関節リウマチは膠原病の1つで、関節に痛みや障害をきたす病気です。病気の進行は不可逆的で元に戻らないため、進行を防ぐために早期発見、早期治療が重要です。今回は、藤田医科大学病院 リウマチ・膠原病内科 教授の安岡 秀剛先生に関節リウマチの治療や課題、病院の取り組みについてお話を伺いました。
膠原病とは“免疫の異常が原因で発症する”と考えられている、いくつかの病気の総称です。関節リウマチは膠原病の中でも関節に痛みや障害をきたす病気です。滑膜といわれる関節を包んでいる膜が炎症を起こして増殖し、関節の構造が破壊されていきます。破壊が進むと関節の機能が失われ、日常の動作にも支障が生じてしまいます。元に戻らない病気であるため、できるだけ早く発見して治療を開始し、進行を抑えることが重要です。
日本において、関節リウマチの患者さんは全人口の1%ほどといわれています。現在の日本の人口は約1億人ですので、約100万人の患者さんがいらっしゃるということになります。男女比は約1:4で女性に多い病気です。女性ホルモンの変化や妊娠出産などのイベントが、何らかの形で発症に関係している可能性があるといわれていますが、明確には分かっていません。好発年齢は40~60歳代といわれていますが、最近は高齢化しつつあるのが特徴です。
藤田医科大学病院では、約1,700人の関節リウマチの患者さんが定期的に外来を受診されており、新しく関節リウマチと診断される方は年間100人ほどいらっしゃいます。
関東地方ではリウマチ・膠原病を標榜している科が多いのですが、東海・中部地域は内科や整形外科が半数ずつくらいで患者さんを診ているのが現状です。地域によっては膠原病を専門とする医師が少ないことで、診断が遅れてしまうケースもあると考えられます。
関節リウマチのリスク因子はさまざまありますが、決定的なことは分かっていません。基本的にはほかの膠原病と同じように、遺伝素因と環境要因の2つのファクターが組み合わさって起こると考えられています。疾患感受性遺伝子(発症に関わる遺伝子)を持つ人は必ず発症するわけではないものの、持たない人より発症しやすいといわれています。環境要因についてはさまざまな報告がありますが、喫煙はリスク因子であることが知られています。
関節リウマチは全身疾患であり、関節の症状と関節外の症状の2つに分けられますが、関節の症状のみ現れる患者さんがほとんどです。関節リウマチの発症初期の症状として、関節の腫れや痛みが挙げられます。関節の周りを包み込んでいる滑膜が炎症を起こして増殖するため、紡錘状に腫れるのが特徴です。
関節リウマチの症状は滑膜がある全ての関節で起こる可能性がありますが、比較的起こりやすいのは手の指や足の指、手足の関節などです。手指の中でもPIP関節、MP関節が障害されます。指の先端にあるDIP関節は関節リウマチではなく、乾癬や脊椎関節炎などの病気で障害されることが多いです。
炎症が長期的に持続すると、関節の周りにある組織が緩くなり、それに伴って靱帯や腱の位置がずれて関節に変形が生じます。手の指で起こる代表的なものには“ボタンホール変形”“スワンネック変形”があります。また関節構造が破壊されるために、変形が起こることもあります。
関節の変形や破壊は発症後1~2年の間に急速に進行するといわれています。この時期を我々医師は“window of opportunity(治療の機会)”と呼んでおり、この発症初期にいかにしっかり治療するかが、患者さんの将来の関節の状態を決めるといわれています。関節の腫れや痛みが数日ではひかずに、数週間、数か月と続くようでしたら、早めに医療機関を受診してください。
血管炎や間質性肺疾患、皮膚の潰瘍など、関節外の症状を伴う患者さんは重症であると考えられ、日本では“悪性関節リウマチ”と定義されます。頻度は決して多くありませんが、関節リウマチの疾患活動性が非常に高い方、また血清学的検査でリウマトイド因子や抗CCP抗体の値が高い方が重症化するリスクが高いといわれます。
関節リウマチの治療は、薬物療法、非薬物療法、外科的療法の3つの柱があり、この3つの治療を使いこなすことが重要とされています。それに加えて患者さんご自身が病気への理解を深めることも大切で、これらを組み合わせながら治療が行われていくと考えるとよいでしょう。
薬物療法は3つのフェーズに分かれています。フェーズ1の治療で3~6か月以内に寛解*が達成できなければフェーズ2へ、さらにフェーズ2でも症状のコントロールが困難な患者さんはフェーズ3へという流れで治療を進めます。
フェーズ1:メトトレキサートを代表とする合成抗リウマチ薬
フェーズ2:生物学的製剤あるいはJAK阻害薬
フェーズ3:フェーズ2と異なる生物学的製剤あるいはJAK阻害薬
それぞれの薬の特徴は以下のとおりです。
合成抗リウマチ薬:免疫の異常を抑えて関節の炎症や活動性を抑えます。飲み薬として服用します。
生物学的製剤:関節に炎症を起こし破壊を進行させる“サイトカイン”という物質のはたらきや、サイトカインを産生する細胞のはたらきを抑えます。注射や点滴で投与する薬です。
JAK阻害薬:サイトカインによる刺激が細胞に伝わるときに必要な“JAK(ヤヌスキナーゼ)”という酵素を阻害する飲み薬です。生物学的製剤とほぼ同等かそれ以上の効果があるといわれています。
また、上記の薬と合わせてNSAIDs(消炎鎮痛薬)や副腎皮質ステロイドなどが補助的に使われます。
先述のように、関節の破壊は発症数年で進行するため、早期に病気をコントロールすることが重要です。そのため発症初期には特に頻回に受診いただき、必要に応じて薬の種類や量を調整しながら、寛解の達成と維持を目標に治療を進めていきます。
また上記の治療の流れは一般的な方法ですが、たとえば患者さんの肝機能、腎機能などの数値や、年齢、生活状況などによって適切な治療法は異なります。さまざまなことを加味したうえで、患者さん一人ひとりに合わせた治療法を話し合いながら決めていくことが大切です。
*寛解:症状がほとんど消失し、病気をコントロールできている状態のこと。
薬物療法をしていても関節の症状や機能障害が残る場合は、非薬物療法、外科的療法を併せて検討します。
リハビリテーションは痛みや腫れなどの軽減や筋力の維持、日常生活での関節への負担を減らすといった目的で行われます。理学療法、作業療法、補助具を使った療法などがあります。
症状が進行し、日常生活の動作が障害されるときは手術が選択肢になります。手術によって痛みが緩和されるか、できなかった動作ができるようになる可能性があるかなどを整形外科の医師と相談し、手術によって改善が期待できそうであれば、患者さんの状況に応じた方法を検討します。関節の破壊が進みすぎると手術の実施が難しくなることもあるため、手術可能なタイミングを逃さないことが重要です。なお、手術には人工関節置換術、関節(温存)形成術、関節固定術、滑膜切除術などがあります。
体重が増えると関節に負担がかかるため、気を付けるようにお伝えしています。関節リウマチの炎症があるときは体内の炎症により体力が消耗していることが多いですが、治療によって炎症が落ち着くことで、治療前と同じ食生活でも体重が増えてしまう場合があります。喫煙は先述のとおりリスク因子であることが報告されているため、喫煙している患者さんには禁煙していただくようお話しています。
関節リウマチの治療薬は免疫を抑制するはたらきがあるため、感染症への注意も必要です。感染症に関連するワクチンについては、関節リウマチの患者さんがワクチンを接種するべきかどうか現在も検討が続いていて、情報が常にアップデートされている状況です。主治医とよく相談されるのがよいと思います。
治療薬の副作用のリスクは薬によって異なります。長期にわたって服薬するものになりますので、妊娠・出産といったイベントやプレコンセプションケア(妊娠前からのケア)、年齢などを含め、当院では患者さんのさまざまな側面から全身をモニタリングするように心がけています。
現在、関節リウマチの治療方針は医療経済が考慮されています。比較的安価な合成抗リウマチ薬が最初の選択肢となり、少し高額な生物学的製剤やJAK阻害薬はその後の選択肢とするのが一般的です。ただし、関節の破壊をしっかり抑制できるのは生物学的製剤やJAK阻害薬です。また、合成抗リウマチ薬は効果が出るまで時間がかかるという問題があります。そのため、生物学的製剤やJAK阻害薬の価格が下がって、患者さんが使いやすい状況になることを期待しています。
たとえば、フェーズ2やフェーズ3で使っているJAK阻害薬をフェーズ1に使用できるようになると、その後に生物学的製剤をプレシジョンメディシン(精密医療)*として使っていくことが主流になるかもしれません。これは医療経済的にも成り立つ形なのではないかと思いますし、患者さんにとってもメリットが大きいと思います。
これまで膠原病の治療はステロイドで免疫を抑える必要があり、同時に副作用のリスクがありました。しかし生物学的製剤やJAK阻害薬などの新しい薬の開発によって、関節リウマチのみならず全ての膠原病における治療のターニングポイントを迎えています。ステロイドを使うことなく病気をコントロールすることができ、かつ関節の破壊が抑えられる治療を治療初期から導入できる時代が間もなくやって来るのではないかと思います。
*プレシジョンメディシン(精密医療):患者さんの体質や病気のタイプなどを細かく調べたうえで、一人ひとりに合った治療を行うこと。
藤田医科大学病院のある東海・中部地域には、膠原病を専門とする診療科を掲げている病院は多くありません。そのため、“地域における治療の要”という意識をもって診療を行っています。リウマチの専門医*の数も多くないため、当院の専門医が地域の医療機関に出向いて外来診療を行っています。そこで重症の患者さんがいらっしゃった場合には当院に紹介して通院していただき、必要な治療を集中的に行って状態が落ち着いたら、地域の医療機関に戻って治療を引き継いでいただく流れにしています。
*リウマチの専門医:日本リウマチ学会認定のリウマチ専門医を指す。以下、“専門医”とある場合はこれを指す。
関節リウマチを含む膠原病は専門の診療科だけで担当しているわけではありません。たとえば、関節リウマチは整形外科、ほかの膠原病では皮膚科や腎臓内科、呼吸器内科、神経内科、また総合診療科が担当する場合があります。そのため、他科やほかの医療機関の医師との連携も大切です。製薬会社の研究や学会、研究会などに協力することで直接つながりを作ったり、紹介状を介して患者さんを紹介いただいたりして地域のネットワークを作っています。
教育においても地域の医療機関と連携しながら、東海・中部地域の膠原病診療を盛り上げていけるように取り組んでいます。
膠原病の診療において、この地域は医師不足で教育の受け皿が少ないことが課題であり、膠原病診療に興味をもった若手医師が都市部に出ていってしまう現状があります。膠原病の領域に興味を持った医師が東海・中部地域にとどまり、優秀な医師を増やせるよう、魅力ある教育システムの構築に力を入れています。具体的には、地域の膠原病診療に携わっている病院と連携して専門医研修の研修プログラムを一体化し、どの病院で症例経験をしても研修プログラムとして認められる仕組みを作っています。
関節リウマチは早く発見して早く治療するほどダメージが少なく済む病気です。新しい薬の開発によって早期に治療を行えるようになり、患者さんの将来を変えることができる時代になっています。「調子が悪いな」「関節が変だな」と思ったら、1人で悩まずに病院に来ていただければと思います。
当院の外来のモットーは、“患者さんがご自宅に帰った後も、少しでも元気な気持ちで生活をしていただける外来”です。関節リウマチの病態だけを診るのではなく、一人ひとりの患者さんの生活などを踏まえて細かく配慮し、治療の方向性を一緒に決めるよう心がけています。病院に行くのはハードルがあると感じられる方はご家族と一緒でも大丈夫ですので、気になることがあれば我慢せずにぜひ受診していただければと思います。
藤田医科大学医学部 リウマチ・膠原病内科学講座 教授、藤田医科大学病院 リウマチ・膠原病内科 教授
藤田医科大学医学部 リウマチ・膠原病内科学講座 教授、藤田医科大学病院 リウマチ・膠原病内科 教授
日本内科学会 評議員・認定内科医・総合内科専門医日本リウマチ学会 評議員・リウマチ専門医・リウマチ指導医日本肺高血圧・肺循環学会 理事日本免疫学会 会員日本臨床免疫学会 会員日本炎症・再生医学会 会員The American Association of Immunologists(AAI) 会員American College of Rheumatology (ACR) 会員American Society of Hematology(ASH) 会員Clinical Immunology Society(CIS) 会員Federation of American Societies for Experimental Biology(FASEB) 会員
安岡 秀剛 先生の所属医療機関
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