関節に炎症が生じて腫れや痛みが現れる関節リウマチは、進行すると関節の機能障害が起こり日常生活にも影響が及ぶことがある病気です。しかし近年、症状に合わせてさまざまな薬を使用し適切な治療を行うことで、健康な方と同じように日常生活を送ることが目指せるようになっています。
今回はおやまクリニック リウマチ科・内科 院長 小山 徹先生に、関節リウマチの進行を抑え、治療に伴うストレスを軽減するポイントを伺いました。
関節リウマチとは、免疫が自分の体を攻撃してしまう“自己免疫疾患”の1つで、原因はいまだ不明の病気です。主に滑膜(関節を覆っている薄い膜)の炎症により関節炎が生じ、関節の腫れや痛みが現れます。そして炎症が持続すると関節の変形や機能障害が起こります。関節リウマチになってからの期間が長い、炎症のコントロールが上手くいかないなどの場合、関節外のさまざまな臓器にも炎症や障害が起こります。
関節リウマチの好発年齢は40〜50歳代といわれており、男女比は1:3〜4と女性に多い病気です。ただし、近年増加傾向にある65歳以上の高齢で発症する関節リウマチでは、男女差は小さくなります。治療の変遷とともに患者さんの年齢層も変化してきています。高齢発症の場合、関節炎に加えて加齢による全身の機能や筋力の低下(フレイル)、各臓器や認知機能の低下などがあり、治療が難しい一面があるのも特徴です。
関節リウマチ発症のリスク因子には遺伝的なものと環境的なものがあります。遺伝的な因子としては発症に関わる疾患感受性遺伝子がいくつか確認されていますが、一卵性双生児の研究から遺伝的な要因で発症する確率は約15%であることが分かっています。環境的な因子としてはウイルスや細菌の感染、閉経・出産によるホルモンバランスの変化、過労やストレスなどがあります。また近年特に、環境因子の中でも喫煙と歯周病が注目されています。
2010年にアメリカリウマチ学会とヨーロッパリウマチ学会が発表した分類基準によると、関節リウマチの診断時に確認する項目として、炎症がある、RF(リウマトイド因子)や抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体)などの自己抗体が陽性である、6週以上症状が続く、手のPIP関節(第2関節)やMCP関節(第3関節)、足指の付け根のMTP関節など小さな関節に症状があることが挙げられています。関節リウマチは多くの場合、手足の指など小さな関節に症状が現れますが、最近増えている高齢発症の関節リウマチは大きな関節から症状が現れることもあるため、あらゆる関節に発症する可能性を意識する必要があるでしょう。
近年、はっきりした症状はないが抗CCP抗体だけが陽性であるなど、関節リウマチの診断を満たさないものの発症リスクがある状況を指す“関節リウマチ前段階”(pre-RA、pre-clinical RA)という概念も注目されています。ヨーロッパリウマチ学会が関節リウマチに進展するリスクのある関節の特徴を発表しており、その中には、以下の7項目が挙げられています。
これらの項目に当てはまる方は関節リウマチを発症しやすい傾向があるため、経過を見守ることが関節リウマチの早期発見に役立ちます。
関節症状が進行すると関節破壊による変形が起こり、機能障害に至ります。治療の進歩により以前ほどではありませんが、多くの関節に疼痛が現れ、機能障害のために人工関節が必要となることもあります。肩関節などは関節が硬くなり動きが制限される拘縮が早期より生じることがあります。
受診の目安は、朝のこわばりや、朝に手を動かしにくい、朝方の強い関節痛などの症状が6週間続くことです。関節リウマチ以外にもさまざまな関節炎があり、中には鎮痛薬を使用すると数日〜数週間で治るものもあるため、ある程度の期間持続する関節炎であることが関節リウマチの診断には重要といえるでしょう。
関節以外に現れる症状としては、全身の倦怠感や微熱、体重減少が一般的です。それ以外にも、間質性肺疾患や胸膜炎、心筋炎や心外膜炎、強膜炎や上強膜炎など全身に炎症性の病気が生じることもあります。体重がかかる肘や後頭部、仙骨部などにリウマトイド結節と呼ばれるしこりが現れるのも特徴です。末梢神経に障害が起こり、多発性単神経炎によるしびれや麻痺、血管の炎症のため皮膚潰瘍や下肢の壊疽などの症状が現れることもあります。
関節リウマチ診断のためには、主に血液検査や画像検査、尿検査などを行います。以下にそれぞれの検査項目と、その目的を説明します。
これらの検査に加えて、当院では丁寧な触診で患者さんの病状を把握することを大切にしています。その理由は3つあります。
1つ目は、関節リウマチによる滑膜の腫れがどこにあるか、治療効果は十分か、検査結果と症状にギャップがないかを把握するためです。
2つ目は関節痛の原因を理解し対応するためです。関節痛の原因は関節の腫れ以外にも、骨と筋肉をつないでいる腱や腱を包んでいる腱鞘の問題、関節の変形や不安定性、筋肉が腱に移行し骨に付着している部分(付着部)に炎症が起こる付着部炎など多岐にわたります。触診は、このような痛みの原因を理解し対応する助けになります。
3つ目は触診により患者さんと病気の状況を共有し、信頼関係の構築を図るためです。「前回は腫れていましたが、今回はだいぶよくなりましたね」などと患者さんとお話ししながら触診を行うことを大切にしています。
関節リウマチの治療法には基礎療法、手術療法、リハビリテーション療法、薬物療法の4本の柱があり、基本は薬物療法です。それぞれの治療法の概要は以下のとおりです。
生活習慣を改善し、十分な睡眠や栄養をとること、ストレスなく過ごすことなどが基礎療法に含まれます。
近年の薬物療法の進歩に伴い、関節の変形や破壊による人工関節置換術の必要性は減少しています。しかし、足の指の変形によってタコができたり、靴が合わなくなり皮膚の潰瘍が生じて感染症を合併したりといったことは増加傾向にあります。そのため、足の変形を治すことを目的に足趾形成術が必要になる場合があります。また、手指を伸ばすための腱が切れてしまった場合に行う腱移行術や、首の骨(頚椎)の骨がずれて不安定になる環軸椎亜脱臼が進行してしびれやめまいがひどくなった場合の固定術が必要な場合もあります。
近年は関節リウマチ患者さんの高齢化もあり、可動域訓練や筋力増強訓練などフレイル対策も兼ねて、リハビリテーション療法を行うことが多くなっています。また、肩関節は拘縮しやすい傾向があるため、リハビリテーションを専門とする医師による訓練が必要となる場合があります。
基本的に関節リウマチは発症から1〜2年で急速に悪化するため、薬物療法によって初期にしっかりコントロールする必要があります。まずはアンカードラッグといわれるメトトレキサートをしっかり使用しますが、妊娠している方などメトトレキサートが禁忌の患者さんの場合はメトトレキサート以外の従来型合成抗リウマチ薬(csDMARD)といわれる薬剤を使ってコントロールします。原則として6か月以内に寛解(関節リウマチの活動性が抑えられている状態)または低疾患活動(症状が軽度に抑えられている状態)に到達するのが最終的な目標です。治療開始から3か月経過しても目標が達成されない場合には治療を見直します。それでも十分な効果が得られない場合には、生物学的製剤や分子標的型合成抗リウマチ薬(tsDMARDs)をさらに変更して、低疾患活動の状態を目指します。
高齢の方や肺・肝臓・腎臓などの状態がよくない方の場合はそれぞれの患者さんの状態に合わせて薬剤を選択したり、経済的な負担が大きくなることが難しい方にはバイオシミラーなど負担が少ない薬を利用したりして治療します。
関節リウマチの治療は免疫を抑えるため、感染症を起こさないことがとても重要です。日本人は間質性肺疾患を合併している場合、感染をきっかけに間質性肺疾患が急激に悪化しやすいといわれており、特に注意が必要です。予防のためにはうがい・手洗いを徹底し、人混みを避けるなど、基本的な感染症対策が重要です。インフルエンザや肺炎球菌のワクチンを積極的に接種する、誤嚥性肺炎を予防するために歯磨きなどのオーラルケアを徹底するなども大切でしょう。
また「体調が悪いときには無理をして関節リウマチの治療薬を飲む必要はない」と患者さんに伝えておくことも大切だと考えています。例えば、アンカードラッグであるメトトレキサートは腎排泄の薬剤であるため、発熱や嘔吐、下痢などによって脱水が生じた場合、腎臓からの排泄が滞って身体の中の薬の量が多くなり、副作用が生じる危険が高くなります。
当院では通院の頻度は通常4〜5週間に1回としています。治療を始めて間もない頃や治療法を変更したときには、2〜4週間に1回来院していただき、副作用が出ていないか確認します。病状が落ち着いてきたら4〜5週間に1回、遠方の方の場合には8週間に1回など、患者さんの状況に合わせて調整します。
関節リウマチは慢性疾患であるため、長期にわたって治療を続ける必要があります。副作用を生じさせずに寛解を維持するためには、それぞれの患者さんの体調に合わせて薬を調整していくことがとても重要だと考えています。
当院では他の病院からの紹介で来院される患者さんを多く診療しています。関節リウマチではありませんが、手のこわばりなど更年期に伴う広い意味でのリウマチ症状を訴えて来院される40〜50代の女性の方、腱鞘炎や手指のDIP関節(第1関節)が変形するヘバーデン結節、手指のPIP関節が変形するブシャール結節による関節の痛みで来院される方もいらっしゃいます。しっかり経過を観察しないと関節リウマチとの判別が難しい場合もあるため、診断のために何か月か通院していただく必要がある方もいらっしゃいます。その間当院では、ステロイド系外用薬を使用しながら腱鞘のストレッチやマッサージをしてもらったり、更年期の症状が強い方は加味逍遥散や桂枝茯苓丸などの漢方薬を使用したりして症状の改善を図ります。
関節リウマチの診療においては、患者さんの訴えに真剣に耳を傾け、誠意を持って診療にあたり、患者さんとの信頼関係を築くことを大切にしています。長年大勢の患者さんを診療してきましたが、中でも妊娠を希望する年代の患者さんは印象に残っています。関節リウマチの炎症が強いと妊娠しやすさが低下するため、関節リウマチをしっかりコントロールする必要がありますが、妊娠を希望している場合使用できる薬は限られます。いろいろと治療を試してもなかなか妊娠しないまま1年以上が経過し、若い方で経済的な余裕はなかったものの、思い切って生物学的製剤を使用して、まずは関節リウマチをしっかりコントロールすることにしました。その約半年後、妊娠が分かり、無事に元気なお子さんを出産されました。その後関節炎の悪化もなく、現在も症状をコントロールできています。患者さんに正しい情報を提供して治療がよい結果となり、喜ぶ姿を見ることができとてもうれしかったのを覚えています。
ストレスは関節リウマチに悪い影響を及ぼすため、ストレスマネジメントはとても重要です。当院では患者さんのストレス軽減のために月に2回ヨガの先生を招き、呼吸法を中心とした無料のヨガ教室を開催しています。この取り組みを始めて5年ほど経ちます。ヨガによって患者さんのストレスマネジメントのお手伝いができ、よりよい治療につながればと考えています。
今後の関節リウマチ治療としては、海外では使用されているものの日本ではまだ認可されていない薬が使えるようになり、さらに治療手段が広がることを期待しています。またいつの日か、関節リウマチの病因そのものを取り除き、治癒を目指せる時代になることを願っています。
私が関節リウマチの診療を始めてから今までを振り返ると、やはり2000年初頭に生物学的製剤が承認されてから治療は大きく変わりました。しかし、主に経済的な問題から希望しても薬を使用できない患者さんにどう対応するかという観点から、もう少し他の選択肢があるとよいと感じています。
手のこわばりや関節痛の原因はさまざまです。関節リウマチ以外にも早期治療が必要な病気がありますので、気になる症状がある場合には気軽にリウマチ科を訪れていただきたいと思います。
関節リウマチは痛み、症状や治療に対する気がかり、将来への不安などからストレスを感じることが多い病気です。患者さんのストレスを少しでも軽減できるよう、私たち医療者と患者さんが綿密な意思疎通を図る、“シェアードディシジョンメイキング”(双方で納得して意思決定していくこと)が重要です。医師としていつでも患者さんの声に耳を傾ける姿勢で診療にあたっていますので、疑問に思った点はぜひ遠慮なく伝えていただければうれしいです。
小山 徹 先生の所属医療機関
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