
関節に痛みや腫れが生じる関節リウマチは長い間、一度発症すると改善が難しい病気と考えられていました。しかし、近年新たな治療薬が続々と登場し、早期に治療を開始すれば症状をコントロールし日常生活に支障なく過ごせることが期待できるようになりました。数多くの治療薬の中から適したものを選択するためには、どのような点が大切なのでしょうか。
今回は、水戸済生会総合病院 リウマチ・膠原病内科 主任部長の萩原 晋也先生に、関節リウマチ治療の選択のポイントについて伺いました。
関節リウマチとは、免疫の異常により関節に炎症が起こり痛みや腫れが生じる病気です。症状は主に手足の複数の関節に同時に現れ、一時的ではなくある程度長期間続くことが特徴です。
関節リウマチを含む自己免疫疾患は中年期以降の女性で多く発症します。しかし、近年は発症年齢が高齢化しており、以前は50~60歳代とされていた発症のピークが70歳前後になっているとの報告もあります。また、高齢発症の患者さんでは男性も多いことから、全体的に男性の比率が上がっているとも指摘されています。高齢発症の患者さんの症状や検査結果が典型的な関節リウマチの患者さんのそれと異なっていることなどを考えると、ある程度別の病気としてとらえていく必要があるのかもしれません。
関節リウマチの原因は不明といわれていますが、リスク因子としては遺伝的な要因と環境要因の2つがあると考えられています。
まず、生まれつき関節リウマチになりやすい遺伝子を持っている場合は発症する可能性が高まります。一方で、遺伝的な要因があっても必ずしも関節リウマチを発症するわけではありません。また、環境要因として代表的なものには喫煙と歯周病があり、この2つは関節リウマチの発症に関わっているといわれています。すなわち、関節リウマチは遺伝的な要因にさまざまな環境要因が関わり合って発症すると考えられています。
関節リウマチの診断には、米国リウマチ学会と欧州リウマチ学会が共同で作成した“2010ACR/EULAR関節リウマチ分類基準”が重要な目安になります。すなわち、身体所見、血液検査の所見、病気の経過を参考に、関節リウマチの診断基準を満たしているか確認していくというプロセスです。しかし、関節リウマチの方が必ずしも診断基準を満たすわけではありません。むしろ専門外来の医師に求められているのは、そのような典型的ではない患者さんをどのように診断し治療していくかということだと考えています。
私は関節リウマチ疑いで外来にいらした患者さんには、検査は次に示す3つの目的で行うと説明しています。
具体的には、血液検査では炎症反応と自己抗体の有無を確認し、尿検査も行います。
画像検査としては、X線検査、関節超音波検査、造影MRI検査などがあります。妊娠中の場合などを除き、基本的にはまず全ての方にX線検査を行います。関節リウマチの症状が現れやすい手のほか、症状がある場合には足や膝、肘などの関節も撮影します。また、合併症と治療リスクの評価のために胸部X線検査も行います。
関節超音波検査や造影MRI検査では、X線検査よりも多くの情報を得ることができます。たとえば関節超音波検査では、関節内の滑膜に生じている炎症の様子をリアルタイムに確認することができます。当院では臨床検査技師が検査室で検査を行って滑膜炎の症状をスコア化するほか、医師が診察室で患者さんの訴えに応じて検査を行うこともあります。患者さんと「痛い部位に確かに炎症が起こっている」、「炎症はないので別の原因が考えられる」などのようにリアルタイムに情報共有できるのは大変有用だと感じます。
かねてより関節リウマチの主な治療は、薬物療法、リハビリテーション、手術、基礎療法の4本柱といわれてきました。現在もそれは変わっていませんが、近年の薬物療法の進歩は目覚ましく、それぞれの柱の太さは大きく変化していると感じます。
関節リウマチの薬物療法は過去20数年間で目覚ましい進歩を遂げました。大きな役割を果たしているのはアンカードラッグ*であるメトトレキサート、そして分子標的治療薬です。現在では多種多様な薬が使用可能ですが、それらをどのような順序でどのように使用していくかは、日本リウマチ学会から発行されている“関節リウマチ診療ガイドライン”を参考にします。多くの施設ではこれに沿って治療を行っているかと思いますが、当院でも同様です。
“治療アルゴリズム”は3段階になっています。関節リウマチと診断された場合、最初に候補となるのはメトトレキサートです。何らかの理由でメトトレキサートを使用できない、あるいは効果が不十分な方には分子標的治療薬を投与します。それでも症状が改善しない方には、異なる種類の分子標的治療薬の使用を検討します。
*アンカードラッグ:“アンカー”とは中心的な役割を果たしているという意味。治療において重要や役割を果たし、他の薬剤と組み合わせて使用する基本となる薬。
薬物療法の進歩に伴い、発症後早期に適切な治療を行うことで、日常生活に支障をきたすほど関節の機能が低下するケースはだいぶ少なくなりました。そのため、関節の機能低下を補う目的で行うリハビリテーションや手術の比率は以前よりも減っているといえるでしょう。当院ではリウマチ・膠原病内科と整形外科が密接に連携してリウマチ治療を行っているため、これらが必要となった患者さんにはスムーズにご案内できる点は強みだと感じています。
基礎療法としては、改善できる生活習慣がある方は、その見直しを徹底していただきます。喫煙は発症リスクであり、治療効果にも影響することが分かっていますので、禁煙は重要です。また、歯周病対策として定期的に歯科検診に行っていただくこともおすすめしています。
関節リウマチの症状を抑え悪化を防ぐためには、やはり継続が大切です。私を含め関節リウマチの診療に携わる内科医は、患者さんに十分な情報を提供したうえで、適切な薬を選択し処方箋を書きます。しかし、実際に薬局で薬を受け取って服用したり、自己注射が必要な薬を投与したりするのは患者さんご本人です。しっかりと通院を続けること、そして治療を継続いただくことの重要性は繰り返しお伝えしたいと思います。
また、関節リウマチの合併症を見逃さないように、定期受診の中で行う検査を補うという意味でも、年に1回程度は健康診断を受けていただくことをおすすめしています。
私が関節リウマチの診療を行ううえで一番大切にしているのは、患者さんと対話を重ねていくことです。
当院では幅広い選択肢の中から、それぞれの患者さんに合った治療法を提示することができます。しかし、効果のみを重視して決定した治療方針は、もともと患者さんが抱いていた希望に沿っていないことも多くあります。たとえ診断された病名が同じ“関節リウマチ”であっても、病状はさまざまですし、患者さんの年齢やほかにある病気、社会的背景なども十分に考慮し、どの治療が適切なのかを考えていく必要があります。患者さんに十分な情報を提供したうえで、治療の方針、そして具体的に使用していく薬の種類や投与方法を、患者さんと一緒に決めていくように心がけています。
当院は総合病院ですので、地域のニーズに幅広く応えることが求められていると考えています。通常、関節リウマチを含む膠原病は、病気そのものが理由で緊急の対応が必要になるケースは多くありません。しかし、関節リウマチを治療中の患者さんが、別の病気で緊急に対応が必要になる、あるいは緊急ではないが手術をすることになり入院するといった事態はあり得ます。そのような場合に、ほかの診療科の医師と連携しながら、必要に応じて適切な関節リウマチの治療を提供していく必要があるのだと思っています。
また、今後は地域の先生方との連携にも力を入れていきたいと考えています。関節リウマチの診療はリウマチ科、整形外科のいずれでも担い得るのですが、特に比較的医師の数が多い整形外科との関係づくりを強化していきたいと思っています。地域の整形外科クリニックの先生方と一緒に勉強会を企画するなどして、関節リウマチ診療への理解を深めていただいています。最近では「患者さんのご紹介、受け入れが可能です」とおっしゃってくださる先生も増えており、手応えを感じているところです。
関節リウマチの治療に使える薬は近年とても充実してきました。新薬への期待は抱きつつも、今ある薬をどのように適切に使用していくかが求められているのだと考えています。分子標的治療薬には多くの種類がありますが、ある特定の患者さんにどの薬が有効なのか、投与する前に判断できる方法はまだありません。今後さらに研究が進み明らかになっていくことを期待しています。
また、患者さんと対話を重ねながら、患者さんにとって適切な治療法を決定していく“Shared Decision Making(共有意思決定)”も大切だと考えています。よく効く治療が、必ずしも患者さんが希望する治療法であるとは限りません。分子標的治療薬は自己注射が必要な薬が多いのですが、自己注射ができるのかできないのか、あるいはやりたいのかやりたくないのかは重要なポイントです。また、高額な薬が多いため、経済的な背景を考慮することも大切です。さまざまな要素を踏まえたうえで、一人ひとりの患者さんに適切な治療法を提案していきたいと思っています。
体の不調の中でも関節の痛みを訴える方は多くいらっしゃいます。痛みの原因はさまざまですが、中には関節リウマチのように治療しないと病状が進行してしまう病気も含まれています。関節痛はよくある症状かもしれませんが、数週間続くなど「関節リウマチかもしれない」と不安に思った際は、我慢せず早めに一度リウマチ診療を専門とする医師を受診してみてください。
水戸済生会総合病院 リウマチ・膠原病内科 主任部長
萩原 晋也 先生の所属医療機関
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