関節リウマチは、本来は体を守るために存在する免疫が何らかの原因によって自分自身を攻撃してしまう自己免疫疾患の1つです。基本的に長く付き合っていく病気であり、よい状態を維持して生活を送れるように、患者さんに適した治療を行うことが重要といわれています。
今回は、関節リウマチの治療法とともに、チーム医療の重要性や、診療において大切にしていることなどを医療法人井上病院 院長の井上 誠先生に伺いました。
関節リウマチは、自己免疫疾患である膠原病*の1つです。自己免疫疾患とは、本来は外から入ってくる細菌やウイルスなどから体を守るために存在する免疫が、何らかの原因によって自分自身を攻撃してしまう病気のことをいいます。
関節リウマチでは、免疫の異常によって関節や臓器などに炎症が起こり、関節の痛みや腫れなどの関節症状や、間質性肺疾患**などの関節以外の症状を引き起こすことがあります。
*膠原病:免疫が自分自身を攻撃することで、さまざまな臓器に慢性の炎症が起こる病気。
**間質性肺疾患:炎症などによって肺の肺胞と呼ばれる組織の壁が厚く硬くなり、酸素を取り込みづらくなる病気。
関節リウマチは男性よりも女性に多い病気です。その理由は十分に明らかになっていませんが、女性に起こりやすい要因として、出産や女性ホルモンのバランスなどが影響していることが考えられます。
40~60歳代の患者さんが多いといわれていますが、最近は高齢化社会のためか、さらに高齢で発症する方も少なくありません。当院では、おおよそ2,000人の関節リウマチの患者さんが外来を受診されています*。
*2022年4月〜2023年3月の受診患者数。
関節リウマチの根本的な原因は分かっていません。しかし、発症のリスク因子には、遺伝的な素因(病気のなりやすさ)とともに、喫煙や歯周病などによる慢性的な炎症が関与しているといわれています。また、出産や感染症がきっかけで発症するケースもあるでしょう。
関節リウマチは、病気が必ず子どもに引き継がれるようなタイプの遺伝病ではありません。遺伝的素因については“体質が似る”という認識でよいと思います。ですので、ご自身が関節リウマチにかかっていても、お子さんが必ず関節リウマチを発症すると不安に思う必要はありません。
ただし、家族内に関節リウマチの方がいる場合には、体質が似るため通常よりは関節リウマチを発症しやすいという認識を持ち、たばこを吸わない、歯周病を予防するために定期的に歯科を受診して口腔内を清潔に保つなど、発症を防ぐ生活様式を意識することをおすすめします。
関節リウマチの治療中は、禁煙していただいたほうが薬の効果が出やすくなる傾向があります。また、関節リウマチは基本的に長く付き合っていく病気です。喫煙はがんなどさまざまな病気を引き起こすリスクもあるため、治療中にほかの病気の発症を防ぐためにも重要といえるでしょう。
関節リウマチの初期に多い症状は、手先や足先など末端の関節に現れる腫れや痛みです。反対に、大きい関節のみが腫れることはほとんどありません。
腫れているところを押すと痛みを感じる場合もありますし、押してもまったく痛くないという場合もあります。また、腫れていなくても押すと痛いという方もいらっしゃいます。患者さんは痛みや腫れのある場所を医師にお伝えいただき、関節に炎症があるか、押したときに痛みがあるか、それとも腫れているだけなのかなど、詳しい症状は医師に判断してもらうのがよいと思います。
そのほか、関節に起こる症状には朝のこわばりがあります。こわばりの感じ方は患者さんによってさまざまですが、たとえば動かしづらい、力が入りづらい、ゴワゴワしたような感じ、手袋を二重にしているような感じなどと表現されることがあります。こわばりは30分以上続くことが多いでしょう。また、朝以外にも、昼寝などで長く休憩した後に関節を動かしづらくなるケースもあります。
関節リウマチが進行すると、軟骨が薄くなり関節同士のすき間が狭くなる、関節の周りの骨が薄くなるといった変化を生じることがあります。また、骨びらんと呼ばれる骨の一部が削られたように欠損する、葉っぱの虫食いに似た変化が現れることもあるでしょう。
さらに進行すると、関節が脱臼したり、硬くなって1つの塊になってしまったりすることもあります。また、本来向かない方向に関節が向いてしまったり、靱帯が切れてうまく手が使えなくなったりする場合もあるでしょう。
このような状態を防ぐためには、早期の診断によって適切な治療を行うことが大切です。
関節以外の場所に現れる症状には、皮膚の潰瘍や、腎臓の炎症、間質性肺疾患などがあります。
これらの関節以外の症状は、関節リウマチの炎症のコントロールがうまくいかない患者さんに現れやすく、かつては多くの患者さんに生じていました。現在は薬の選択肢も増え、治療によって炎症を抑えられるケースが多いため、関節以外の症状が現れる患者さんは少なくなってきています。
関節リウマチの診断は、血液検査や手足のX線検査などに加えて、リウマチ専門医*の診察によって行います。症状があっても、最初の検査の時点では関節リウマチの診断がつかない患者さんもいらっしゃいます。そのような場合には、期間を空けて再度検査をしながら経過観察を行います。
関節リウマチは、6週間以上症状が続く場合というのが診断基準の1つになっています。たとえば、原因が分からない関節の痛みや腫れが6週間以上続いていて、整形外科を何度か受診しても原因が分からず、さらに手のこわばりなどが現れている場合には一度リウマチ専門医を受診することをおすすめします。
*リウマチ専門医:日本リウマチ学会認定のリウマチ専門医のこと。
関節リウマチでは、“よい状態を維持する”ことを目指して治療を行っていきます。治療の基本は薬物療法で、必要に応じて手術やリハビリテーション(以下、リハビリ)を行う場合もあります。
現在の治療では、薬物療法だけでも半数以上の患者さんは病気の勢いを低く抑えた状態から寛解*に至ります。残りの患者さんも、治療を追加したり併用したりすることで、同じような状態に導けるケースは増えていると思います。
*寛解:病気による症状などがほとんどない状態のこと。
関節リウマチの薬物療法では、主に免疫抑制薬*、免疫調整薬**、生物学的製剤、JAK阻害薬を使用して痛みや炎症をコントロールしていきます。
治療薬の選択は診療ガイドラインに沿って行い、1〜3か月で改善がみられなければ治療を見直すのが基本です。選択する際は患者さんの持病や年齢などを考慮しながら、安全性と有効性が期待できる薬であることを重視します。たとえば、現状で関節リウマチのアンカードラッグ(中心的薬剤)になっているメトトレキサートは、間質性肺疾患がある患者さんの場合は、状態を悪化させる可能性もあるため慎重投与となります。また、薬によって費用が高額なものもあるため、当院では経済的な問題も患者さんと相談しながら薬を選択するようにしています。
生物学的製剤は、炎症に関わる分子や細胞のはたらきを抑えることで炎症をコントロールする薬です。点滴や皮下注射によって投与します。皮下注射を患者さんご自身で行う場合は、通院の頻度を延ばせるというメリットがあります。しかし、体重が重い患者さんは皮下注射では薬の量が足りず、通院して点滴投与を行うと炎症のコントロールがよくなる場合もあるため、適切な投与方法も患者さんに合わせて選ぶ必要があります。
JAK阻害薬は、炎症を起こす物質による刺激を細胞内に伝えるときに必要となる酵素(Janus kinase:ヤヌスキナーゼ)を阻害する薬です。現状では、生物学的製剤がうまく作用しなかった場合に、次の選択肢として使用するケースが多いと思います。
*免疫抑制薬:過剰な免疫反応や炎症を抑制する薬。
**免疫調整薬:免疫抑制薬より弱い力で、異常な免疫を正常化させる薬。
痛みだけが現れているような患者さんには痛み止めを、炎症が著しく強く生活に影響が出ているような患者さんには、ステロイドを併用する場合があります。ただし、ステロイドは長期的に服用すると骨粗鬆症や糖尿病、高血圧症などの副作用を引き起こす場合があるため、必要最小限にとどめる必要があるでしょう。
関節の変形が進んでしまった場合には、手術を行う患者さんも一定数いらっしゃいます。現在は、関節を温存しながら形を整えていくような手術を行うことが多いでしょう。
ただし、手術を行ったとしても、炎症を抑えるために術後も薬物療法の継続が必要です。術後は、手術前の治療に戻すのが基本ですが、手術で炎症の成分を作っている要因の1つである滑膜(関節内の組織)を除去することで、術前より少ない量の薬で炎症をコントロールできるようになる患者さんもいらっしゃいます。このように、患者さんの年齢や改善度合いを経過観察しながら、薬の減量や中止を検討していくケースもあるでしょう。
筋力が落ちているような場合には、日常生活を問題なく送れるようになることを目指して筋力をつけるようなリハビリを行うことがあります。また、手術の後に、動きにくくなった関節の動きを戻していくためにリハビリを行うこともあるでしょう。
関節リウマチの治療中は、感染予防対策をしっかりと行うことが大切です。
特に生物学的製剤による治療中は、感染症の中でも“内因性感染症”という副作用が引き起こされる可能性があります。内因性感染症は、外からの菌やウイルスではなく、体の中にもともと存在する菌やウイルスによって起こります。そのため、生物学的製剤による治療をスタートする前には、内因性感染症を引き起こす菌やウイルスが存在しないことを確認する必要があります。また、これらの菌やウイルスが存在する患者さんに生物学的製剤を使用する場合には、定期的なX線検査やCT検査によって経過を確認する必要があるでしょう。
生物学的製剤以外の薬であっても、治療中に感染症が疑われる場合は早めに受診することが重要です。
関節リウマチの診療では、チーム医療が重要だと考えています。たとえば、治療薬が発展しても手術が必要なケースもあるため整形外科の医師との連携は欠かせませんし、副作用に対応するために他科の医師との連携も大切です。
また、当院では多職種で協力することを大切にしています。たとえば患者さんは体調の変化などについて、より接することの多い看護師や薬剤師に話すことがあります。そこから副作用の発見につながることもあり、医師だけでなくチーム全体で患者さんにアプローチしていく重要性を感じています。ほかにも、高額療養費制度などの医療制度については、医療事務スタッフがある程度ゆっくりと説明したほうが患者さんの記憶に残りやすいと考えています。
当院では、チーム医療を強化するために勉強会を開催し、知識を共有するような取り組みも行っています。
私の父でもある当院の理事長が、整形外科で主に関節リウマチを診療していたことがきっかけで、私も関節リウマチの診療に携わるようになりました。関節リウマチの患者さんには、生活するための能力や技術があっても、病気を患っているがゆえにできないことがあるという現実があります。診療に携わり始めた頃は有効な治療法がなく症状が改善できないことを理不尽だと感じていましたが、現在は治療薬が進歩したことである程度改善できる時代になってきています。
また、関節リウマチになった女性の患者さんの中には出産できるか心配される方もいらっしゃいますが、炎症をしっかりとコントロールすることで妊娠や出産も問題ないケースが多いでしょう。患者さんが無事出産できたと伺うと、関節リウマチを専門とする医師として、多少なりとも社会貢献ができているのかなと喜びを感じます。
関節リウマチの治療では、患者さんそれぞれにお話を聞いたうえで、適した治療法や治療の進め方を決めていくことが大切です。“この薬を使えば100%寛解につながる”ということはないため、患者さん一人ひとりの条件やニーズ、経済的な事情などを伺いながら治療方針を立てていくことをモットーに治療を行っています。
関節リウマチの治療薬として生物学的製剤やJAK阻害薬が誕生し、治療の選択肢が広がりました。今後は再生医療の発展にも期待しています。再生医療によって破壊された軟骨の再生などができるようになれば、より患者さんの負担が少なく関節の保存ができるようになると考えています。
関節リウマチの治療中は、主治医の先生とよく相談をしながら適切な治療が行われるようにすること、そして自分自身をよく観察することが重要だと思います。関節リウマチの治療を開始して病気が落ち着いてくると、症状の改善や悪化はある程度ご自身で判断できるようになりますので、日々の変化を主治医の先生にしっかりと報告することが大切です。
たとえば、JAK阻害薬の副作用で帯状疱疹が現れることがあります。帯状疱疹とは、神経に潜んでいたウイルスが活性化することで起こる病気で、神経の痛みを最初に感じ、その後に皮膚の変化が現れる場合が多いです。普段と違う部位に痛みが現れた場合には症状をよく観察して、水疱が出た場合はすぐに皮膚科もしくは主治医に相談して帯状疱疹のチェックをしてもらう必要があります。
これは一例ですが、治療を開始したら自分自身をよく観察し、何か体調に変化があれば医師に相談するようにしてください。
医療法人井上病院 院長
井上 誠 先生の所属医療機関
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