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見て、触って、聞いて、患者さんに寄り添う関節リウマチの診療

見て、触って、聞いて、患者さんに寄り添う関節リウマチの診療
寺島 康浩 先生

はくほう会加古川病院 整形外科 診療部長

寺島 康浩 先生

目次
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関節リウマチは、関節に腫れや痛みが現れ、日常生活に支障をきたす恐れがある病気です。そのため、早期発見・早期治療が重要になります。また、関節リウマチは長期間にわたって治療が必要な病気であるため、信頼できる医師とともに治療を継続していくことが大切です。

今回は、はくほう会加古川病院 整形外科ならびにリウマチ科の診療部長を務める寺島 康浩(てらしま やすひろ)先生に、関節リウマチの症状や治療、人工関節手術後の痛みを軽減するための取り組みなどについてお話を伺いました。

関節リウマチは、免疫の異常によって関節に炎症が起こり、腫れや痛みが生じる病気です。放置してしまうと骨や軟骨が壊れてしまうため、そうなる前に薬物療法を行う必要があります。

男女比は1:4であり女性に多い病気です。40~50歳代が発症のピークとなっていますが、それよりも若い方が発症する場合もありますし、近年は高齢で発症するケースも増えています。そのため、お子さんから高齢の方まで幅広い年齢で発症する可能性がある病気と思ってよいでしょう。

関節リウマチの発症要因は明らかにはなっていません。近年では、遺伝的要因と環境要因(歯周病喫煙・腸内細菌など)が重なって発症するといわれています。

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初期には、朝に手指や手首がこわばったり、腫れたりすることが多いでしょう。見落としやすい箇所ですが、足の指の付け根をはじめとする足関節も早期に腫れやこわばりをきたすため注意が必要です。また、関節の炎症による熱っぽさや倦怠感を訴える方もいます。

画像提供:PIXTA/加工:メディカルノート
画像提供:PIXTA/加工:メディカルノート

手指や足関節の外側にある骨に症状をきたすことが多いでしょう。具体的には足の小指の付け根にある関節の骨、手関節の尺骨(しゃっこつ)(手首から肘の間にある小指側の骨)に早い段階で破壊が起こり始める印象があります。また、うつ症状が出る患者さんもいます。

症状には個人差がありますが、手足の指または手関節などに腫れや痛みがあり、それらが4週間ほど続くのであれば、関節リウマチを疑って早めに病院を受診しましょう。

関節リウマチは診断の確定が難しいこともありますが、初期の関節リウマチを見逃さず、適切な治療を早期に開始することが重要です。当院には関節リウマチを疑って受診される患者さんが1か月間に約15人います*が、これらの患者さんに対して血液検査で複数の項目を調べることで、早期に関節リウマチの確定診断につなげています。

*2023年3月~2023年6月のデータより

関節リウマチの治療の中心となるのは薬物療法です。炎症が長引くと関節の周りが線維化を起こして固まってしまうため、荷重に耐えられなくなった関節はどんどん変形して破壊されてしまいます。これを防ぐために、薬物療法と並行してリハビリテーションを早期から行っていく必要があります。また、基礎療法(日常生活における注意点)に取り組むことも重要といえます。これらの治療を行っても変形や破壊が進んでしまった関節に対しては、機能を回復させるための手術が検討されます。

以下では、4つの治療選択肢について詳しく説明します。

基本的には『関節リウマチ診療ガイドライン2020』に即して治療を進めていくことになります。したがって、まずは第1選択薬であるメトトレキサートを使用します。ただし、腎機能障害や慢性肝疾患があるなどの理由でメトトレキサートを使えない場合には、それ以外の抗リウマチ薬を用いて治療を進めていきます。

それでも治療効果が出ない場合には、生物学的製剤、またはJAK阻害薬を使用します。生物学的製剤とは遺伝子組み換え技術などを用いて作られた炎症の原因物質(サイトカイン)を抑える薬で、皮下注射または点滴で投与します。一方、JAK阻害薬は細胞内のJAKという酵素のはたらきを阻害して、サイトカインを抑える内服薬です。ただし、JAK阻害薬を使用するとヘルペスウイルスなどのウイルスを再活性化させ、皮膚に症状が出てしまうこともあります。前述の診療ガイドラインにおいても⻑期安全性、医療経済の観点から、生物学的製剤を優先するとされています。JAK阻害薬を使用する場合には、当院では事前にワクチンを接種して副作用を予防しながら治療を行っていきます。

【薬の選択と変更のポイント】
安全性や治療効果などを考慮しながら、一人ひとりの患者さんに適切な薬を選択していくことが大切です。また、妊娠を希望されている方に対しては、妊娠中も使用することができる薬に変更するなどの対応を行っています。

なお、診療ガイドラインでは薬を使用してから3か月経過しても効果がみられない場合に薬を変更するとされていますが、それでは骨の破壊が進んでしまう恐れがあります。そのため、なるべく早い段階で症状を落ち着かせることを重視し、当院では2か月同じ治療を続けても効果がみられない場合には、患者さんと相談しながら薬を変えていくようにしています。

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リハビリテーションを早期から開始し、痛みの軽減や関節の変形が進行するのを防ぐことが重要です。当院では、作業療法士の指導の下で手足の指を広げて閉じる動きや膝関節(しつかんせつ)の曲げ伸ばし、肩の可動域を広げる運動などを行っています。患者さんの状態に合わせて無理のない範囲で体を動かすことができるように適宜器具を用いながら指導をしています。

関節リウマチの治療においては、食事や生活習慣を見直すことも大切です。当院では、以下のような指導を行い、患者さんを細やかにサポートしています。

  • 禁煙
  • 歯磨き指導
  • 食事指導(納豆などの発酵食品を積極的に食べることなど)
  • 関節リウマチの方に合う靴のアドバイス

薬物療法の進歩によって手術が必要な患者さんは減っているものの、症状が進行して関節の変形や曲がったまま伸びないなどの症状がある場合には手術を検討します。当院では、滑膜切除術や関節形成術、人工関節手術を行っており、関節の場所や安全性などを考慮して術式を決めています。

  • 滑膜切除術……痛みや骨破壊の元になる炎症を起こした滑膜を切除する手術
  • 関節形成術……骨の突起を整え、関節包(関節を覆う膜)を構築する関節を作る手術で、関節リウマチの炎症による関節の変形や破壊が少ない場合に選択される
  • 人工関節手術……関節を取り除き、人工関節に置き換える手術。重度の関節破壊がみられる場合に行われる

ここでは、関節リウマチの重症例に対して行われる人工関節手術を中心に、当院における関節リウマチ手術のポイントと注意すべき点についてお話しします。

1.感染を起こさないこと

感染予防のためには、手術時間の短縮が有効だと考えています。その一環として、当院では事前に手術に関わるスタッフ全員の立ち位置であったり、使用する機械や道具の受け渡しのタイミングであったりを細かく決めて、何度もシミュレーションを行って、無駄な動作をなくし、手術時間を短くできるように努めています。

2.アライメント(配列)を整えること

人工関節の耐用年数を長くするためには、骨のアライメントを整えることが重要です。当院では、手術中に正確な位置を知らせるナビゲーションシステムの活用などによって、正確なアライメントにつなげています。

3.骨を強化すること

骨を強化することよって、良好な術後経過が期待できます。当院では、骨密度を高める薬を術前から術後まで使用しています。

人工関節手術において注意すべき代表的な合併症は、肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)心疾患、感染症の3つでしょう。これらの合併症のリスクを減らすために、当院では手術時間をなるべく短縮するよう心がけています。

なお、肘関節は負荷がかかりやすく感染が起こりやすいので、当院では肘の人工関節手術はできるだけ回避するようにしています。

人工関節手術をした後は、早期に歩き始める必要があります。しかし、手術直後は痛みがあり歩行が難しい方もいるため、当院の整形外科では痛みを軽減するために以下のような処置を行っています。

人工関節手術の際には、ほぼ全症例に対し、主治医が手術前に超音波エコーを用いて神経ブロック*を行って疼痛管理(とうつうかんり)を、手術後には持続大腿神経(じぞくだいたいしんけい)ブロック**を行って手術直後の痛みを和らげる工夫をしています。

*神経ブロック:痛みを感じる大腿神経や坐骨神経などの周囲に局所麻酔をして、一時的に痛みを軽減させる方法。
**持続大腿神経ブロック:超音波を用いて大腿神経の先端に細いチューブを留置し、時間の経過とともに局所麻酔が流れるようにして疼痛管理をする方法。

当院では、股関節(こかんせつ)の人工関節手術であれば1週間、膝関節の人工関節手術であれば2週間で退院できる場合が多いでしょう。退院後、初回は6週間ほどで受診していただき、その後は3か月後に1回、6か月に1回となり、症状が落ち着いた患者さんの場合は1年に1回の受診になります。

手術後の痛みを懸念されてなかなか手術に踏み切れずにいる方は、一度当院にご相談いただければ幸いです。

治療薬の投与経路についての検討が進むことを期待しています。その結果、生物学的製剤やJAK阻害薬などの薬剤を症状のある関節に局所的に投与し、効果発現できるようになれば、薬剤の効果をさらに高められるかもしれません。加えて、骨を強化する治療を行うことで症状の改善につなげていけたらと考えています。

関節リウマチの診察は患者さんが診察室に入られる前の待合室から始まると考えています。待合室での患者さんの状態、入室時や退室時の関節の動きや歩く姿を見たり、関節に直接触れたりすることで痛みや腫れといった症状について、ある程度把握することができます。そして、患者さんの話をしっかりと聞いて、患者さんとともに治療に取り組むことを重視しています。

今までにご指導いただいた先輩、恩師の先生方の教えに基づき、しっかりと見て、触って、聞いて、患者さんの症状や悩みに気付くことができる医師でありたいと思い、日々診療を行っています。

関節リウマチは、早期に発見して適切な治療を行うことが重要になります。関節の腫れや痛みで悩んでいる場合は、できるだけ早く関節リウマチを専門としている膠原病内科(こうげんびょうないか)や整形外科などを受診しましょう。

また、関節リウマチは長期間にわたって治療が必要な病気ですから、信頼できる医師に出会えたならば、その医師と長いお付き合いをしていただきたいと思います。関節リウマチの症状でつらい思いをしている患者さんの悩みを少しでも減らし、元気に長生きしていただきたいと心から願っています。

提供:大正製薬株式会社
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    寺島 康浩 先生

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