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関節リウマチの治療目標――機会を逃さず治療して以前と変わらない生活に

関節リウマチの治療目標――機会を逃さず治療して以前と変わらない生活に
佐野 統 先生

医療法人医仁会武田総合病院 膠原病・リウマチ内科 リウマチセンター長

佐野 統 先生

目次
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関節リウマチは、進行すると関節の破壊や変形が起こる病気で、かつては治療法が限られていました。現在は治療が進歩し、寛解(症状がなく検査の数値も正常に戻った状態)を目指すことが可能になってきています。今回は、医仁会武田総合病院 膠原病(こうげんびょう)・リウマチ内科 リウマチセンター長 佐野 統(さの はじめ)先生に、関節リウマチの検査や治療、治療の目標などについて伺いました。

関節リウマチは、自己免疫疾患である膠原病の1つで、免疫の異常により複数の関節で滑膜(かつまく)(関節を覆っている軟らかな組織)に炎症が起こる病気です。免疫は通常、細菌やウイルスなどの外敵を排除するためにはたらきますが、関節リウマチのような自己免疫疾患では、自分と外敵が区別できず誤って自分の組織を攻撃する抗体(自己抗体)が作られてしまいます。自己抗体が特定の細胞や組織を攻撃すると、炎症が引き起こされます。炎症は持続して、症状が進行すると関節の破壊や変形が起こり生活の質が低下します。

関節リウマチは、30~50歳代の女性に多い病気です。ただし近年は、高齢での発症も増えており、高齢になると患者数の男女差は少ない傾向がみられます。

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写真:PIXTA

関節リウマチ発症のメカニズムは、まだはっきりと解明されていませんが、遺伝因子が約3割、環境因子が約7割関与していると考えられています。

家族に関節リウマチの方がいると通常より発症する可能性が高くなるため、問診ではご家族の病気についても確認するようにしています。

また近年、関節リウマチの発症に関連する複数の遺伝子が発見されています。治療薬によってコントロールできる可能性がある遺伝子も分かってきており、新しい治療薬の開発が期待されています。

環境因子としてはウイルスや細菌による感染症、喫煙などが挙げられます。

環境因子の1つであるウイルスの中でも、特に関わりが深いと考えられるのはマイコプラズマ・ファーメンタンスという種類のマイコプラズマです。このほか、腸内細菌のプレボテラ属や、歯周病菌のポルフィロモナス菌が関節リウマチの発症に関与していると考えられます。

また、1日の喫煙本数と持続年数が増えるほど発症リスクが高まることが分かっています。禁煙は症状の緩和につながるため、治療中の患者さんには禁煙をおすすめしています。

関節リウマチは30~50歳代の女性の患者さんが多いと述べましたが、これには女性ホルモンが関与していることが考えられます。女性ホルモンは自己抗体などのはたらきを活性化し、免疫機能の異常を悪化させる可能性があるのです。

そのほか、関節リウマチの患者さんでは、ホルモンの分泌を調節する仕組みである“視床下部-下垂体-副腎軸”に異常が起こり、炎症を抑制する機能の障害がみられることも分かっています。

関節リウマチの初期には、関節に痛みや腫れ、熱感といった症状が左右対称に現れることが一般的です。

初発症状が現れる部位としては、手首、手指の第2関節(近位指節間関節:PIP関節)、手指の付け根(中手指節関節:MCP関節)が多くみられます。次に多いのが膝、そして足指の付け根(中足趾節間関節:MTP関節)です。

そのほか、倦怠感や微熱、食欲不振、体重の減少など全身症状が現れることもあります。これらの症状は、一般的な体調不良だと思って見過ごしてしまう可能性があるので注意が必要です。

関節リウマチを治療しないままでいると症状が進行し、関節が破壊され変形が進みます。手や足に起こることが多いほか、全身のどの関節にも起こる可能性があります。

手の変形

症状が進むと手指に起こる典型的な変形は、小指(尺)側に指が傾く尺側偏位(しゃくそくへんい)、手指の第2関節が内側に曲がり第1関節(遠位指節間関節:DIP関節)が外側に反り返るボタン穴変形、第2関節が反り返り第1関節が内側に曲がるスワンネック変形、親指の第1関節が曲がるダックネック変形(Z変形)、亜脱臼が多発し指が短くなるムチランス型変形などです。

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足の変形

膝関節(しつかんせつ)の変形により、O脚やX脚となることがあります。足の指(足趾(そくし))の典型的な変形は、外反母趾(がいはんぼし)や関節の変形により足の指が三角形のようになる三角足です。さらに、関節の変形が原因で足底に胼胝(べんち)(たこ)ができることもあります。胼胝から細菌が感染すると敗血症になる恐れもあるため、胼胝を引き起こす関節の変形には手術を検討します。

手足以外の関節の症状

全身の関節に症状が現れる可能性がありますが、気付きにくいのは顎関節(がくかんせつ)です。食べにくさから変形に気付くこともあるでしょう。

特に注意が必要なのは頚椎(けいつい)の関節です。第1頚椎(環椎(かんつい))と第2頚椎(軸椎(じくつい))に炎症が及ぶと神経や脊髄(せきずい)を圧迫するほか、頚椎が大きくずれる環軸椎亜脱臼(かんじくついあだっきゅう)も起こります。さらに、呼吸中枢神経が圧迫されると呼吸が止まる恐れがあるため、関節リウマチの患者さんには必ず頚椎の検査を受けていただきたいと思います。頚椎に炎症が及んだ場合は、頚椎カラーを装着し首の動きを制限します。

イラスト:PIXTA 加工:メディカルノート
イラスト:PIXTA 加工:メディカルノート

シェーグレン症候群

関節リウマチ患者さんのおよそ5人に1人が、シェーグレン症候群を合併します。目や口の乾燥が主な症状で、唾液腺の腫れや発熱、紫斑、紅斑、末梢神経(まっしょうしんけい)のしびれ、間質性肺疾患*などの症状が現れるほか、関節リウマチと似た関節痛や関節炎を生じることもあります。

*間質性肺疾患:肺の中の肺胞(はいほう:袋状の組織)の壁に炎症が起こり、進行すると息切れや空咳などが現れる病気。

全身の症状

関節リウマチでは、間質性肺疾患という肺の病気や、胸水がたまる胸膜炎、肘や膝にしこりができる皮下結節、心臓の病気である心膜炎や心筋炎などが現れることがあります。また、炎症が続くと、アミロイドという物質がさまざまな臓器に沈着して機能障害を起こすことがあります。

診察では、左右対称性の関節痛や起床時の関節のこわばり、疲れやすさといった症状の有無、体の機能に制限が生じていないかどうかを確認します。

関節の炎症は触診で確かめることが大切です。そのほか、関節機能や可動域の低下、関節を動かしたときの摩擦音や不安定性、変形、関節外症状の有無も確認します。

血液検査では主に以下の項目を確認します。

ESR(赤血球沈降速度)とCRP(C反応性タンパク)

どちらも炎症を確認する検査です。ESR*は、自己抗体を持っている場合に高い値を示す検査でもあることから、ESRとCRP**の両方を確認することが大切といえます。

*ESR:赤血球が一定時間内にどの程度沈むかで炎症の度合いを確認する検査。赤沈ともいう。

**CRP:体内に炎症が起こっていると増加するタンパク質。炎症が強いと数値が高くなる。

RF(リウマトイド因子)

関節リウマチでは約8割が陽性となりますが、ほかの自己免疫疾患や肝臓の病気がある方や、高齢の方なども陽性となることがあります。

抗CCP(環状シトルリン化ペプチド)抗体

関節リウマチの診断に有用です。発症前でも検出されることがあり、発症予測や早期発見につながります。

MMP-3(マトリックスメタロプロテイナーゼ-3)

軟骨の成分を分解する酵素で、この値が高いと関節の破壊が速く進行します。ただし、腎障害などほかの病気でも高くなるため鑑別が大事です。

関節エコー検査

関節エコー検査は、滑膜の腫れと異常な血流の有無をリアルタイムで確認します。早期診断に役立つとともに、異常な血流が減少し炎症が抑えられているかどうかを確認するなど、治療経過を評価するためにも重要な検査です。

MRI検査

MRI検査は、関節や軟部組織、骨の内部まで確認できる検査です。X線検査を行って異常所見が認められない場合でも、MRI検査では異常を発見して早期診断につなげることが期待できます。

関節リウマチと似た症状が現れる病気は多数あることから、鑑別診断が重要になります。そのため、触診で関節の圧痛や腫れ、熱感の有無を確認します。関節に腫れや痛みが生じる変形性関節症は、トゲ状の骨(骨棘(こっきょく))が突き出るのが特徴で、X線検査で鑑別できます。

また、近年は高齢発症の関節リウマチが増えているので、高齢の方に多く症状が似たRS3PE症候群*リウマチ性多発筋痛症**との鑑別も重要です。

*RS3PE症候群:多関節に炎症が生じ、両手、両足の浮腫みがみられる。MMP-3の値は高いがリウマトイド因子やCCP抗体は陰性で、骨びらんもみられない。少量のステロイドがよく効くのが特徴。

**リウマチ性多発筋痛症:頚部、両肩、両上腕部、両大腿部の痛みの症状が突然現れる。CRPや赤沈の亢進など炎症反応が認められる。少量のステロイドの有効性の確認は診断に有用となる。

関節リウマチの発症から約2年を治療機会の窓(Window of opportunity)と呼び、この窓が閉じる前に抗リウマチ薬による治療を開始すれば、寛解の可能性が高くなるといわれています。私は、半年以内にしっかりと治療をすることが理想的だと考えています。

現在は、検査などの技術が進歩してより早く病気を発見することが可能になりました。正確な診断を行い、早期に治療を始めることが大切です。また、治療の進歩により進行を抑える効果が期待できるようになりましたので、希望を持って治療に臨んでください。

関節リウマチの治療目標は、炎症を抑え関節の痛みや腫れを抑える“臨床的寛解”、骨や関節の破壊を抑える“構造的寛解”、体の機能を維持して生活の質を改善する“機能的寛解”の3つです。

かつての治療は痛みの軽減が中心でしたが、2000年代に生物学的製剤*が登場して以降は治療目標が大きく変化しました。現在では、病気がない方とほとんど変わらない生活を送れる状態を目指すことが可能になっています。

*生物学的製剤:生物由来のタンパク質を用いた薬の総称。炎症の原因となるサイトカインという物質のはたらきを抑える薬などがある。

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関節リウマチの治療は次の4つが基本となります。

基礎療法とは、症状の悪化を防ぐために日常生活で行う工夫のことです。患者さん自身が生活指導や栄養指導により病気の知識を深めていただき、日常生活では注意や工夫をしながら過ごすことが大切です。

第一選択薬について

薬物療法は、まず免疫抑制作用を持つメトトレキサートを中心に使用します。骨破壊を抑制し、関節の痛みや腫れの緩和が期待できますが、副作用が現れることもあるため、注意しながら使用する必要があります。また、特定の合併症がある方などメトトレキサートを使用できない場合は、患者さんに合ったほかの治療薬を選択することを検討します。

生物学的製剤やJAK阻害薬の使用について

治療を開始して3か月ごとに評価を行います。効果が不十分であれば治療を見直して、ほかの抗リウマチ薬を併用するか、生物学的製剤やJAK阻害薬*を使用するなど、早い段階からより強い効果が期待できる薬を選択し、寛解を目指します。

*JAK阻害薬:サイトカインの刺激を細胞内に伝えるJAK(Janus kinase:ヤヌスキナーゼ)のはたらきを抑える薬。複数のサイトカインに作用する。

患者さんに合わせた薬の選択のために

生物学的製剤とJAK阻害薬には複数の種類があり、それぞれの薬の作用とともに、患者さんの希望や利便性なども考慮して選択します。生物学的製剤は、皮下注射や点滴で投与する薬で、自己注射が可能なものもあります。投与の間隔は薬の種類によって異なり、患者さんの希望に沿って選択することができます。また、生物学的製剤の中には胎盤や母乳への影響が少ない薬もあり、ライフスタイルに合わせて選択することも可能です。生物学的製剤が注射薬であるのに対し、JAK阻害薬は内服薬のため、注射が苦手という方が選択することがあります。

補助的な治療について

発症早期の段階で症状を軽減させるため、副作用に注意しながら少量のステロイドを補助的に使用することがあります。ただし、重篤な副作用を避けるため可能な限り短期間で量を減らしていき、最終的に中止します。

筋力の低下を予防し関節の動きを維持するために、運動療法や理学療法は大切です。当院では理学療法士によるリハビリテーションのほか、関節リウマチの患者さんが手軽に無理なく続けられる“リウマチ体操”の指導を行っています。

当院では、手術療法は整形外科と連携して行います。現在は、治療の進歩により手術の件数は減少しましたが、患者さんの状態によっては人工関節置換術などの手術を実施する場合があります。

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私は、正確な診断をするとともに、患者さんに合った治療を選ぶことを大切にしています。また、患者さんと相談しながら、可能な限りドラッグフリー(薬による治療が必要ない状態)を目指すよう努めています。

以前、若年性特発性関節炎の若いスポーツ選手の診断と治療を行い、寛解に至って退院されたことがありました。その後、出場した大会のメダルを見せてもらったときはとても感激しました。

お一人おひとりに合った治療を入念に検討し、患者さんがよくなられると医師としてのやりがいを感じます。

当院では、定期的にリウマチ性の病気と膠原病のカンファレンスを実施し、各科で症例を持ち寄り話し合うことで、よりよい治療の提供を目指しています。

地域連携にも力を入れ、開業医の先生方との勉強会を開いています。また、患者さんの友の会にも、積極的に参加し講演会や相談会を行っています。

関節リウマチの治療薬が効かないという患者さんも中にはいらっしゃいます。その課題を解決する新しい薬と、副作用が少ない薬が開発されることを期待しています。

高齢で合併症がある方や若い女性の方など、それぞれのニーズに合わせた治療法も確立していかなければなりません。

また、関節リウマチに関連する遺伝子は複数見つかっていますので、今後は治療や早期診断のマーカーに活用し、予防にもつなげられることを期待します。

現状、日本リウマチ学会認定のリウマチ専門医は不足し、地域によってその数もばらつきがあります。地域格差解消のためにも、若い先生方にリウマチ学の魅力を伝えていきたいと思います。若い先生方が夢を抱いて研究に従事できるよう研究費の増額も望まれます。そして、海外との共同研究も積極的に行い、より多くの成果を発表していってもらえたらと願っています。

関節リウマチかもしれないと思ったら膠原病・リウマチ内科などを受診して、専門の医師に相談してください。気になる症状があれば患者さんから検査を希望することも大切です。

患者さんの中には、鎮痛薬を気軽に服用しているという方もいらっしゃるかと思いますが、鎮痛薬は消化管障害、心血管系障害、肝障害、腎障害などの副作用を引き起こすことがあります。また、関節リウマチの根本的な治療にはなりませんので、我慢せずに専門の医師への相談を検討してください。

近年、関節リウマチは発症から時間が経っていても寛解を目指せるようになっていますので、治療を諦めないでいただきたいと思います。

提供:大正製薬株式会社

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