人工膝関節置換術は、膝の関節を人工関節に置き換える手術です。変形性膝関節症の手術の中でも、膝に与える影響がもっとも大きく、病気が進行して歩行が困難な場合などに検討される最終的な手段となります。手術のリスクとなるほかの病気がある場合の治療や、手術中に起こり得る問題への対策について、病院ではさまざまな工夫を行います。
今回は、人工膝関節置換術の方法や、人工関節を入れる場合のリスクと対策について、国立国際医療研究センター病院の整形外科診療科長・人工関節センター長である桂川陽三先生に伺いました。
人工関節置換術は、骨の表面を約1cm削り、大腿骨と脛骨に、金属の人工関節の部品を入れる手術です。隙間には、軟骨の代わりにポリエチレンというプラスチック素材を挟んで、なめらかに動くようにします。
人工関節置換術は、日本全体で1年間に8万5千件ほど行われており、広く知られている手術のひとつです。ただし、人工関節置換術を行う場合、本当に変形性膝関節症で手術を必要としているのか、正確な診断が重要です。たとえば、腰や股関節などに原因があるにもかかわらず、膝の病気だと勘違いして人工関節置換術を実施してしまうケースもありますが、それで症状が改善するわけではありません。人工関節置換術を受けた患者さんの中には「手術したのに痛みがよくならなくて困っている」という方もいらっしゃいます。
人工関節置換術は、変形性膝関節症の治療の中でも最終的な手段です。本当に手術すればよくなるのか、本当に膝が悪いのかということを、事前にしっかりと見極めることが重要だと考えています。
人工膝関節置換術は、健康保険が適用される手術です(平成30年診療報酬点数より)。自己負担額は高額になるため、月々の限度額を超過した分は、高額療養費制度に基づき払い戻しが受けられます。後期高齢者(75歳以上)を例に挙げると、入院の際の自己負担金額は、およそ10万円以下になります。
人工膝関節置換術を行うとき、もっとも発生する確率が高いのは細菌感染です。手術中に細菌がつくこともありますし、手術後に体のほかの部分から血流に乗って細菌がつくこともあります。一度細菌感染が起こると、体内で殺菌するということは非常に難しいため、体内に入れた金属の部品を取り除いてから抗生物質で治療したあと、再手術することになります。細菌感染は人工関節置換術の問題点のひとつです。
細菌感染を予防するため、人工膝関節置換術をするときは、手術室の中でも一番清潔な「クリーンルーム」で行います。また、手術の時間が長くかかるほど細菌感染のリスクが高くなるので、手術はできるだけ早く終えることを心掛けます。
手術中だけでなく、手術後のリハビリや看護も含めて、手術に慣れたスタッフの協力が欠かせません。国立国際医療研究センターで人工膝関節置換術を行うスタッフは、国内外の学会に参加したり、多くの手術を経験している施設を見学したりして、新しい知識や技術を取り入れることを常に心掛けています。そして、できる限り患者さんの体に影響を与えないように注意して、人工膝関節置換術を行っています。
人工膝関節置換術は、金属の人工関節の部品を骨にくっつけて行う手術です。手術後のリスクとしては、骨と金属の間が徐々に、あるいは手術後間もないうちに緩んでくる可能性が挙げられます。
膝は、細長い2つの骨が組み合わさっている関節であるため、骨と骨を結ぶ靭帯が手術中に何らかの原因で切れたり伸びたりすると、関節がぐらぐらしてくる危険性があります。また、人工関節のサイズが合っていない場合、緩みが起こる可能性や、硬くて動きが悪くなる可能性もあります。
人工関節の手術では、患者さんの骨にぴったりの部品を入れる必要があります。使用する人工関節の機種については、あらかじめ患者さんの年齢や活動性などを考慮して、2~3種類の中から選択します。そして、レントゲン(X線)検査の結果をもとに、患者さんの骨の太さや形にもっとも適した部品を決めておきます。最終的に大きさを決定するのは手術の最中ですが、あらかじめ大体のサイズを調べておくことが重要です。
CT検査やMRI検査などのさらに詳しい検査をすることもありますが、基本的にはレントゲン検査を行います。
金属アレルギーのある患者さんが人工膝関節置換術を選択する場合、非常に慎重な対応が求められます。金属製の部品を体内に入れると、皮膚にじんましんのような発疹が出たり、縫ったところが治りにくくなったりと、さまざまな症状が現れてしまうためです。
金属アレルギーの可能性が考えられる患者さんの場合は、あらかじめ、金属の成分を皮膚に貼り付けて行うパッチテストという検査で、アレルギーが本当にあるのかどうかを調べ、それから手術することになります。
ただ幸いなことに、本当に金属アレルギーがある患者さんは非常に少ないです。自分では金属アレルギーがあると思っていても、普段から眼鏡や時計を身につけているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
金属アレルギーのある患者さんは、金属製の部品を入れることができないため、金属は可能な限り使わず、セラミックとポリエチレンの部品だけを入れるという方法があります。また、金属アレルギーがある患者さんでも、チタンでは症状が出ない場合が多いので、チタンとプラスチックだけを入れるという方法も検討されます。
変形性膝関節症を発症しやすい年代は、骨粗しょう症を発症しやすい年代と同じ50代以降です。そのため、変形性膝関節症の手術をするときは、どのような患者さんでも、多かれ少なかれ骨粗しょう症のみられる方が多いです。骨がどれくらい丈夫なのかについては、手術をする前に行うレントゲン検査の結果や、普段の生活習慣に関する問診で、たとえば「あまり歩く機会がない」というような回答を得られることで、大体の予測をすることができます。
骨粗しょう症で骨が弱くなっていることが予想される場合、手術はなるべく衝撃を加えないように慎重に行います。人工膝関節置換術とは、骨を削り、人工関節をハンマーでたたいて固定する手術ですが、力を入れすぎると骨にひびが入ってしまうことがまれにあります。傷をつけることがないように丁寧な手術を心掛けます。
骨粗しょう症の治療でよく使われている薬剤は、ビスホスホネート剤という、骨をこわす細胞(破骨細胞)のはたらきを抑える薬剤です。変形性膝関節症の手術を受ける患者さんがビスホスホネート剤を使用するときは、副作用のリスクを避けるため、まずは人工膝関節置換術を行い、そのあとで骨粗しょう症の治療を始めます。
変形性膝関節症の手術を行うときは、手術の前に必ず詳しい検査を行います。そのとき、ほかの内科的な病気が見つかったら、加療により状態が安定してから手術をすることが多いです。たとえば、手術に影響を及ぼしやすい病気としては糖尿病が挙げられます。糖尿病のある患者さんは、血糖値の高い状態が続くと、細菌に対する抵抗力が弱くなって感染を起こしやすくなります。そのため、高血糖の状態が改善してから手術をするということになります。
また、国立国際医療研究センター病院では、手術が終わった患者さんにもできるだけ通院していただき、ほかの病気の治療やアフターケアも行っています。人工膝関節置換術について不安なことがあれば、遠慮なくご相談ください。
国立国際医療研究センター病院 整形外科 診療科長
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