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診療科同士が連携して行う関節リウマチの治療――病気のことを忘れて生活を送れるように

診療科同士が連携して行う関節リウマチの治療――病気のことを忘れて生活を送れるように
坂井 宏章 先生

名古屋市立大学病院 整形外科 助教、春日井市民病院 整形外科

坂井 宏章 先生

目次
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関節リウマチを発症するとつらい痛みや腫れによりQOL(生活の質)が低下し、日常生活にも支障をきたす場合があります。しかし近年、治療薬の進歩により、症状をコントロールし、病気の進行を抑えることが可能になってきました。関節リウマチを早期に発見し、適切な治療を受けるためにはどのようなことを心がけるとよいのでしょうか。今回は春日井市民病院 整形外科 非常勤医師の坂井 宏章(さかい ひろあき)先生にお話を伺いました。

関節リウマチとは、本来は細菌やウイルスから体を守る仕組みである“免疫”に異常が起こった結果、自分の関節などを攻撃してしまう自己免疫疾患のひとつです。治療せずに放置すると、関節や骨が破壊されて変形が生じ、痛みが残ってしまう場合もあります。しかし近年では、治療薬の進歩により、適切な時期にしっかりと治療することで病気の進行を抑えることが期待できるようになりました。関節リウマチは早期発見と早期治療がとても重要です。

関節リウマチの原因は十分に解明されていませんが、遺伝要因に環境要因が重なって発症すると考えられています。遺伝要因としては家族歴があると発症しやすいといわれており、環境要因としては喫煙歯周病、肥満や肺疾患などが関与することが分かっています。近年の研究では、発症に大きく関与するのは遺伝要因よりも環境要因だといわれているため、喫煙や歯周病などの対策を行うことで、関節リウマチの発症リスクを下げることができるとも考えられるでしょう。

関節リウマチは40〜60歳代で発症することが多く、男女比はおよそ1:4で女性に多くみられます。若い年齢層では女性が多いですが、最近は高齢で発症する方が増えており、高齢発症の患者さんでは男女の差は少なくなります。高齢発症が増加している原因ははっきりとは分かっていませんが、人口の高齢化が進んでいることや、長生きするほど喫煙や歯周病による慢性炎症が体内で持続している状態が長くなり、発症リスクが上がることなどが考えられます。

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写真:PIXTA

関節リウマチの初期に現れやすい関節の症状としては、指や手の痛みが挙げられます。症状の出方は左右対称になることが多いといわれていますが、片側だけに症状が現れる方もいます。足の小指の付け根に痛みが生じることもよくあります。また、関節リウマチは関節内の滑膜(関節を覆っている薄い膜)に炎症が起こるため、可動域が大きく滑膜が多い顎関節などにも症状が出やすいでしょう。

関節の痛みは、けがをしたり関節を使いすぎたりしたときにも現れることがありますが、1か月から6週間以上腫れを伴う痛みが続く場合には、関節リウマチの可能性を考えて受診することをおすすめします。

そのほか、関節リウマチとは関連がないようにも思われる全身のだるさや、それによって起き上がれないといった症状から発症する方もいます。

関節リウマチが進行すると、関節が破壊されて変形が生じます。たとえば、指の付け根の関節が小指側に曲がったり(尺側偏位)、手首の腫れが長く続いた場合に腱が切れてしまったりすることもあります。

関節以外にも、目や肺、骨などに症状が出ることもあります。肺であれば間質性肺疾患など、骨であれば骨粗鬆症などです。また、関節リウマチの方は、悪性リンパ腫という血液のがん肺がんになりやすいといわれているため、定期的にがん検診などを受けることが望ましいでしょう。

関節リウマチの診断のためには、問診や関節内の腫れの状態を確認する触診のほか、次のような複数の検査を行います。

関節リウマチの患者さんの7〜8割は、リウマトイド因子や抗CCP抗体など自己抗体の値が高くなることから、これらの項目を確認することが診断に役立ちます。そのほか、一般的な関節の炎症でも数値が高くなるCRPやMMP-3という項目も、判断材料の1つになります。

尿検査により腎臓の機能などを確認することがあります。

X線検査を行い、症状の現れやすい手と足、肺の状態は必ず確認します。ほかにも痛みの生じている関節があれば追加で撮影することがあります。初期にはX線検査では骨の変化はほとんどみられませんが、将来的に症状が進行する可能性を踏まえて状態を記録しておくことは大切です。

また前述のように、関節リウマチはがんや肺の病気とも関係が深いため、こうした病気の有無はCT検査で確認します。高齢の患者さんの場合には、胸部だけでなく骨盤までのCT検査も行うようにしています。

関節リウマチかどうか診断がつきにくい場合には、超音波検査を追加して、関節の腫れや滑膜炎の有無を確認することがあります。

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写真:PIXTA

関節リウマチの主な治療法には、基礎療法、薬物療法、リハビリテーション(以下、リハビリ)、手術療法があります。それぞれの概要と期待できる効果を説明します。

基礎療法とは、患者さん自身が病気を理解し、日常生活の中で生活習慣の改善などの工夫をしていくことです。たとえば、前述のように喫煙歯周病の対策をすることは関節リウマチの症状の改善につながります。また、喫煙習慣がある方は薬の治療効果が不十分になったり、過度な飲酒が続いている方は肝機能が低下して十分に薬を使えない場合などがあったりするため、これらの改善を図ります。

治療の流れ

関節リウマチの治療は基本的に、日本リウマチ学会の関節リウマチ診療ガイドラインに沿って行います。薬物療法に関しては、まずメトトレキサートに代表されるcsDMARDs(抗リウマチ薬)を使用し、効果が十分に得られない場合は生物学的製剤やJAK阻害薬を使用することがあります。

治療選択のポイント

近年、薬の選択肢が広がっており、さまざまな薬を使い分けることで効果的な治療が期待できます。一方で、治療を選択する際はリスクや副作用などを考慮することも重要です。特に高齢の患者さんの場合は合併症のリスクが高まるため、薬の特徴や、どのような合併症が起こる可能性があるかを十分に説明し、理解していただいたうえで使用することが大切だと考えています。肺や腎臓の機能が低下している方、働きながら治療を続けている方、妊娠・出産を考えている方など、患者さん一人ひとり状況は異なります。治療薬の中には価格の高いものもあるため、経済的な面を考慮することも必要です。こうした要素を総合的に考え、患者さんとよく話し合ったうえで治療を選択することが求められます。

関節機能の維持や改善を目的としたリハビリを行います。意欲的にリハビリを続けていただけるように、通院リハビリを導入している近隣の医療機関を紹介したり、高齢の患者さんが介護保険を活用してデイサービスを受けることができるようにおすすめしたりすることもあります。

薬物療法の進歩により、早期に適切な治療を開始すれば、手術が必要になるほど病気が進行するケースは少なくなりました。特に膝や股関節(こかんせつ)など大きな関節の手術はだいぶ減ってきています。

一方で、メトトレキサートという薬が登場するよりも前に関節リウマチを発症した方は、関節の変形が進んでいることがあるため必要に応じて手術を行います。膝関節(しつかんせつ)など比較的大きい関節の変形が進行して、歩くときに痛みを感じているような患者さんにも手術をすすめています。

手術の選択は関節の変形の程度や患者さんの年齢にもよりますが、たとえば膝に対する人工関節置換術*はQOLの向上が期待できることからよく行っています。関節リウマチでは足指の脱臼が起こることもあり、その場合には関節の機能を残すことができる骨切り術**を行うことがあります。

*人工関節置換術:関節の傷んだ部分を取り除き人工関節に置き換える治療。

**骨切り術:骨を切って正しく矯正し関節を温存する治療。

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以前は関節の破壊は少しずつ進むといわれていましたが、近年では発症してから2年以内に急速に進行することが分かってきました。“Window of opportunity(治療機会の窓)”と呼ばれるその時期に治療を始めて、病状をコントロールできれば、症状がほとんど出ていない状態である“寛解”を目指せるようになっています。また、寛解には至らなくても、症状が軽く進行しにくい状態である“低疾患活動性”の状態になることができる場合もあります。

基本的に関節リウマチの治療は長期間に及ぶため、適切な治療を継続していくためには患者さんご自身が病気や治療薬、ご自身の現在の状態について正しく理解することが欠かせません。そのために「関節リウマチとはどういう病気なのか」「どうしてこの薬を使うのか」といったことを丁寧に解説したり、副作用や合併症についても繰り返し説明を行ったりして、患者さんに納得して治療を継続してもらえるように努めています。

また、症状が強く出ている場合には、生物学的製剤やJAK阻害薬の使用を検討することがあります。中には高額なものもありますが、症状の改善を実感できれば治療を続けるモチベーションにもつながるでしょう。高額療養費制度を活用するなど、患者さんの経済的な負担を減らせる方法を提案することも心がけています。

関節リウマチの診療においては、患者さんが病気であることを忘れて生活を送れるように治療を行うことが理想だと考えています。

ある患者さんは高齢で発症され、初めて受診したときは起き上がれないくらい痛みが強く、大変つらい思いをされていました。しかし、治療により症状をコントロールできるようになり、元気に日常生活を送ることができるまでに回復されました。そういった患者さんから感謝の言葉をいただくと、関節リウマチの診療に携わっていてよかったと心から思います。ひどい痛みや腫れのため元気がなくなってしまった、痛みの原因が分からず我慢してきたという方もいらっしゃいますが、的確に診断をして、薬で症状を改善していくことができると、医師冥利に尽きると感じます。

当院では、関節リウマチを含む膠原病(こうげんびょう)の患者さんは、整形外科と腎臓内科、呼吸器内科が連携して診療を行っています。関節リウマチ以外の膠原病の患者さんは腎臓内科の先生が、肺の合併症がある患者さんは呼吸器内科の先生が一緒に診てくださるのは当院の強みだと感じます。各診療科のサポートを受けられるのはとてもありがたいことです。

ある程度症状が落ち着いている患者さんや高齢の患者さんなどでは、当院への通院を負担に感じている方もいらっしゃるかと思います。そのため、今後は近隣の医療機関との病診連携にさらに力を入れていく予定です。患者さんの自宅に近いかかりつけ医の先生に関節リウマチの診療も担っていただき、地域全体で患者さんを見守っていく環境を整えていきたいと思います。

関節リウマチの治療薬の中でも、JAK阻害薬は価格が高いのですが、将来的には比較的安価な後発医薬品が発売されると予想しています。そうすれば、経済的な負担からこれらの薬剤を選択できずにいた患者さんも使用できるようになり、より症状をコントロールしやすくなるでしょう。

また、薬物治療に関する研究が進み、血液検査の結果などから薬の効きやすさが分かるようになって、速やかに効果が現れる薬が選択できるような時代になればと願っています。多種多様な治療薬の中で「この患者さんにはこの薬がよい」というように、オーダーメイドな治療を行えるようになることを期待したいです。

ご自身で気になる症状を関節リウマチだと判断するのは難しいことだと思います。主な症状は関節の痛みなので、気になる症状があればまず整形外科を受診する方が多いかと思います。しかし、複数の整形外科を受診したにもかかわらずなかなか症状が改善しないときは、関節リウマチの可能性があるかもしれません。そのようなときは、整形外科にこだわらず、一度日本リウマチ学会認定の“リウマチ専門医”を受診してみてください。現在では、関節リウマチには寛解を目指すことのできる治療法があります。適切な治療を受けて、1人でも多くの方に病気のないときと同じような日常を取り戻していただけたらと願っています。

提供:大正製薬株式会社
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