関節リウマチは関節の滑膜に生じる持続的な炎症によって、関節の腫れや痛み、こわばりなどの症状を主体とする自己免疫性疾患です。関節リウマチは全身の臓器にも影響を及ぼすことがあり、そのなかでも間質性肺疾患は命に直接影響することがあるため注意が必要です。
本記事では、慶應義塾大学医学部 リウマチ・膠原病内科 常任理事・教授/日本リウマチ学会理事長 竹内 勤先生に、関節リウマチやそれに伴う間質性肺疾患についてお話を伺いました。
関節リウマチとは、関節の中にある滑膜が持続的に炎症することによって、関節やその周囲の組織が破壊されてしまう自己免疫性疾患*です。日本における関節リウマチの有病率は人口の約0.5〜1%で、男性よりもやや女性に多いとされています。
代表的な症状は、関節の痛み、こわばり、腫れです。こわばりとは思うように関節がスムーズに動かないことで、朝に起こりやすいことが特徴です。
関節リウマチの発症原因は明らかではありませんが、遺伝的・環境的な要因が発症に深く関与していることが分かっています。遺伝的要因としては、HLA-DR4と関連した遺伝子(シェアード・エピトープ)が関節リウマチの発症リスクを高めるといわれています。また、環境的要因には喫煙や歯周病、慢性の呼吸器感染症などがあり、近年は腸内細菌叢も発症に関わっていることが分かっています。
*自己免疫性疾患:自分の免疫システムが誤って自分自身の正常な細胞を攻撃してしまう病気
関節リウマチの症状は関節だけでなく、全身の臓器にも現れることがあります。その1つが、血管の壁に炎症が生じる血管炎です。血管炎が生じると、血管が詰まって血液の流れが悪くなります。その結果、皮膚に潰瘍が生じたり、末梢神経障害を引き起こしたりします。末梢神経障害が生じると、手足が手袋をはめているような感覚になって、しびれたり温度を感じにくくなったりします。
また、後述する間質性肺疾患も関節リウマチに伴って起こることがあり、生命予後に直接的に影響することがあるため注意が必要です。
そのほか、きちんと食事を取っていても体重が減ってしまう、微熱が続く、体がだるい、貧血があるなどの全身症状を伴うことも多くあります。
関節性肺疾患とは、肺胞*の壁(間質)に炎症や損傷が起きる病気です。関節リウマチに伴う間質性肺疾患にはいくつかのパターンがありますが、もっとも多く見られるのがUIP(usual interstitial pneumonia:通常型間質性肺炎)です。UIPは時間をかけて少しずつ進行していくのが大きな特徴で、発症初期に症状を感じることはあまりありません。
また、UIPに限らず間質性肺疾患では、炎症が長期的に持続することによって肺が硬くなる“線維化”が起こります。この状態になると、肺胞で酸素と二酸化炭素のガス交換を正常に行うことができなくなり、息切れや空咳(痰が絡まない咳)などの症状が現れます。
間質性肺疾患を発症しやすい方の特徴として、男性であること、喫煙歴があること、元々何らかの呼吸器疾患があることなどが挙げられます。また女性でも多く見られるのが、気管支拡張症を持っている場合です。気管支拡張症があると繰り返し気道感染症を起こしやすいため、これによって間質性肺疾患を併発してしまうことがあります。
*肺胞:肺の中で酸素と二酸化炭素のガス交換を行っている袋状の組織
間質性肺疾患は基本的にゆっくりと進行していきますが、突然急速なスピードで病態が悪化することがあります。これを急性増悪といいます。
急性増悪が起こるきっかけは患者さんによってさまざまですが、大きな要因として感染症が挙げられます。これは呼吸器に生じる感染症だけではなく、全身に起こるあらゆる感染症がリスクとなります。
また、関節リウマチでは関節に生じた炎症が全身に影響を与えることから、原疾患の症状が悪化したときに間質性肺疾患の急性増悪が起こりやすい特徴があるため、原疾患のコントロールが非常に重要です。
そのほか、空気中の小さな土ぼこりや金属の粉・鉱物などを長年にわたり大量に吸い込むことで起こるじん肺も急性増悪のリスク因子とされています。また、原疾患の関節リウマチの治療で使用される薬剤の副作用として間質性肺疾患が起こる可能性があることから、もともと間質性肺疾患がある場合にはそのような薬剤によって急性増悪を引き起こす場合があります。
関節リウマチに伴う間質性肺疾患が診断されるきっかけの1つが、血液検査です。通常、関節リウマチの患者さんは定期的な通院で血液検査を行いますが、その際に関節の症状は良好にもかかわらず炎症反応が下がりきらない場合や、LDHやKL-6といった肺に何らかの異常がある際に上昇する数値が高い場合には間質性肺疾患を疑います。
また、患者さんが何らかの呼吸器症状を訴えた場合にも間質性肺疾患を疑い、胸部X線検査はもちろん、場合によってはCT検査で詳しく調べます。
また、症状が見られなくても、先述したような間質性肺疾患を引き起こす可能性がある薬剤を治療に使用する場合、定期的胸部X線検査を行い早期発見に努めます。
関節リウマチの基本的な治療は、関節破壊を抑えて生活動作を正常に保つための薬物治療です。もっとも基本となる第一選択薬が、抗リウマチ薬です。抗リウマチ薬の服用開始から3〜6か月以内に効果が見られない場合には、それに加えて生物学的製剤や低分子化合物(JAK阻害剤など)を併用します。
関節リウマチの薬物治療で注意すべき点は、抗リウマチ薬の副作用として間質性肺疾患を引き起こす恐れがあることです。間質性肺疾患を発症した場合には、抗リウマチ薬は一時中断しなければなりません。しかしながら、それよってリウマチの炎症が悪化すれば、間質性肺疾患も悪化してしまいます。その場合には、間質性肺疾患の進行抑制を優先させつつも、リウマチの炎症も抑える治療を行います。このように、両者を天秤にかけるようにして慎重に治療を進めていくことが重要です。
また、肺の線維化が進行する間質性肺疾患に対しては、肺の炎症や障害を抑える、あるいは肺がだんだん硬くなって、呼吸機能が低下していくことを抑制するために、さまざまな薬物療法がおこなわれます。
間質性肺疾患は発症すると命に関わるため、日頃から予防への意識を強く持つことがとても大切です。関節リウマチの患者さんが間質性肺疾患を合併しないために留意すべきは、“一に感染症、二に感染症、三に感染症”といわれるほど、感染症への対策が非常に重要です。
特に間質性肺疾患は鼻や口の感染症と密接に関係しているため、副鼻腔炎や歯周病、歯肉炎などには注意するようにしましょう。たとえば、鼻の調子が少しでも悪いと感じたら、すぐに主治医に相談することが大切です。
そのほか、膀胱炎、婦人科系の感染症、肛門周囲膿瘍*など、一見間質性肺疾患の発症とは関係ないように思われる病気も間質性肺疾患の引き金になることがあるため注意が必要です。
*肛門周囲膿瘍:肛門陰窩(こうもんいんか)と呼ばれる部位から細菌が入り込み感染を起こすことを原因として発症する
間質性肺疾患を早期発見するために患者さん自身ができることは、毎日の生活の中で何か変化はないか気付くことです。たとえば、関節の調子はよいのに階段をのぼるスピードが遅くなった、普段通っているスーパーまで行くのに時間がかかるようになったなど、これまで当たり前にできていたことができなくなったことにいかに早く気付くかが重要です。息切れと感じるほどのことではなくても「少しおかしいな」と感じることがあれば、ためらわずに医師に伝えていただきたいと思います。
近年、関節リウマチの治療薬として多様な生物学的製剤や低分子化合物が次々と登場していると同時に、間質性肺疾患の進行の抑制が期待できる薬剤も開発されています。このような目覚ましい治療法の進歩によって、関節リウマチやそれに伴って起こる臓器の病気は、適切な治療を受けることでコントロールできる可能性があります。
そのため、何らかの症状で日常生活に支障をきたしている場合には、なるべく早く主治医に相談してみてください。また、繰り返しになりますが、日常生活の中でいつもと少し違うと感じた場合も、一度主治医に相談していただくことをおすすめします。
関節リウマチは、関節だけではなく全身にさまざまな影響を及ぼす病気です。ある症状の原因が体の思わぬところに隠れている場合もあります。適切な治療につなげるためにも、主治医とよくコミュニケーションを取ることが何よりも重要ですので、不安なことがあればぜひ医師に伝えてみてください。また通院は自己判断で止めないようにしましょう。
日本呼吸器学会・日本リウマチ学会合同委員会『膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020』メディカルレビュー社,2020.
慶應義塾大学医学部 リウマチ・膠原病内科 名誉教授
竹内 勤 先生の所属医療機関
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