといわれています。“足の裏が膨らんでいる感じがする”“何かを踏んでいる感じがする”といった違和感がある場合は、速やかに専門医に相談することをすすめます。

関節リウマチは早期に診断し、速やかに治療を始めることが非常に大切です。まずは2010年に発表された分類基準を使い、腫れている関節の数、症状が持続している期間、血液検査による炎症の程度とリウマチ因子や抗CCP抗体の有無の4項目を点数化し、6点以上で関節リウマチと診断します。

しかし実際には関節の腫れが1か所のみであるなど6点以下でも関節リウマチの可能性を疑わなくてはいけない方もおり、分類基準に満たない超早期の関節リウマチの患者さんを見つけるのは困難なこともあります。そのため診断において大切になるのが、触診や関節エコー(超音波)による検査です。滑膜の炎症や腫れ方の特徴をみることで早期診断・早期治療につなげることができます。

私は毎回患者さんの関節を足趾(そくし)まで含めて全て触診しています。診察室に入る前に患者さんには靴下を脱いでお待ちいただき、診察では手から上肢の関節、下肢から足趾までの関節まで全て触って確認するのです。そのうえで気になる箇所があれば、関節エコーを当てて滑膜炎の有無を調べます。先述のとおり足は非常に鈍感なため、患者さんの中には腫れていても痛みを感じずに気付かないことが多くあります。足趾の炎症は触診でも分からないことがあるため、初診の患者さんで関節リウマチを疑えば、必ず関節エコーでチェックしたほうがよいとの報告もあります*。

*oana serban et al.Med Ultrason 2019, Vol. 21, no. 2, 175-182DOI: “The relevance of ultrasound examination of the foot and ankle in patients with rheumatoid arthritis – a review of the literature” より

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関節エコーでは関節や腱の滑膜が増殖している様子や血流を見ることができるので、触っただけでは分からない滑膜炎も調べることができます。X線検査(レントゲン)では分からない小さな骨破壊も見つけられます。また関節以外に、腱から発症するパターンの炎症を早期に見つけることも可能です。炎症の有無を調べる方法にはほかにMRI検査がありますが、造影剤を使うためアレルギーがある方には不向きであり、診断までに時間がかかる点やコスト面においても頻繁に行えるものではありません。そういった点からも、関節エコーによる早期診断が普及することが大切だと考えます。

しかしながら対応できる医療機関はそう多くはなく、関節リウマチの患者さんの中でも関節エコーを受けた経験のある方は少ないのが現状です。また関節エコーを行うにあたっては、医師側の手技の習熟も必要となります。たとえば滑膜付近の血流は非常に繊細であるため、プローブ(患者さんの体に当てる部分)を強く押し当ててしまうと炎症が見えづらくなってしまいます。このように発症初期の段階で炎症を見つけるにはコツが必要になるので、医師もハンズオンセミナーなどで技術を習得することが求められます。私自身もさまざまな医師に技術をレクチャーする活動を行っています。

関節リウマチの治療は薬物療法が中心となります。

まずは内服薬である抗リウマチ薬による治療を開始し、効果がみられない場合は注射薬である生物学的製剤による治療を検討します。さらに、生物学的製剤で効果がみられない場合は内服薬であるJAK阻害薬を検討します。しかし、生物学的製剤やJAK阻害薬は従来の抗リウマチ薬に比べて高額になるため、患者さんの経済面を考慮して選択する必要があります。また、腎機能が悪い方や肺の病気がある方など、患者さんがもともと持っている病気によって使える治療薬や使用できる量が変わります。

それぞれの治療薬の特徴は以下のとおりです。

抗リウマチ薬(メトトレキサートほか)

免疫の異常を抑制し関節の炎症を抑える内服薬で、代表的な薬はメトトレキサートです。私はこの薬のことを“火事を消すための消火器”と例えて患者さんに説明しています。少量から服用をスタートし、副作用と効果をみながら用量を増やしていきます。最大用量まで使っても十分な効果がみられない場合は、次の生物学的製剤を検討することになります。

自覚症状として現れやすい副作用に、倦怠感や食欲の低下、吐き気、口内炎抜け毛などが挙げられます。そのような副作用が出た際は薬の量を減量します。最近は吐き気が出にくいメトトレキサートの注射薬が発売され、吐き気で内服が困難な場合の選択肢が増えました。

そのほか、自覚症状が分かりにくい副作用として、貧血や肝障害、腎障害が生じることがあります。そのため、治療中は採血による検査を定期的に行うことが欠かせません。またB型肝炎の患者さんはウイルスが再活性化する恐れがあることが報告されており、消化器内科と連携しながら治療を進めなくてはなりません。薬剤性の間質性肺疾患にも注意が必要です。咳が出たり息苦しく感じたりする際は、すぐに医師に相談するとよいでしょう。

生物学的製剤

サイトカインと呼ばれる炎症に関係する物質や、免疫異常に関係するリンパ球であるT細胞にはたらきかけ、免疫異常を改善して炎症や関節破壊を抑える薬です。メトトレキサートが消火器なら、こちらは消防車です。TNFというサイトカインを抑える薬(TNF阻害薬)、IL-6というサイトカインを抑える薬(IL-6阻害薬)、T細胞を抑える薬(T細胞共刺激分子調節薬)の3種類があり、注射や点滴で投与します。TNF阻害薬はメトトレキサートを使っていた患者さんに対して効果が高いことが分かっていることから、メトトレキサートの次のフェーズで選択されることが多いです。一方、IL-6阻害薬やT細胞共刺激分子調節薬は、副作用などによりメトトレキサートの服用が困難な方にも選択されます。

免疫にはたらきかける薬であるため、使用中は免疫力の低下による感染症への注意が必要です。肺の病気や副鼻腔炎(ふくびくうえん)などの持病がある方は慎重に投与を行い、症状が悪化すれば速やかに投薬を中止します。ほかにも、たとえば人工関節の手術をする場合などは感染のリスクを抑えるために一時的に薬を中止することがあります。また、投与時の急性期のアレルギー症状にも気を付ける必要があります。

JAK阻害薬

ヤヌスキナーゼ(Janus kinase)と呼ばれる酵素のはたらきを抑えることで複数のサイトカインのはたらきを抑え、炎症や関節破壊を抑える内服薬です。効果が高い薬剤ですが、生物学的製剤と同様に感染症には注意が必要です。そのほか帯状疱疹(たいじょうほうしん)を発症するリスクが高まるといわれているほか、悪性腫瘍(あくせいしゅよう)の懸念も指摘されています。そのため、一般的には抗リウマチ薬の次は生物学的製剤を優先し、効果がみられない場合はJAK阻害薬の順に選択する流れがよいとされています。

薬物療法以外の治療には、リハビリテーション(以下、リハビリ)や手術があります。関節リウマチの治療はまず薬物療法で炎症を落ち着かせますが、これまで関節の痛みにより動かせなかった分、関節が硬い状態が残ったり、筋力が落ちて足腰が弱ったりしてしまうことがあります。そのような場合は、今まで動けなかった分の体力を取り戻すことを目的に、リハビリを行うことが大切になります。すでに関節が破壊されてしまった患者さんでは、壊れた関節を元どおりにすることは難しいものの、今ある機能(残存機能)を最大限に引き出すためのリハビリが有効です。

手術については、今はよい治療薬が出ていますので手術をする患者さんは減ってきています。ただし、炎症を抑える治療が十分に行われていなかったり、炎症の勢いが強く早期に関節が破壊されたりしている患者さんには人工関節置換術などが行われます。また手の指や足の指、手首の変形などには、関節形成術や腱の再建術などを行うこともあります。

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関節リウマチの治療のキーワードは“hit early & hard”、すなわち、早く強く叩くことが大切といわれています。免疫の病気は時間がたつにつれて免疫が絡み合って複雑になり、治りにくい炎症病態になってしまうためです。発症初期のシンプルな免疫を強く叩くことで症状がこじれることなく、早期の寛解(完全に治ったわけではないが、症状がなくなって安定している状態)を目指せるのです。

早く寛解に持ち込むために、医師は患者さんの炎症の程度に応じた治療薬をどこまで使うべきかを見極める必要があります。当院では、まずメトトレキサートを8mgからはじめて効果と副作用を確認しながら患者さんが飲める最大用量まで増量して寛解を目指します。メトトレキサートだけで寛解に至らない場合には、残った炎症が弱ければほかの抗リウマチ薬の併用を行います。逆に病気の勢いが強く関節に痛みや腫れが続くようであれば、生物学的製剤の併用治療に進みます。寛解を達成できない状態では関節破壊が進行してしまうため、どの薬を使用する場合も3か月程度効果をみて薬剤の追加や変更を判断するべきでしょう。

治療中は自分で薬の量を減らしたり、飲む間隔を空けたり、自己判断で中止したりしないことが大切です。医師は“この薬をこの量飲んでいると、この効果とこの副作用が起こる”ということを把握することで、今後の薬の量や種類を検討し、病状のコントロールにつなげているためです。処方どおり薬を飲めなかった場合などは、正直に医師に報告いただければと思います。

治療薬の副作用は心配かと思いますが、関節リウマチは十分な治療がされなければ関節が壊れてしまう病気です。食事療法や代替医療など医学的根拠が明確ではない治療に頼って関節が壊れてしまう人も何人も見てきました。抗リウマチ薬の想定し得る副作用に注意しながらも寛解を目指して治療することが大切です。治療において不安を感じられたり、副作用かなと思ったりしたら、すぐに医師や看護師にお伝えいただき、自分自身も医師や看護師と一緒にチームとして治療していく意識を持っていただければと思います。当院では感染症などが起こっていないかを確認するため、診察時にチェックリストを用意し、咳や痰が出ていないか、息苦しさはないか、排尿時の痛みはないかなど、気になる症状がないか確認できるようにしています。

当院は愛知県内のほか岐阜県や長野県などからも患者さんがいらっしゃり、現在約800名の関節リウマチの患者さんが通院されています(2023年5月1日~11月30日)。ほかの医療機関で関節リウマチと診断され、より自分に適した治療を受けたいという方もいらっしゃいます。

当院では「患者さんの“楽しい!”明日のために」という理念を掲げていますが、それは過去に出会った関節リウマチ患者さんとの思い出が元になっています。

ベッドでほぼ寝たきりの状態だった患者さんでしたが、当時新たに出てきた生物学的製剤によって起き上がれるようになり、車椅子に乗れるようになり、自分の足で歩いて外来に来られるまでにみるみる症状が改善しました。その際に私は「本当によくなりましたね」と喜んでお話ししたのですが、患者さんは「ずっとベッドの上で天井だけ見て過ごしていたので、せっかく動けるようになったのに、何をしたらいいのか分からないんですよ」とおっしゃられたのです。そこで私は、薬物療法で動けるようになったけれど、患者さんの生きる希望までは与えられていなかったとショックを受けたのです。その経験から今は、病気が治った先にある患者さんの人生を応援したい、という気持ちで、「患者さんの“楽しい!”明日のために」という理念を掲げてスタッフと共に患者さんに向き合っています。

関節リウマチは今では治療薬の種類が増えたことで、病気のことを忘れて生活できるほど改善することが期待できるようになりました。ただし一方で、治療薬のコストや日本の医療費の問題もあります。たとえば働いている若い女性が治療費を払えず、望ましい治療ができない場合もあり、治療の経済格差は課題の1つです。今後はさらに薬価が抑えられ、なおかつより効果がある治療薬が出てくることを期待します。そして関節リウマチが寛解ではなく完治を目指せる病気になる時代が早く来るとよいなと思います。

今ではインターネットなどを通じて関節リウマチについて、さまざまな情報を得られるようになりました。それらの情報が役立つ一方で、病気を怖がられる患者さんも増えています。関節リウマチと診断されると、最初は不安でいっぱいになるかもしれません。ですが、今はきちんと治療をすれば寛解を目指せますし、これまでどおりに関節リウマチを忘れて働くことも可能になっています。関節リウマチを疑ったら、できるだけ関節リウマチを専門とする医師に相談してみてもらいましょう。手の指はもちろん足の指まで丁寧に触診する医師や、関節エコーを行える医師にかかることをおすすめします。

提供:大正製薬株式会社
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  • さいとう整形外科リウマチ科 院長

    斉藤 究 先生

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