子どもはよく転倒し、その際に頭を打ってしまうことがあります。頭を打ったとき、まず注意すべきなのは「意識があるか」という点です。言葉を話すことができない乳幼児の場合は、目の動きや泣き方から意識の状態を判断する必要があります。子どもが頭を打ったときに必ずみるべきポイントについて、自治医科大学附属さいたま医療センター救命救急センターの天笠俊介先生にお話しいただきます。
子どもが頭を打ったとき、まずは「意識の状態が悪くないか」を確認します。
意識の状態は、「目がしっかりと開いている」「声をかけたときに子どもが目を開く」「目を合わせてくれる」「話しかけたとき普段通りに受け答えができる」「(言葉が話せない乳児の場合)泣いている、あやすと泣き止む」といった点から確認できます。これらの確認を行っても反応がなかったり、反応が悪かったりして意識の状態が悪いと思われる場合は直ちに救急車を呼びましょう。
子どもが頭を打った際は下記の6点にも併せて着目します。
目を開かなければ意識の状態は悪いと考えられます。また、目を開いてもすぐに閉じてしまうような場合は傾眠(けいみん:眠りがちということ)傾向にあり、意識がはっきりしない状態です。
頭を打った場合、頭蓋内出血や頚髄(けいずい:首を通っている神経の束)損傷を合併して麻痺が起こる可能性もあるため、麻痺のチェックも重要となります。しっかりと手足を動かすことができるか確認しましょう。麻痺を起こしているか判断できない場合は、首をむやみに動かしてはいけません。
複数回にわたって嘔吐し、嘔吐が治まらない場合は脳に何らかの障害が生じている可能性があります。
たんこぶは、その部分に衝撃が加わった徴候です。前額部(おでこ)以外のたんこぶは頭の中の出血を考える危険因子の一つといわれています。「たんこぶができれば大丈夫」という情報も多々見受けられますが、これは迷信のようなものです。
打った部分が凹んでいる場合、陥没骨折(かんぼつこっせつ)をきたしている可能性があります。特に乳児の頭蓋骨は大人に比べて柔らかいため、衝撃によって凹みやすくなっています。ぶつけた箇所が凹んでいる場合は、すぐに病院を受診しましょう。
頭をぶつけてけいれんしたときは、脳が大きなダメージを受けていることがあります。すぐに救急車を呼びましょう。けいれんが先に起こり、けいれんで倒れて頭をぶつけることもあります。どちらが先に起きたかは大切な情報なので、もし確認できる場合は医師に教えてください。
一方、頭を打ったときの状況によっては自宅で様子をみていても構わないこともあります。たとえば、低い位置から転落しただけであり、意識がきちんと保たれていて、本人が普段と変わらない様子で生活していれば大きな心配はいりません。
明確な基準は定められていませんが、通常2歳未満であれば0.9m以上、2歳以上の場合は1.5m以上の高さから落下した場合は頭の中の出血リスクが上がると考えられています。ただしこれはあくまで一つの指標であり、頭を打ったときの状況や子どもの容態によって緊急性は異なります。
基本的に子どもの頭部に大きなエネルギーが加わったと想定される場合は受診が必要です。たとえば高所より墜落(どこにも当たらずにまっすぐ落ちた)した、交通事故で車と接触した、自転車で電柱に激突したなどの場合も受診してください(事故に関する詳細は記事4)。
どの程度の高さから落下したか、階段の場合は何段目から落ちたのか、床の性質は木材か、あるいはタイルかなど、頭を打ったときの状況を教えてください。スマートフォン等で撮影した事故現場の写真も有用な情報になります。
頭を打った直後、子どもが泣いたかを含めた意識の有無、嘔吐症状の有無、吐いた場合は何回嘔吐したかなど、子どもの様子をなるべく具体的にお話しください。また、「頭を打ってから子どもの様子がいつもと違う」「普段と異なる言動がみられる」など、何かが変だと感じた場合は、あわせて医師に伝えましょう。
頭を打ったあとも子どもの意識の経過や頭痛の有無などを慎重にみていきます。特に、頭を打ったあと4時間は急激に容態が悪化する可能性があるため、子どもが寝てしまった場合でもたまに声をかけて起こし、反応を確認します。24時間以上たってくるとさらにリスクは低下していきます。
頭を打ったあとも注意して子どもの様子をみる必要はありますが、神経質になり過ぎる必要もないということを覚えておきましょう。
CT撮影を行うか否かについて、撮影するかどうか判断が微妙なところでは、出血・骨折のリスクと被曝のリスクを天秤にかけて判断します。このような場合、親御さんと話し合いながら決めていくことがあります。
CTを撮る・撮らないに関わらず、受傷後しばらくの間は注意が必要です。実際、時間が経ってから、頭の中の損傷を示す症状がでてくる場合も稀にあります。万が一のことを想定し、しばらくの間は子どもの様子をしっかり観察することが重要です。
一時的な意識障害や記憶障害、嘔気、頭痛、めまいが生じ、CT検査やMRI検査を行っても何の異常も見当たらなかった場合は脳震盪(のうしんとう)と考えられます。脳震盪は一時的な機能障害であり、時間が経てば脳の機能が回復して正常に戻るので心配いりません。
ただし、間もなくふたたび頭をぶつけてしまうと脳に重大なダメージが与えられ、脳に後遺症が残ってしまう場合があるという報告もあります(セカンドインパクトシンドローム:詳細は記事4『子どもが頭を打ったときに見逃してはならない重症疾患―痙攣や意識障害がある場合はすぐに病院へ』)
「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。
【先生方の記事が本になりました】
自治医科大学附属さいたま医療センター 救急科助教
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