関節リウマチは主に関節に炎症が起こり持続するため、痛みや腫れ、こわばりといった症状が続き、徐々に関節が破壊されて機能障害が生じる病気です。発症早期に診断を受け、速やかな寛解(病気をコントロールできており、症状がほとんどない状態)の達成に向けて薬物療法を開始する必要があります。
今回は、名古屋市立大学病院 リウマチ・膠原病内科部長の難波 大夫先生に、関節リウマチの薬物療法の進め方、治療のポイントなどについてお話を伺いました。
関節リウマチは、免疫*の調節機能に異常が起こり、主に関節に持続的な炎症をきたす病気です。炎症の持続により関節の組織が破壊され、非可逆的な関節の変形や機能障害が起きるため、できるだけ発症早期から炎症をしっかり抑える治療が必要です。
関節リウマチの原因は明らかになっていませんが、遺伝的な要因が指摘されており、HLA(白血球や全身の細胞に存在するタンパク質)の特定の型を受け継いだ場合などに発症の可能性が高まるとされています。ただし、いわゆる遺伝性の病気ではなく、遺伝的要因に喫煙や歯周病、腸内細菌といった環境要因が複合的に絡まって発症すると考えられています。
*免疫:体外から侵入した細菌やウイルスなどを攻撃し、排除するはたらきを担う。
関節リウマチの発症年齢のピークは40~60歳代、男女比は1:3~4といわれてきました。しかし近年は、高齢化の進行によって60歳代以上で発症するケースが増えています。なお、高齢で関節リウマチを発症した場合には、男女比の差は少なくなります。
日本には70万人ほどの関節リウマチの患者さんがいると推定されています。私が勤務する名古屋市立大学病院 リウマチ・膠原病内科では、年間650人ほどの関節リウマチの患者さんを診療しています(2023年5月時点)。また地域の医療機関で患者さんを支えるべく、低リスクの治療で安定しているリウマチ患者さんの逆紹介を含め、積極的に病診連携を推進しています。
関節リウマチの代表的な症状である関節の痛みや腫れは、手首や手指の先から2番目、3番目の関節、足趾(足の指)の付け根の関節のような小さな関節に症状が出ることが特徴的です。また、起床時など長時間の安静後に強く感じる手足などのこわばり(関節が動かしにくい感じ)は体を動かすことで徐々に改善しますが、関節リウマチの患者さんでは1時間以上続くことが多いとされています。小さな関節の腫れや痛みに加え、起床時に起き上がろうとして手をついたときに手首が痛む、起床後フローリングを素足で歩こうとすると足趾の付け根の接地面が痛むなどの症状が急に出現し持続する場合は、関節リウマチを疑う必要があります。
一方、高齢発症の場合、肩や膝、股関節といった大きな関節に症状が出るケースが多く、また若年者と比較し、炎症がより激しい傾向があります。このため症状が急激に悪化し、比較的早期から日常生活を送るために最低限必要となる着替えや食事などの生活動作(ADL)に問題が生じます。さらにもともと加齢によりADLが低下しているところに関節リウマチの強い症状が加わるため、発症早期から要介護状態になりがちです。
疾患活動性(炎症の程度や痛みの度合い)が非常に高いケースでは、微熱が出たり、体重が減少したりする場合があります。そのほか、鼻や気管支の粘膜、肺などに炎症をきたし、副鼻腔炎による鼻づまり、気管支炎によって痰が絡んだような咳などの症状が出る方もいます。
上記のような関節症状が1~2週間以上続くようであれば、病院への受診をおすすめします。なお、高齢発症の場合には、発症早期から急激に症状が悪化する可能性があります。したがって、関節の痛みや腫れによって日常生活に支障が出ているようであれば、なるべく早く診察を受けましょう。
関節リウマチの治療目標は、寛解の導入と維持です。関節リウマチの治療で目指しているのは以下の3つの寛解になります。まずは、早期の寛解導入を目指して薬物療法を進めていきます。
関節リウマチの治療は、“寛解に導入するための治療”と“寛解を維持するための治療”を分けて考える必要があります。寛解導入治療では、副作用に配慮しながら十分な強度の治療を行い、できるだけ速やかにかつしっかりと炎症を抑えることが重要です。寛解に至った後も完全に薬を中止できる方は少ないため、寛解を維持する治療が長期にわたり必要です。そのため安全性とコストパフォーマンスを両立できる維持治療を目指す必要があります。
関節リウマチでは、寛解維持後に治療薬の減量、治療強度の減弱が可能です。患者さんの経済的な負担の軽減、さらには国の医療費の削減という観点からも、生物学的抗リウマチ薬*やJAK阻害薬**といった高額な薬の減量や中止ができるように長期的な戦略を立てていく必要があるでしょう。
*生物学的抗リウマチ薬:遺伝子組み換え技術によって作られた特定の分子を標的にした薬。標的の違いによってTNF阻害薬、IL-6阻害薬、T細胞共刺激分子調節薬の3種類に分けられる。点滴または皮下注射で投与する。
**JAK阻害薬:細胞内にあるJAKという酵素のはたらきを阻害して、炎症を抑える経口薬。
関節リウマチの薬物療法の基本となるのは抗リウマチ薬です。なかでもメトトレキサートは第1選択薬であり、投与できない場合を除き関節リウマチと診断後に開始します。ただし、メトトレキサートを使用できない方や、発症早期で症状の軽い方には、ほかの抗リウマチ薬を選択する場合もあります。
メトトレキサートが効果を十分に発揮するまでに数か月以上かかるため、症状の軽い方や副作用のため使用が望ましくない場合を除き、治療開始と同時にグルココルチコイド(副腎皮質から作られるステロイドホルモンの一種)の使用を開始します。メトトレキサートは副作用がなければ服用できる範囲内の最大投与量まで速やかに増量します。一方、グルココルチコイドはできるだけ短期間の使用にとどめるために抗リウマチ薬の治療を適宜強化します。また、抗リウマチ薬の治療をしっかり行っても数か所程度しつこく残る関節炎部位には、グルココルチコイドの関節注射の併用が有効です。これらの治療は免疫力の低下や骨粗鬆症といった副作用を生じ得るため、予防治療を含む適切な対処を行いながら治療を進めていきます。関節リウマチの治療においては、メトトレキサートやグルココルチコイドなどの従来からある安価な薬剤を適切に使用することが寛解に導く鍵になると考えています。
メトトレキサートをはじめとする抗リウマチ薬やグルココルチコイドを適切に使用しても症状がコントロールできない場合や、それらの薬剤が十分に使用できず関節炎がよくならない患者さんには、できるだけ速やかに生物学的抗リウマチ薬やJAK阻害薬の使用をおすすめします。メトトレキサートを使用している場合は、生物学的抗リウマチ薬の一種であるTNF阻害薬(炎症を引き起こすTNFのはたらきを選択的に抑える薬)を追加しています。メトトレキサートが使用できない場合には、多くの場合IL-6阻害薬などその他の生物学的抗リウマチ薬を選択しています。また注射の治療を避けたい患者さんにはJAK阻害薬の併用を行います。生物学的抗リウマチ薬やJAK阻害薬は高価な薬剤ですが、それに見合う有効性が期待できる薬剤です。当院では、必要な患者さんにはできるだけ早く届けるよう心がけています。
関節リウマチの治療薬にはそれぞれ副作用がありますので、定期的に通院していただき、血液検査を受ける必要があります。当院では、治療開始当初は4週間に1回、状態が安定してくれば基本的に3か月に1回程度の受診をお願いしています。
特に注意すべき副作用は以下になります。
治療強度が強まるほど免疫力が低下するため、感染症にかかるリスクが上昇します。特に気管支拡張症や間質性肺炎などの肺疾患をお持ちの方や、糖尿病などの併存症がある場合にはその危険性が増加します。高齢患者さんや強力な治療が必要な患者さんでは、通常免疫力が低下した方にしかみられないニューモシスティス肺炎が起こり得るため、低用量のスルファメトキサゾール・トリメトプリム製剤(合成抗菌剤)の内服など適切な予防治療を行う必要があります。また、過去に結核に感染した方や結核の潜在的な感染が疑われる方では、抗結核薬の予防的投薬が必要な場合もあります。
メトトレキサートは有効かつ安価な薬剤ですが、重篤なものを含め種々の副作用が出る可能性があるため、定期的にチェックしていく必要があります。肝機能障害や消化器症状(吐き気、食欲不振、下痢など)は頻度が高く、肝機能障害は脂肪肝などの併存症があるとより悪化しやすいので、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪肝炎を合併しやすい糖尿病やメタボリック症候群の患者さんでは特に注意が必要です。メトトレキサートを減量しても遷延する場合には、肝硬変に進行するケースもあるため、定期的な血液検査が欠かせません。
また、メトトレキサート使用中にリンパ増殖性疾患(免疫をつかさどるリンパ球が増えて腫れや腫瘤を生じる病気)が現れる場合があり、投薬の中断を含む適切な対処が必要ですので、定期的な観察が大切です。
原因を問わず食欲不振、嘔吐や下痢などが続いている、あるいは熱中症などにより脱水状態になっているにもかかわらずメトトレキサートを継続すると、メトトレキサートの中毒状態となり、骨髄抑制や重症感染症を起こし命に関わる重篤な状態となってしまいます。特に罹病期間の長い高齢患者さんや腎機能障害を合併している方に起こりやすく、このような脱水につながる状態では、メトトレキサートを休薬しなければならないことを繰り返し説明する必要があります。
メトトレキサートのほとんどの副作用は投与量が多ければ多いほど起こりやすいため、寛解維持期には徐々に減量し、個々の患者さんにとって必要最小限の投与量を模索することが重要といえます。
生物学的抗リウマチ薬は、比較的副作用が少ないとされているものの、タンパク質でできた大きな分子の薬剤であるため、皮膚や全身にアレルギー反応が起こる場合もあります。そういった副作用が出た際に患者さんが適切に対処できるよう、当院では看護師が中心となって自己注射指導を行っています。
感染症対策の観点からも禁煙や口腔ケア、栄養バランスの取れた食事を心がけることをおすすめします。また、メトトレキサートを使用している場合は、肝臓への負担を抑えるためにも、アルコールはたしなむ程度にとどめるほうがよいでしょう。
筋力トレーニングや有酸素運動は、関節の安定化や心肺機能の向上につながるため、積極的に取り組むとよいでしょう。足の関節に症状がある方は、関節への負担を軽減できるプールでウォーキングを行うのもよいと思います。
また、喫煙は関節リウマチの発症や重症化、さらには肺合併症のリスクを高める可能性があるため禁煙をおすすめします。
薬物療法を継続しても関節に症状が残っているケースでは、作業療法士の指導の下で補助器具を用いたリハビリなどで症状の軽減を図ります。
薬や治療戦略の進歩により、手術に至る患者さんは減少しています。しかし、さまざまな理由から治療薬を十分に使えず、関節が変形に至ってしまった、あるいは炎症は治まったものの機能障害が残ってしまった場合には手術を検討します。
膝や股関節といった大きな関節については人工関節置換術を選択されることが多いでしょう。また、手の指や足の指などの小さな関節の機能障害に対しては、ADLを向上させるための手術を行う場合があります。
関節リウマチは全身にさまざまな症状をきたし、機能障害を引き起こす可能性がある病気です。機能障害を最小限に抑えるためには、できるだけ早期に診断して、早期に寛解を達成することが重要になります。
的確な診断や疾患活動性評価を行ううえで、患者さんの症状によく耳を傾けることと、関節やその周辺組織を直接触る触診がもっとも重要です。触診では腫れや痛みといった炎症の徴候を明らかにできますので、腫れや痛みを伴う関節の分布や数などをもとに関節リウマチの診断や疾患活動性評価が行われます。疾患活動性の推移をみるうえでは、足首や足趾の関節を含まない全身の28関節で評価可能ですが、診断時や寛解の判定には足趾や足関節を含む全身の関節評価が必須となります。
触診で関節炎の有無を判断できない場合には、超音波検査による評価を行うことも重要です。血液検査は、主として副作用や合併症の評価のために行うものであり、関節炎の評価における意義は、問診や身体診察に比較するとあまり高くありません。
近年は、生物学的抗リウマチ薬などの登場や治療戦略の進歩により、関節リウマチの症状をコントロールできるようになり、多くの患者さんで寛解の達成が可能になりました。生物学的抗リウマチ薬を使用して寛解を達成し維持できた患者さんの多くは、寛解の状態を維持したまま生物学的抗リウマチ薬の減量が可能ですが、休薬するとすぐにリウマチの症状をぶり返してしまう方もおられます。しかし、半数程度の患者さんは生物学的抗リウマチ薬の休薬後も寛解を維持できています。
名古屋市立大学では、寛解達成後の治療減弱に関する臨床研究を進めています。たとえば、生物学的抗リウマチ薬を休薬できる症例の特徴が明らかになれば、寛解を維持しながらコストを抑えた治療も可能になると期待しています。
関節リウマチの治療では、早期診断・早期寛解達成が重要ですので、関節リウマチを疑う症状が現れた場合には、なるべく早く関節リウマチを専門とする医師に受診しましょう。早期に寛解に達することができれば、後遺症もなく発症以前の状態を取り戻すことも可能です。したがって、関節リウマチと診断されて治療を続けているものの、症状があまり改善されない方は「この程度の痛みは仕方ない」とそのままにせず、主治医にご相談ください。
症状を伝えたけれども治療や症状が変わらない場合には、転院を検討するのも1つの方法だと思います。転院先を決める際は、血液検査や画像検査だけでなく、足先を含む全身の関節を直接触って確認してくれる医師かどうかを目安にするとよいでしょう。
名古屋市立大学病院 リウマチ・膠原病内科 部長、名古屋市立大学大学院医学研究科 呼吸器・免疫アレルギー内科学分野 准教授
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