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関節リウマチ診療で大切なこと――患者さんそれぞれに合わせた治療を

関節リウマチ診療で大切なこと――患者さんそれぞれに合わせた治療を
喜瀬 高庸 先生

地方独立行政法人 那覇市立病院 腎臓・リウマチ科 科長

喜瀬 高庸 先生

目次
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関節リウマチは、免疫の異常によって関節に炎症が生じる病気です。主な症状は関節の痛みや腫れなどで、体の左右対称に現れることが多いのが特徴です。治療せずに病気が進行すると、関節の変形や機能障害をもたらし日常生活に支障が出る可能性があるため、早期診断・早期治療によって進行を抑えることが大切になります。

那覇市立病院 腎臓・リウマチ科 科長の喜瀬 高庸(きせ たかやす)先生は「沖縄県のリウマチ膠原病(こうげんびょう)診療の発展に貢献したい」という思いで、日々の診療にあたられているそうです。今回は先生に、関節リウマチの症状や治療、診療におけるモットー、力を入れている取り組みなどについてお話を伺いました。

関節リウマチは、関節に炎症が起こることによって関節に腫れや痛みなどの症状が現れる病気です。本来はウイルスや細菌など外敵から身を守るためにはたらく“免疫”のバランスが崩れ、誤って自分自身の体を攻撃するようになり発症に至るといわれています。このような免疫の異常によって起こる病気を“自己免疫疾患”と呼び、関節リウマチはその1つです。

原因は解明されていませんが、何が起こっているのかについては徐々に明らかとなってきており、発症につながるリスク因子として、遺伝要因と環境要因があることが分かっています。

遺伝要因については特定の遺伝子、特にHLA-DRB1が関節リウマチの発症リスクを高めるとされています。患者さんにこういった遺伝に関するお話をすると「自分の病気が子どもに遺伝するのではないか」と心配される方もいらっしゃいますが、関係する遺伝子があるからといって必ずしも発症するわけではありません。

一方、環境要因には喫煙歯周病などがあります。歯周病の炎症や、喫煙による肺・気道での炎症が体の中に異常なタンパク質を発生させ、それが蓄積されることで関節リウマチの発症につながるといわれています。

関節リウマチは女性の発症が多く、男性に比べて女性の罹患人数は4倍ほどになるといわれています。特に40〜60歳代の女性に多くみられるのが特徴です。また、日本全体の高齢化の影響なのか、最近では高齢の方の発症が増えてきています。

関節リウマチの主な症状は関節に現れますが、それ以外の場所に症状が現れることもあります。

発症初期に起こりやすい症状には、関節のこわばり(動かしづらい状態が特に朝に強い)や、痛み、腫れがあります。これらの症状は、手首の関節やMCP関節(手指の付け根の関節)に左右対称に現れることが多いとされていますが、肘や肩、膝、足首、MTP関節(足の指の付け根の関節)などあらゆる関節に出る可能性があります。また、必ずしも左右両側に症状が現れるわけではなく、片側のみといった場合もあるでしょう。

治療せずに病気が進行すると関節の変形や腫れが強く現れ、四肢の関節が曲げられない、あるいは伸ばせなくなるといった状態を引き起こす可能性があります。このような状態になると、指輪の着け外し、衣服の着脱、箸でご飯を食べるといった日常動作にも支障が出るようになります。

ただし近年は、発症早期にしっかりと治療すれば、症状が起こらないようにする、あるいは進行してから現れる症状を遅らせられるようにコントロールでき、同年代の人と同等の生活の質(QOL)が目指せるようになっています。

関節リウマチでは、関節以外の臓器に生じる症状や合併症にも注意が必要です。慢性的な炎症が続くこの病気では、全身の倦怠感や微熱、食欲低下といった全身症状に加えて、目、肺の症状や、皮下に生じるリウマトイド結節(けっせつ)(しこりのこと)などが現れることがあります。このような関節外症状は、疾患活動性(病気の勢い)が高い患者さんに起こりやすいという特徴がありますが、治療によって病気をコントロールしやすくなった近年は、発生頻度は少なくなっていると感じます。

また、関節外の合併症として多いものに間質性肺疾患*があり、発症すると空咳(からせき)や労作時の息切れなどの症状を自覚することがあるでしょう。ただし初期には症状がはっきり現れないことが多く、早期発見のためには外来受診時の聴診だけでなく、X線検査やCT検査など、定期的な画像検査を受けることが大切です。

*間質性肺疾患:肺の中の肺胞(はいほう:袋状の組織)の壁に炎症を生じる病気。

症状の進行や合併症を防ぐためには、早期発見と継続的な治療がとても大切です。関節リウマチの早期発見につながるような、特に注意すべき症状に“朝のこわばり”があります。これは、朝起きたときに関節を動かしづらく感じるような状態のことです。

朝のこわばり自体は関節リウマチ以外の病気、たとえば変形性関節症などでもみられますが、その持続時間に違いがあります。変形性関節症では30分未満で治ることが多いですが、関節リウマチで関節に炎症が起こっている場合には、1時間以上など症状が改善するまでに時間がかかることが多いのが特徴です。症状とともに、持続時間も早期発見のためのポイントになるでしょう。

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イラスト:PIXTA

関節リウマチは、問診や身体診察とさまざまな検査の結果を組み合わせて診断します。主に行われる検査に、以下のようなものがあります。

血液検査では、リウマトイド因子や抗CCP抗体、CRP、赤血球沈降速度などを調べます。リウマトイド因子と抗CCP抗体は、関節リウマチを発症していると陽性となることが多い抗体です。

また、CRPは炎症が起こっていたり、体の細胞が破壊されたりしていると血液中に増加するタンパク質です。赤血球沈降速度では、赤血球の凝集しやすさを調べることで炎症が起こっているかを確認します。どちらも体で起こっている炎症を反映する指標で、関節リウマチの活動性の指標の一部として用いられることがあります。

X線検査では、発症初期はほとんど変化がみられませんが、病気が進行するにしたがってさまざまな所見が認められるようになります。主にみられるのは、骨びらん(marginal erosion:辺縁部侵食)といって、軟骨で覆われていない関節の辺縁部から滑膜細胞が侵食して生じる骨の変形、関節裂隙の狭小化、強直(骨と骨とが癒合してしまうこと)などです。

またMRI検査では、X線検査と比べてより鋭敏に滑膜炎の状態だけでなく骨髄浮腫をとらえることにより早期診断が可能となります。当院では、正確な早期診断につなげるため実施することがあります。

関節超音波検査は、X線検査と比べてより早期から関節の炎症をとらえることができるため、診断に有用な検査といえます。関節の炎症の有無や活動性だけでなく、解剖を網羅的に把握するうえで、身体的にも費用的にも患者さんの負担を抑えながら検査することが可能です。

関節リウマチの治療には、主に薬物療法、手術、リハビリテーション(以下、リハビリ)、生活指導があります。

治療の中心は薬物療法です。多くの患者さんは、免疫抑制薬のアンカードラッグ(中心的役割の薬)であるメトトレキサートで治療を開始します。またメトトレキサートの有効性が確認できるまでのブリッジング治療として、当院では副作用に注意しながらグルココルチコイド(筋肉注射、関節内注射、内服など)を併用する例もあります。メトトレキサートが使用できない場合には、サラゾスルファピリジンやレフルノミドで治療を開始する場合もあります。

3か月程度たっても効果不十分な場合には、生物学的製剤やJAK阻害薬を用いた治療を検討します。生物学的製剤は遺伝子組み換え技術や細胞培養技術を用いて製造された薬で、点滴や皮下注射で投与します。特定の分子を標的とすることで高い効果が期待できる点が特徴です。生物学的製剤で治療を行う場合、免疫の機能を抑えるため感染症への注意が必要となります。肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンなどは、タイミングに留意しながら接種することが望ましいでしょう。また、高熱や悪寒戦慄、呼吸器症状(咳・痰・息切れ)、膀胱炎症状(排尿時痛・残尿感・頻尿)、皮膚の発赤・腫脹・疼痛(とうつう)や皮疹、腹痛などが出現した場合には、敗血症、カリニを含む肺炎や結核尿路感染症蜂窩織炎(ほうかしきえん)帯状疱疹(たいじょうほうしん)憩室炎などの感染症の可能性を考え、すぐに受診することが大切です。

JAK阻害薬は、ヤヌスキナーゼ(JAK)という酵素のはたらきを阻害することで炎症を抑える飲み薬です。生物学的製剤と同等に高い効果が期待できますが、生物学的製剤と同様に免疫の機能を抑えてしまう薬でもあるため、同じような感染症の可能性があり注意が必要です。さらにJAK阻害薬の場合は、特に帯状疱疹(痛みやかゆみを伴う赤い発疹(ほっしん)水疱(すいほう)が体の左右どちらかに出現することが多い病気)に気をつけてほしいと思います。

高齢の患者さんに対して飲み薬による治療を行う場合には、薬を飲み忘れたり、反対に薬を飲み過ぎたりしてしまうことがあります。服薬管理ができなくなると、病気のコントロールが難しくなってしまうだけでなく、有害事象のリスクも高まるため、私は患者さんに「お薬はどれくらい余っていますか」と積極的に声がけをして状況を確認するようにしています。

関節の変形で日常生活に大きく支障が出ている場合や、変形性の痛みが強い場合には、手術を行うことがあります。近年は、手足の指など比較的小さな関節に対する手術が増えてきており、一例として足の指を整えたり矯正したりするような手術があります。

病状が落ち着いている場合には、少しずつでも毎日リハビリを続けることが生活の質(QOL)を維持するために大切です。筋力が落ちてしまうと、たとえばベッドから立ち上がるのにも苦労するため、筋力をつけたり関節を動かしたりする訓練をしておく必要があります。

また、関節の変形や拘縮(こうしゅく)(硬くなること)で動かしづらい場合には、入浴などで温めながらリハビリを行うことも効果的でしょう。私は、入浴中や入浴後にストレッチを行うようおすすめすることもあります。

関節リウマチでは、お話ししたような治療に生活面での工夫を組み合わせることも大切です。特に関節リウマチの発症リスクとして知られる喫煙は、発がんリスクなども上がるため、関節リウマチの患者さんには禁煙するようお伝えしています。また、メトトレキサート使用中に飲酒量が多いと肝障害が出やすくなるので、控えるようにお話ししています。

私は、地元で関節リウマチの診療に関わりたいという思いを抱いていました。沖縄県は医療過疎の地域もあり、関節リウマチを専門にする医師も少ないと感じていたからです。地元のリウマチ膠原病診療を発展させるため、関東の病院で経験を積んだ後こちらに戻ってきました。

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写真:PIXTA

関節リウマチの診療では、できるだけ患者さんのQOLを維持するよう努めていますが、同じ病気であっても、生活スタイルや症状のある部位、治療に対する希望などは患者さんごとに異なります。たとえば、痛みを早く取るために治療費がかかってもよいと考える方もいれば、金銭的な負担を軽減させることを優先する方もいらっしゃいます。その患者さんがどのようなことで困っているのか、あるいはどのようなことを求めているのか、できるだけ個別の希望をくみ取ることをモットーに日々の診療にあたっています。

これまでに担当した関節リウマチの患者さんの中で特に印象に残っているのは、重い症状があり日常生活に支障が出るようになった方です。その方は関節変形や腱断裂により手を使うことが難しく、箸を持つこともできなくなっていました。薬物療法を続けながら外科の先生と相談して手術を行った結果、状態が改善しQOLの向上につながったのです。その方に感謝の気持ちを伝えていただいたときには「関節リウマチの診療に携わっていてよかった」と充実感を抱いたことを覚えています。

今後は、沖縄県の関節リウマチ診療を盛り上げていくうえで、県内の関節リウマチを専門とする先生方、専門看護師さんや超音波検査に携わる検査技師さんとの連携や、後進の育成にも取り組みたいと考えています。

関節リウマチ診療において現在、特に私が力を入れている取り組みがあります。

まずは、関節超音波検査の積極的な利用です。関節リウマチの診断や活動性の評価はもちろんですが、超音波を活用した治療や、関節リウマチ以外の病気の可能性を評価するためにも、私自身勉強中の身ではありますが今後はさらに関節超音波検査の活用と普及に力を入れていきたいと考えています。

また、関節リウマチの患者さんには若い女性も少なくありませんので、妊娠・出産を希望する方たちをサポートするよう努めています。妊娠を希望している患者さんには、妊娠前に治療によって病気の炎症を抑えることで妊娠経過を安定させ、産後の病状の悪化を防ぐ重要性を伝えるようにしています。また、使っている薬が胎児に影響があるのではと不安に思う妊婦さんも少なくありませんので、そういった薬の説明もしっかりと行うようにしています。

先方提供

これからの時代は、個別化治療が中心になってくるでしょう。関節リウマチの患者さんは、不安を感じていたり、痛みなどの症状で困っていたりする方が多いと思います。しかし早くから積極的な治療を行っていくことで、関節リウマチではない方と同じような生活を送ることが期待できます。

できる限り不安を解消できるようサポートしていきますので、生活で困っていること、やってみたいことなど何でも相談してください。

提供:大正製薬株式会社

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