関節リウマチは免疫の異常によって関節に炎症が起こり、痛みや腫れが生じる病気です。進行すると関節の機能が侵され、変形や機能障害に至ることもあり、早期発見・早期治療が大切といわれています。今回は浜松医療センター 膠原病・リウマチ内科部長の髙取 宏昌先生に、治療の流れや病院の取り組みについてお聞きしました。
関節リウマチとは何らかの原因で体の免疫が自分の関節を攻撃することにより、関節の中の滑膜に炎症が起こり、体中、特に四肢の関節に腫れや痛み、こわばりが現れる病気です。
日本には82.5万人ほどの患者さんがいると推定されており、150人に1人程度の発症率と考えられます。男女比は1:3で女性に多く、中でも40〜60歳代で発症する方が多いようです。
浜松医療センターでは2023年6月現在、関節リウマチの外来患者さんは240人ほどいらっしゃいます。また、新規患者さんは年間80人ほどで、約7割が女性、平均年齢は約70歳と、高齢の女性が多い現状です(2022年4月〜2023年3月のデータより)。
女性に多い理由はいまだ解明されていませんが、女性ホルモンの影響や自己免疫が活性化しやすいことが関係していると考えられています。
高齢の方の発症が多い理由として、免疫のバランスの維持が加齢とともに難しくなり、炎症や自己免疫異常が起こりやすくなることが挙げられます。また、喫煙の習慣や歯周病などがリウマチの発症リスクを上げることが分かっており、長年の生活習慣の積み重ねが関係しているようです。
関節リウマチは遺伝要因と環境要因が重なって発症すると考えられています。環境要因としては前述のような喫煙、歯周病のほかに感染症や外傷があります。骨折した箇所に炎症が起きたことがきっかけとなりリウマチを発症する方もいます。
関節の炎症が進行すると数年で関節が破壊され、その後の回復は難しいといわれています。関節破壊が進むと介護が必要になる可能性が高くなります。また、炎症が長く続くことにより糖尿病や動脈硬化、脳卒中、心筋梗塞のリスクが上がるともいわれています。診断がついた時点でなるべく早く治療を開始することが重要です。
関節リウマチの初期の症状として手足の関節の痛みや腫れ、こわばりが挙げられます。ものを掴みにくい、家事をするのが大変という状態から始まり、関節の炎症が進行すると腕が上がらなくなって洗髪や着替えが難しくなるなど、生活に支障をきたします。さらに進行するとベッドから起き上がることや歩くことが難しくなり、寝たきりに近い状態になる方もいます。
関節リウマチの病状が悪く、強い炎症がある、高齢である、臓器の機能が低下しているといった場合には、だるさや微熱、食欲不振や体重減少などの全身症状が現れることがあります。また、咳や息苦しさの症状が現れる間質性肺疾患を合併することもあります。
手足の指の痛みやこわばりが6週間以上続き、なかなかよくならないと感じたら病院への受診を考えていただければと思います。また、痛みがさほど強くなくても、関節リウマチ特有の腫れには注意が必要です。手足の関節にブヨブヨとした腫れがある場合は放置せずに受診するようにしてください。
関節リウマチは基本的に、2010年にアメリカリウマチ学会とヨーロッパリウマチ学会が定めた分類基準に基づいて診断を確定します。腫れや痛みのある関節が何か所あるか、炎症反応検査の値が上昇しているか、リウマトイド因子や抗CCP抗体の自己抗体があるか、症状が6週間以上続くかを点数化し、6点以上あれば関節リウマチとの診断に至ります。
ただし、痛みがあっても関節があまり腫れてない場合もあり、分類基準だけで診断するのは難しいこともあります。その際は関節エコーや造影MRI検査を行い、滑膜炎や腱鞘滑膜炎が関節の中や関節の周囲にあれば関節リウマチと診断します。
関節リウマチ治療のゴールは、臨床的寛解*・構造的寛解・機能的寛解を達成し維持していることです。それぞれ、関節の腫れや痛みを取ること、関節破壊の進行を抑えること、身体的機能を維持することを意味します。これら3つの寛解を目指すため、薬物療法・リハビリテーション療法・手術療法・基礎療法の4本柱で治療を行います。
*寛解:治療により症状が落ち着いて、病気の勢いがほぼ消えている状態のこと
治療の中でメインとなるのは薬物治療です。まず、関節リウマチ治療におけるアンカードラッグ(中心的役割を担うもっとも重要な薬)とされているメトトレキサートを使用します。吐き気などの消化器症状、口内炎、肝機能異常、だるさや倦怠感といった副作用がありメトトレキサートを使用できない場合には、そのほかの抗リウマチ薬を使用します。また、もともと肺や腎臓、血液に障害があり、メトトレキサートの使用により合併症のリスクが高くなる患者さんの場合にも、そのほかの抗リウマチ薬を使用します。
メトトレキサートやほかの抗リウマチ薬を使用しても効果が得られない場合には、生物学的製剤やJAK阻害薬の使用を検討します。生物学的製剤は生物から産生されるタンパク質を用いて作られる治療薬で、皮下注射や点滴で投与されます。炎症や免疫異常を引き起こすサイトカイン*などの特定の物質に作用し、関節の炎症や破壊を抑える効果が期待できます。JAK阻害薬は免疫細胞内でサイトカインによる刺激の伝達を阻害し、免疫の反応を低下させることにより関節の炎症を抑える治療薬です。生物学的製剤、JAK阻害薬のどちらも免疫のはたらきに影響を与えるため、副作用としてまれに気道感染や尿路感染などの感染症を発症する場合があります。また、特にJAK阻害薬を使用した場合には帯状疱疹**を発症する可能性が高いことも分かっているため、不活化ワクチンを接種して予防したうえで治療薬を使用するなどの配慮が必要です。
*サイトカイン:細胞間の情報伝達を行うタンパク質
**帯状疱疹:神経に沿って痛みや発疹(ほっしん)が現れるウイルス性の病気
薬物療法が関節リウマチ治療のメインではありますが、それだけでは寛解に至らない方もいらっしゃいます。全ての患者さんが寛解できるよう、今後も新しい薬の開発が期待されますが、薬の効果を高め、副作用を防ぎ、なるべくよい状態を維持することもとても重要です。そのため、基礎療法やリハビリテーション療法を組み合わせて行う必要があります。また、薬物療法で症状が改善した場合も基礎療法やリハビリテーション療法を行うことで、健康な状態をより長く保つことができると考えています。
さらに、関節変形が進行し、関節の機能が回復しない場合は、整形外科の先生に手術療法をお願いすることもあります。
それぞれの治療法の特徴は以下のとおりです。
基礎療法とは、患者さんご自身が関節リウマチを正しく理解したうえで日常生活を管理する治療法です。適度な運動、十分な休息、バランスのよい規則正しい食事、冷えや湿気への対策などが含まれます。
リハビリテーション療法には運動療法や理学療法があります。リウマチ体操などの運動療法により関節の機能を維持したり、温熱療法などの理学療法により痛みの緩和を目指したりします。
近年は治療薬の進歩や早期治療によって関節の破壊まで至ることは少なくなり、手術を必要とされる方も減少しているようです。しかし中には、長い期間関節リウマチを患ったことにより、関節の炎症が進んで機能に障害が出ている患者さんもいます。関節の機能が失われた患者さんの場合は、手術療法により症状の改善を図ることができます。
手術には、炎症が起こっている滑膜を切除して炎症を抑える滑膜切除術や、傷んだり変形したりした関節を人工のものに入れ替え機能を回復させる人工関節置換術などがあります。手術療法の技術や使用する材質も近年進歩し、指関節の置換や、腱の断裂をつないで整復し見た目を美しく動きをスムーズにする細かな手術も行われるようになりました。
当科ではX線検査で骨の変形や破壊の進行を認めた患者さんには、滑膜切除術や人工関節置換術などの手術療法を整形外科と連携しながら行っています。
慢性期で全身症状がなく、炎症が極端に強くない患者さんには4つの柱となる治療法のほかに温泉療法をおすすめしています。温泉療法が関節リウマチにおいて痛みや機能障害を改善させるとする論文がいくつかあり、薬物療法を補い機能障害を予防する意味で温泉療法には効果があるようです。温熱により関節が動きやすくなる、痛みが和らぐ、精神的にリラックスできるといった、複合的な効果が期待できます。
私個人としても日本温泉気候物理医学会認定の温泉療法医の資格を取得して勉強しています。入院中の患者さんにも「こういう入浴剤を使うといいですよ」とお話しながら温泉療法をおすすめしています。
当院では、関節リウマチに大切な治療法を効果的に導入して継続できるよう、2泊3日の教育入院のプログラムを行っています。入院中は当院が作成したパンフレットに基づき、薬物療法中の感染症対策や関節に負担をかけない動作について看護師が指導します。また、患者さんご自身が関節リウマチへの理解を深めていただけるよう、院内の多職種のスタッフと連携し指導を行います。具体的には、管理栄養士による食事の指導、理学療法士によるリウマチ体操の指導、歯科による口腔ケアの指導、病棟薬剤師による服薬指導などがあります。病気のことを正しく知って治療に対するモチベーションを上げていただくためにも、ぜひ多くの患者さんに参加していただきたいと考えています。
私自身に幼少期からアレルギー体質があったこともあり、学生時代から自己免疫疾患やアレルギーなどの免疫疾患の診療をしたいと思っていました。大学卒業後は千葉大学医学部附属病院第二内科の免疫アレルギーグループ(現在のアレルギー・膠原病内科)に入局し、アメリカへの留学なども経験しながら、臨床医と研究者を並行しながら免疫細胞の分化やサイトカインシグナルなどの基礎研究に取り組んできました。特に近年、関節リウマチにおいてはそのような基礎免疫学の研究成果がそのまま臨床や治療に応用されることが多くなり、これからの関節リウマチの診療に大変可能性を感じています。この領域がどんどん進歩しているということも、今も診療に携わるモチベーションになっています。
診療する際にはまず、患者さんがなるべく早く元の生活に戻り、その状態を維持できるようにするためにはどのような治療が適切かを考えることを大切にしています。また、治療薬の副作用が出た場合、無理にその薬を継続するのではなく早めに変更し、患者さんがつらい思いをし続けることがないよう心がけています。今は治療薬の選択肢もだいぶ増えているので、患者さんに合った薬に落ち着くまでは頻繁に診療するようにもしています。
治療の結果、患者さんが元の生活を取り戻し、“テニスやゴルフがまたできるようになった”“旅行に行くことができた”といったお話を聞くことができるととてもうれしいです。また、妊娠してお子さんが生まれたなど、患者さんの人生の節目についての話を聞くことができたときも関節リウマチの診療をしていてよかったと心底思います。昔なら患者さんが諦めていたことも治療の進歩により諦める必要がなくなり、健常の方と同じ生活を送ることができるようになってきたと思うと、感慨深いものがあります。
治療薬の選択肢は増えましたが、新しく登場したJAK阻害薬や生物学的製剤を使用しても症状が改善しない患者さんが一定数います。そのような患者さんのために新しい治療薬が出ることを期待しています。また、どのような薬を使っても副作用が出てしまう患者さんもいらっしゃるため、副作用のなるべく少ない薬が開発されるとよいと思います。
また、よい治療薬は高額になる傾向があり、患者さんの中には経済的な理由で使用に踏み切れない方や使用を諦める方もいます。リーズナブルでよい治療薬ができればというのが臨床医としての願いでもあります。
私が研修医になったときは、関節リウマチは手の施しようがない病気、医師にとっては診療に携わりたくない病気といわれ、医師であっても患者さんのつらい思いに耳を傾けることしかできませんでした。それがこの10年、20年で新しい治療薬の開発や治療方針の変化などにより一変し、関節リウマチであってもきちんと治療すれば、今まで諦めていた暮らしを目指せる時代になりました。
関節リウマチ研究の進展や治療薬の開発により今後もさまざまな薬が出てくる可能性が高く、たとえ今症状がよくならなくても近い将来必ず改善すると期待しています。昨今のAIによる医学への貢献を考慮すると、関節リウマチ治療は今後の10年、20年でさらに発展するのではないかと思います。
関節リウマチの早期発見のため、気になる症状があれば早めに医療機関を受診し、早めに治療を開始しましょう。そうすることで1人でも多くの方に健康的な生活を長く送ってほしい、そう願っています。
浜松医療センター 膠原病・リウマチ内科 部長
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