関節リウマチは、免疫の異常によって、関節に痛みやこわばりなどが現れる病気です。進行すると、関節の変形や破壊が起こることもあります。かつては症状の進行は避けられないものでしたが、近年では新しい薬の登場もあり治療後の経過は改善しています。
開院以来関節リウマチの治療にあたってきた富士森内科クリニック 院長 清川 重人先生は、「適切な治療によって、ほとんどのケースで重症化を防ぐことができる」とおっしゃいます。清川先生に、関節リウマチの発症のしくみや症状などから、実際の診療で気を付けていること、医師としてのモットーまでお話を伺いました。
関節リウマチは自己免疫疾患の1つです。人間の体には細菌やウイルスなどの外敵に対して抗体をつくり攻撃する“免疫”というはたらきがあります。自己免疫疾患とは、この免疫に異常が起こり、外敵ではなく自分自身の体を攻撃する抗体が作られることで、発症につながる病気のことをいいます。関節リウマチでは、免疫の異常によって関節内の滑膜(関節を包む薄い膜)に炎症が起こり、関節の腫れや痛みなどが現れるようになります。
関節リウマチという病気に対して、“関節が壊れて痛む病気”“放置すると日常生活が不自由になる病気”というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、それはもはや過去の話です。現在では研究が進み、適切な治療を行うことで重症化を防ぐことができるケースがほとんどです。
当院では、おおよそ800~900人程度の関節リウマチの患者さんの治療を行っています(2023年3月時点)。
関節リウマチは、男性に比べて女性に多くみられます。これは、女性ホルモンであるエストロゲンや、乳腺の発達や母乳の産生を促すホルモンであるプロラクチンが自己免疫疾患の発症に関係しているためと考えられています。エストロゲンやプロラクチンのはたらきが一時的に抑えられる妊娠中は、自己抗体の産生が抑えられるため症状がよくなることも特徴的です。
また、特に30~50歳代の女性に多くみられますが、近年では高齢になってから発症する方も増えており注意が必要です。
関節リウマチの根本的な原因はいまだ分かっていませんが、発症には遺伝的な要因に加えて、喫煙や歯周病、出産、感染症といった環境的な要因が関与すると考えられています。
遺伝的な要因についてはHLA-DRB1などの遺伝子が発症に関係していることが明らかになっており、家族内に関節リウマチの患者さんがいる場合、発症率はいない場合の約3.6倍になるといわれています。実際に、当院でも親子で通院されている方たちがいらっしゃいます。
また、環境的な要因についてお話しすると、喫煙や歯周病によって抗CCP抗体*が産生されると関節リウマチの発症につながるケースがあることが分かっています。そのため喫煙している患者さんには、まずたばこをやめてもらうようにお伝えしています。関節リウマチの治療薬の中には副作用のために喫煙者に対して使用しづらいものもあるため、禁煙は関節リウマチの重要な治療の1つといえます。
*抗CCP抗体:環状シトルリン化ペプチド(CCP)という物質に対する自己抗体であり、関節リウマチの患者さんに特異的にみられる。
関節リウマチのもっとも一般的な症状は、手の関節が硬くなり動かしづらくなる“こわばり”です。症状は、PIP関節(指先に2番目に近い関節)で多くみられます。ただし近年では、膝や肘などPIP関節以外の関節で症状が最初に現れるケースもあります。
手のこわばりは、特にじっとして動かないでいるときに現れやすく、朝や昼寝の後に症状を自覚する患者さんが多いようです。また、関節リウマチは自己抗体による関節の炎症がその病態であるため、関節液がたまってぷよぷよと腫れる場合や熱感を持つ場合があります。
関節リウマチの治療中に注意が必要な合併症として、間質性肺疾患があります。一般的な肺炎が肺胞*の中で炎症が起こるのに対して、間質性肺疾患では肺胞の壁で炎症が生じることで息切れや空咳(痰を伴わない咳のこと)などの症状が現れます。原因は不明であることが多いですが、関節リウマチの治療薬が原因で起こることもあります。
また、関節以外にも多臓器にさまざまな症状が現れる悪性関節リウマチという病気がありますが、これは現在では関節リウマチとは別の病態であるとも考えられています。
*肺胞:肺の中にある、ブドウの房状の小さな袋が集まって形成された組織。
関節リウマチの早期発見のためには、朝などに起こるこわばりや、関節の痛みを見逃さないことが大切です。特に40~50歳代の女性は、更年期による関節炎も少なくありません。本人が症状から判断することは難しいため、お話ししたような症状があれば関節リウマチの可能性を考えて受診し、検査を行うことが大切です。
治療薬の進歩によって、関節リウマチは適切な治療を受けることで寛解*を期待できるようになっています。
*寛解:病気が完全に治ったわけではないが、症状などがなくなった状態のこと。
実際の治療では、まず、代表的な抗リウマチ薬の1つであるメトトレキサートを使用することが一般的です。メトトレキサートは、炎症にかかわる酵素のはたらきを抑えることで関節リウマチの症状である関節痛や関節破壊を防ぐ効果が期待できます。1〜3か月程度で改善がみられなければ、生物学的製剤などほかの薬を検討します。また、メトトレキサートは妊娠中の方には使用できないため、患者さんが妊娠を希望している場合には、はじめから生物学的製剤を使用することもあります。
生物学的製剤は新しい抗リウマチ薬であり、投与を開始すると比較的早期から関節痛の改善につながる傾向にあります。また長期的な効果も優れており、以前と比較して関節の破壊や変形を防ぐことができるようになりました。投与方法は、点滴か患者さん自身による自己注射です。患者さんによっては自己注射を嫌がる方もいますが、実際に注射の方法を見てもらうと、多くの場合には自己注射ができるようになっていきます。「意外と簡単ですね」と言って自己注射を選ばれる方もいます。生物学的製剤の懸念事項としては、費用が高額であることが挙げられるでしょう。
抗リウマチ薬による治療中は、免疫のはたらきが抑えられるため、かぜや肺炎、副鼻腔炎、非結核性抗酸菌症、結核などの感染症にかかりやすくなります。また、メトトレキサートは、間質性肺疾患や悪性リンパ腫との関連があるともいわれており、治療中は定期的に受診し経過を確認することが大切です。
薬物療法には関節痛や関節破壊の進行を抑える効果が期待できますが、すでに破壊や変形が進んでしまった関節を元に戻すことはできません。たとえば関節の変形が進んでしまうと、歩行などの動作にも影響が出てしまい日常生活が不便になってしまいます。このような場合には薬による治療を続けながら、関節の機能を改善するために手術を行うケースもあります。
関節の痛みなどを理由に関節を動かさずにいると、関節が固まりさらに動かしづらくなったり、筋力や体力が低下してしまったりするケースがあります。そういったことを防ぐためにも、関節を動かすリハビリなどを行うことも大切です。
関節リウマチの治療中には、いくつか注意点があります。まずは通院頻度です。治療に使用するメトトレキサートや生物学的製剤には、間質性肺疾患や感染症などの副作用が起こる可能性があるため定期的に診察を受けることが大切です。理想的には月に1回程度は診察を受けてほしいと考えています。また、生活のリズムを守る、感染症に注意する、自分がどのような薬を使っているのか知っておくことなども大切でしょう。
当院は開院してから、ちょうど35周年になります(2023年時点)。これだけの期間診療を続けていると、患者さんの中には10~30年にわたり通ってくださっている方もいらっしゃいます。そういった経過の長い患者さんでもずっと同じ医師が、つまり私が診察し続けているということは当院の強みの1つだと思います。
長い経過を把握しているからこそ、関節リウマチの治療だけでなく血液検査や消化器の検査(胃カメラや大腸カメラ)なども定期的に行い全身状態を評価することができます。実際に当院では、そうした定期的な検査で胃がんや大腸がんなどを発見できたケースも少なくありません。
今の時代、専門的な病院では日常のちょっとした症状を相談するのは難しく、その一方で、かかりつけの開業医の先生に専門的な細かい検査や治療をお願いするのも難しいのが現実だと思います。そんな中でも、専門的な医療とかかりつけ医療を両立させることこそ、開院時から当院の目指す医療の形でした。
きっかけは1人の医師でした。その医師は私の先輩であり恩師で、専門的な医療とかかりつけ医療の両立を理想として開業されていたのです。そういった姿に影響を受けた私は、専門的な医療を提供できるよう自分が診療を担当できない分野では大学から専門の医師に来てもらい、また一方でかかりつけ医として患者さんや家族の相談に応えていこうと努めてきました。
関節リウマチの治療では、お話ししたように感染症や間質性肺疾患のような副作用のリスクが常にあります。患者さんが急に具合が悪くなったときでも入院による治療に対応できるよう、他施設と普段から連携を取っておくことも重要です。当院でも、関節リウマチの入院対応が可能な病院と常に情報を共有しながら治療にあたっています。
私はもともと消化器の中でも主に内視鏡を専門としていましたが、大学院で関節リウマチを研究テーマにしたことをきっかけに関節リウマチの診療に携わるようになりました。
そうして始めた関節リウマチの診療で大事にしていることは、患者さんとのコミュニケーションです。関節リウマチの治療は、患者さん一人ひとりに合わせた“オーダーメイドの治療”であると考えています。
薬の選択についても患者さんとよく話し合う必要があるのです。たとえば重症度としては生物学的製剤が望ましい患者さんであっても、経済的な理由から高価な生物学的製剤は使用できないというケースもあります。そういった患者さん一人ひとりの事情を教えてもらうためにもじっくりと話を聞き、よい関係を築くことが大切だと考えています。
今後の関節リウマチの診療では、地域の病診連携をさらに整えることが大切だと思っています。まずは、関節リウマチの患者さんがリウマチ内科にたどり着くことができるような紹介体制を築く必要があるでしょう。
現在は、関節リウマチの患者さんが関節の痛みで困ったときに、最初に整形外科など関節リウマチの専門ではない診療科を受診するケースも少なくありません。関節リウマチの疑いがあっても、痛み止めやステロイドで様子を見ているような例もあるのが現状です。まずは、そういった患者さんに対して、必要に応じて関節リウマチを専門とする医師を紹介するような体制を整備していく必要があるでしょう。
まずは“リウマチ内科”という言葉を、多くの方に知ってほしいと思います。関節の痛みで整形外科などを受診することはとても大切なことですが、中には関節リウマチの可能性がある方が一定数隠れています。そういった方が少しでも早くリウマチ内科を受診できるような体制を整えなければならないと思います。関節リウマチを放置して、変形・破壊されてしまった関節は元には戻りません。少しでも症状をよくするために手術が必要となってしまう方もいます。関節の変形・破壊が進む前に治療を始めるためにも、「関節リウマチかもしれない」と思ったときには、ぜひリウマチ内科を受診してください。
富士森内科クリニック 院長
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