関節リウマチは、全身の関節をはじめ、さまざまな臓器に障害をもたらす可能性のある病気です。大阪リウマチ・膠原病クリニック 院長の西本 憲弘先生は、患者さんの話をよく聞き、体全体をくまなく診ることを大切にされています。今回は西本先生に、関節リウマチの症状や診断方法、治療法、診療で大切にされていることなどについてお話を伺いました。
関節リウマチは、本来は自分の体を守るためにはたらく“免疫”が、誤って自分の体を攻撃することで起こる自己免疫疾患の1つです。関節リウマチで攻撃のターゲットとなるのは主に関節です。関節内に炎症が生じることで、関節のまわりの“滑膜”という薄い膜が増殖して骨を侵食していき、適切な治療を受けなければ関節の変形をきたします。
20歳代でも起こり得る病気で、60歳ぐらいまでの働き盛りの世代では患者さんの8割が女性です。一方、60歳代以降の高齢発症では男女差が小さくなっています。そのため、発症にはホルモンバランスなども影響していると考えられています。
関節リウマチの根本的な原因は明らかになっていませんが、遺伝的な素因に環境因子が加わって発症するといわれています。
環境因子として、喫煙や歯周病、妊娠・出産、ストレスなどが発症のきっかけになり得ます。また、詳しく問診していると、関節リウマチを発症する前にけがをしたという方もいます。それが関節リウマチにつながる理由は明確には分かりませんが、外傷を修復する過程で起こる免疫反応が関与しているのかもしれないと考えています。
遺伝に関しては、関節リウマチと診断された方では血縁者にリウマチ性疾患*があったというケースが多いものの、それが発症に大きな影響を与えているわけではありません。たとえご自身が関節リウマチを発症したとしても、お子さんも発症する可能性はそれほど高くないでしょう。
*リウマチ性疾患:関節や筋肉、骨などに炎症が起こる病気の総称。関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン病などが該当する。
関節リウマチでよくみられる症状は、関節の腫れや痛み、朝の手のこわばりです。ただし、ほかの膠原病でも同じような症状が現れる可能性があります。関節リウマチでは手足の指や手首など小さな関節に症状が出やすく、手の指で炎症が起こりやすいのは第2関節と付け根の関節です。もし第1関節に症状があれば、変形性指関節症や乾癬性関節炎、末梢性脊椎関節炎など、別の病気を疑います。また、関節リウマチでは肩や肘、股関節、膝など大きな関節から発症する患者さんは比較的少ないため、この場合もほかの病気を視野に入れ慎重に診断していきます。
関節リウマチでは関節の症状が中心ですが、強膜炎、ぶどう膜炎といった目の症状や皮膚の症状、間質性肺疾患や気管支拡張症といった肺の病変など、全身にさまざまな症状が生じることもあります。そのほか、ドライアイやドライマウスをきたすシェーグレン病を合併する方も少なからずいらっしゃいます。
関節リウマチでは、触診や問診、血液検査、画像検査などの結果に基づく総合的な診断が求められます。同時に、内臓の機能を調べて薬の投与に制限がないかどうかを確認するなど、薬物療法に向けた準備も大切です。また薬物療法開始後も、治療効果や副作用をモニタリングするため定期的に検査を行います。
関節リウマチを疑って受診された方には、まずは診察で関節の腫れの状態を観察します。痛みの感じ方には個人差があるため、客観的な指標として腫れを診ることが重要です。当院では、患者さんが受診されると、毎回71関節の腫れや痛みの有無を確かめています。関節リウマチは、熱感や赤みとともに紡錘状(中央が太く端に向かって細くなる形状)の腫れが生じるのが特徴です。もしも全体的にむくんだように腫れていたら、末梢性脊椎関節炎など別の病気を疑います。
中には手指には腫れがなく足の指だけが腫れている方もいますが、足の腫れはご自身では気付きにくいようです。触診して初めて発覚する腫れもあるため、全身の関節のチェックは欠かせません。その際、腫れている部分に圧痛(圧力がかかると生じる痛み)があるかどうかも確認します。
そのほか、当院では関節の可動域(動かせる範囲)や歩行速度を確かめたり、指が腫れていれば握力を測定したりする場合もあります。患者さんが診察室に入ってこられるときから足の運び方を観察するなど、あらゆる角度から状態を把握しようと努めています。
初診時の血液検査では、炎症を診るCRPや血沈(赤血球沈降速度)、自己抗体であるリウマトイド因子*や抗CCP抗体**、関節破壊に関与するMMP-3の数値などを調べます。このうちMMP-3は薬物療法開始後の関節破壊の進行リスクのモニタリングにおいて重要な指標となります。
画像検査としては、X線検査で骨びらんと呼ばれる骨の欠損や、軟骨の減少による裂隙(関節のすき間)の狭小など、関節破壊の状況を確認します。また、超音波検査で腫れを引き起こす炎症の様子を観察する場合もあります。
*リウマトイド因子:自己抗体(自分の体の組織を異物と誤認して攻撃する抗体)の1つ。関節リウマチの7~8割で陽性になるが、ほかの病気や健康な人でも陽性になり得る。
**抗CCP抗体:自己抗体の1つで関節リウマチの7~8割で陽性になる。関節リウマチに特異性が高く、関節症状があって抗CCP抗体が陽性なら関節リウマチの可能性が高いとされる。
初期には鑑別診断、特にほかの膠原病と見分けることが大切です。当院では、抗核抗体検査という膠原病のスクリーニング検査を初回に必ず行っています。また、鑑別診断では皮膚の観察も非常に重要で、乾燥所見やレイノー現象*を診て病名を絞り込んでいきます。目や口内に乾燥があればシェーグレン病を疑い、抗SS-A抗体、抗SS-B抗体といったこの病気に特徴的な自己抗体の有無を調べます。涙の分泌量や角膜の状態などを確認するため、眼科医による診察も必要です。
そのほか、喫煙歴がある方や高齢の方には、肺病変の有無を確かめるためCT検査を受けていただくこともあります。
*レイノー現象:寒くなると血管の収縮によって皮膚が白色から紫色、赤色へと変化して見える症状。
関節リウマチの治療法には基礎療法、薬物療法、リハビリテーション、手術があり、これらを組み合わせて治療を行います。
まずは基礎療法として、病気や治療への理解を深め、よい状態を保つために生活習慣改善などさまざまな工夫をすることが大切です。当院では、患者さんに病気や薬、起こり得る合併症について十分に理解いただくために、丁寧な説明に努めています。また、関節リウマチでは時間とともに症状が変化すること、関節外に病変が現れたりほかの膠原病を合併したりする可能性があることをお伝えして、定期的な検査でその兆候を捉えることの重要性を認識いただいています。
加えて、関節リウマチの症状を悪化させる要因を取り除くためのはたらきかけも大切です。喫煙や歯周病は関節リウマチの発症に関与しているだけでなく、症状の悪化にも影響を及ぼします。関節リウマチと診断された方、関節リウマチを疑って受診された方には、禁煙の必要性をお伝えするとともに、歯周病のチェックを受けているかどうかお聞きしています。
また、関節への負荷のかけすぎや精神的なストレスによって症状が悪化するケースもあります。年末の大掃除や引っ越しなどは心身にかかる負担が大きいため、頑張りすぎないようにしましょう。そのほか、関節の痛みや腫れは気圧と関連することが分かっています。低気圧になると腫れや痛みが悪化しやすい方などは、ご自身の症状に影響を及ぼす要因を把握しておくと対処しやすくなります。
関節リウマチの薬物療法では、従来からあった合成抗リウマチ薬、生物学的製剤、比較的新しい合成抗リウマチ薬であるJAK阻害薬のほか、補助的にステロイドなどを使うことがあります。
多くの患者さんが初めに使うのは、メトトレキサートという週1回の内服薬です。薬についてよくご理解いただいたうえで、血液検査などで効果や副作用を定期的にチェックしながら使用量を増減していきます。血液検査で確認するのは炎症反応や肝機能、腎機能のほか、MCVという赤血球の大きさの指標です。治療前よりも赤血球の粒が大きくなっていればメトトレキサートの効果が出ていると判断できます。一方、肝機能異常や腎機能に低下がみられれば薬の量を減らします。なお、副作用を予防するため葉酸を併用します。
メトトレキサートは効果が現れるまでに時間がかかるため、量を調節しながら2~3か月継続して使用します。当院では症状が治まった“寛解”といえる状態を目指し、可能な限り最大量の週16mgまで増やしています。ただし、この薬を服用していると感染症にかかりやすくなるため、日頃から注意が必要です。なお、近年は、メトトレキサートの皮下注射も関節リウマチの治療に使われるようになり、吐き気などの副作用は減少しました。
また、高齢で腎機能が低下している方や妊娠を希望されている方など、メトトレキサートが使えないケースではほかの抗リウマチ薬を選択します。
抗リウマチ薬で十分な効果を得られなかったとき、次の選択肢となるのが生物学的製剤とJAK阻害薬です。いずれも関節リウマチによる腫れや痛みの改善のみならず、関節破壊の進行を抑制する高い効果が期待でき、関節リウマチの治療において有効な武器となり得ます。次のステップでこの2種類の薬が控えているからこそ、初めに安心してメトトレキサートを使えるといってもよいでしょう。ただし、いずれもメトトレキサートと同様、常に感染症への備えが求められます。
炎症があまりにも強く日常生活が困難な場合など、ステロイドを併用するケースもありますが、短期間の使用にとどめます。当院では、ステロイドが必要な場合は基本的に筋肉注射のステロイドを1回だけ行っていますが、筋肉注射で十分な効果が得られない場合は内服のステロイドを選択して徐々に減薬し、3か月以内の使用にとどめるようにしています。
リハビリテーションでは、関節を守るため負担をかけすぎないようアドバイスしています。たとえば、ペットボトルのキャップを開けるときにはペットボトルオープナーを使うとよいでしょう。また、こわばりを和らげるため指や手首の関節をゆっくりと動かし、ほぐすのも大切なリハビリテーションです。足の関節の変形が進むとアーチ(土踏まず)が下がってくるため、足指じゃんけんや足タオルギャザー(足の指でタオルをつかむ動作)などでアーチを鍛えるのもおすすめです。さらに、関節の炎症がコントロールできて腫れが引いてきたら、筋力の維持・向上を目的としたトレーニングにも取り組んでいただきます。
なお、関節の変形が進んでおり、手術によって機能回復が見込めるときには人工関節置換術などの手術を検討する場合もあります。
当院では、治療の初期段階で患者さんに「関節リウマチの症状が改善したら何をしたいですか?」とお聞きしています。その答えは旅行、スポーツ、登山などさまざまです。目標を明確にして薬物療法に取り組んでいただき、その都度注意すべきポイントをお伝えしながら、お一人おひとりのやりたいことの実現を後押しすることを大切にしています。
当院ではお一人に十分な時間をとって診察し、必要な検査を行って全身状態の把握に努めています。その過程で、関節リウマチ以外の病気が早い段階で見つかるケースも少なくありません。もし、ほかの病気が疑われた場合には、私自身のこれまで築いてきたネットワークを生かして、呼吸器や循環器、甲状腺など各診療科の医師に紹介しています。これまでに肺がん、甲状腺がん、乳がん、狭心症などの診断、早期治療につなげてきました。
また、妊娠・出産を希望する女性の患者さんもいらっしゃいます。妊娠時でも使用できる薬で炎症のコントロールに取り組みながら妊娠を目指し、妊娠してからは胎児への影響を考慮しつつ薬物療法を継続し、無事に出産されるまで、産婦人科医師の協力の下サポートしています。
関節リウマチを疑う症状があれば、早期に受診して診断を受け、ご自身のやりたいことができるよう治療に取り組んでいただきたいです。
私が診ている患者さんの中には、症状をコントロールしながらゴルフを続けている方、ご夫婦で旅行を楽しんでいる方、海外で登山に挑戦される方もいます。お話を聞くと、趣味に夢中になっている間は症状が治まっていることもあるようです。関節リウマチの治療においては、楽しい時間を過ごすことも大切なのでしょう。医師に相談しながら継続的な治療で病気をコントロールし、自分らしく人生を楽しんでください。
西本 憲弘 先生の所属医療機関
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